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血まみれ輪舞曲(ロンド)  作者: 如月 一
1/6

序曲 贄の宴

美加(みか)、美加、美ィー加ァー」

肩をつつかれて美加はようやく我に返る。

「え、なに、あれ、克美(かつみ)

え、あれ、なに、なに」

「なに、なに、じゃねーよ。

それはこっちのセリフ。

なにボーッとしてんの。

もうすぐ出番だよ」

「あれ、あたし何してたんだろ」

克美はジトッとした目で美加を見る。

赤いアイシャドウとルージュが黒いロングヘアと色白の肌に映える美少女だ。

美加もロングヘアだが、こちらは明るいブラウンでややウェーブがかかっている。

大きな瞳と小さな口が愛らしい。

「はーあ、目ェ開けて寝てた?

馬鹿言ってないで行くよ。時間だ」

克美は美加を立たせ素早く衣装をチェックする。

黒を基調にしたステージ衣装。同じものを克美も着ている。

二人の違いは前の開いたロングスカートから見えるミニのスカンツ、腰のベルトと首もとのチョーカーの色だ。美加は薄紫、克美は赤と色分けされている。

「ちょっとぉ、大丈夫?」

まだシャキとしない表情の美加を出口の所まで引っ張って行く。

出口には、二人の女の子が待っている。

二人も美加達と同じ衣装を(まと)っている。こちらもアイテムで色分けされている。

オレンジ色が彦○(ひこまる)

ブルーが九十九(つくも)、愛称つくちゃんだ。

「それじゃ、行くよ」

克美の合図で楽屋を出て細い廊下を進む。

廊下の突き当たりに一人の男が立っていた。美加達に気づくと、手で待機の指示をする。

廊下の先には急な勾配の階段が上に続いている。

リズミカルな音楽と歌声、そして、人々の歓声が聞こえてくる。

階段を登り、更にドアを一つ抜けるとそこはステージがある。

そこで歌う事を思うと美加の心臓は緊張で高鳴り、さっきまでのモヤモヤは霧散する。

音楽が終わると一際大きな歓声が上がる。

(終わった。)

金色のキラキラした衣装に身を包んだ三人の女の子達が階段を駆け降りてくる。

ゴールデンハニーズ、美加達が所属する事務所の後輩ユニットのメンバー達だ。

「お疲れ様でした」

「お疲れー、頑張ってー」

「終わりました。頑張って下さい」

すれ違いながら挨拶をかわす。

「行こっか」

美加達は階段を駆け上る。

ステージ裾の小さな空間。

そこに待機するスタッフからマイクを受け取り、出番のタイミングを伺う。

美加はそっとステージを覗く。

ステージの照明は落とされている。

観客の入りは正確にはわからないが気配はビンビン伝わってくる。

心臓がバクバクと音を立てる。

何時もそうだ。

今、この瞬間が一番緊張するのだ。

ダン ダン ダン ダン

ダダ ダン

ダダ ダン

突然、体を震わせる大音響がステージ全体に響き渡る。

同時に照明が激しく明滅を繰り返す。

赤 青 白

赤 青 白

克美、美加、九十九、彦○の順番でステージに出る。

四人がステージに横一列に並んだ所で照明が消え、音楽も()む。


《あーあー 愛してるのにー》


克美が無伴奏で歌い出す。

と、同時にスポットライトが克美に当たる。


《あーあー 愛してるのにー》


美加が続く。ステージに浮かび上がる美加と克美。

一拍おいて九十九、彦○が声を歌う。


《《 だーかーら 》》


ステージ全体の照明が点灯し四人の姿が露になる。


《《《《 あなたをー コロス わ 》》》》


ステージ全体を震わす大音響が戻ってくる。

ホワァーイ

ホワァーイ

ホワァーイ

ホワァーイ

観客が掛け声と共に白、赤、青、色とりどりのライトを薄暗い観客席に掲げる。


《《 好きだと 言ってた 》》

《《 嘘じゃないと 言ってた 》》

《《《《 夏の 約束 》》》》


ステージのほんのちょっと先、一段低くなったところ、そこが観客席だ。

観客席といっても椅子があるわけではない、コンクリートがむき出しのただの床。

そこで沢山の人達がライトを片手に踊り、声援をあげている。

それが自分達に向けられている事を美加は知っている。


《《 嘘だと 知ってた 》》

《《 駄目だと 知ってた 》》

《《《《 夏の 思い出 》》》》


歌いながら踊る人達の中から見知った顔を見つける。

(ありがとう、来てくれたんだね)

(いた、いた。来るって言ってたもんね。好き!)

心の中で感謝する。

いつも応援してくれる人達の顔は見つけられただけで凄いパワーを貰えるのだ。

それは他の三人も同じだろう。


《《 沈む太陽 赤く染めてる 》》

《《《《 空も 海も 》》》》

《《《《 砕け散った 大切なものは 》》》》

《《《《 もう 戻らない 》》》》

《《 紅く染まった 》》

《《 血のように 染まった 》》 

《《《《 白い砂浜 》》》》

《《 砂に 埋もれた 》》

《《《《 ビーチボーイ 》》》》

《《 砂に 埋もれた 》》

《《《《 ビーチガール 》》》》


音楽が止み、歓声が上がる。

「ありがとうございます。

さっきぶりーーの人も、初めてましてーーの人も、今夜は来ていただきありがとうございます。

『アブビニベーザ』、リーダーの美加です。

まずはデビュー曲の『血まみれサマービーチ』聞いていただきました。

それでね。次の曲に行く前にメンバー紹介とちょっとした報告しますね。

それじゃ、カッちゃんから」

「はーい。皆さん、本日は、お越し頂きありがとうございます。裏リーダーの克美でーす」

美加の右隣に立つ克美が後を引き取る。

「ユニット名、覚えにくい、言いにくいんで、初めての方は無理に覚えなくて良いです。アブビニとか、アブベーとか呼んで下さい。

隣のリーダーも未だに言い間違えるんで」

「んなことしないよ」

「いや、こないだアブビニベーゼって言ってた。

ベーゼちゃう、ベーザや」

観客からクスクス笑いが起きる。

「それで、今月末と日曜日、プールで何と単独ライヴします。水着です」

観客からオーというどよめきが起きる。

チェキ、チェキと云う声もそこここで上がる。

「えっと、チェキはないかな。

え!有るかも?」

戸惑う克美の後を彦○がフォローに入る。

「有るかも。

新曲のCDお買い上げの方の特典にするって守銭奴、いや、いや

、社長が言ってたような」

観客から笑いが起きる。

曖昧な笑みを美加は浮かべながら、水着かぁ~と内心思った。克美の方をチラリと見る。

克美は水着ライヴもかなりごねていたからチェキにどんな反応をするか心配だった。だが、表情からは心の内は読み取れなかった。

「ここで嬉しいお知らせです」

九十九が後を続ける。

「わたしたちの新曲が出ます。

あれ、嬉しいの私たちだけ?」

一呼吸おいて拍手が起き、九十九は満足に頷く。

「ありがとう~。

血まみれシリーズ、第2段で、『血まみれ輪舞曲(ロンド)』です。

実は、本日がお披露目です。

最後に歌うので最後まで楽しんでいってください」

「じゃ、次の曲行くよー」

美加が叫ぶ。それを合図にステージが再びビートな音楽に包まれる。

ハイ、ハイ、ハイ、ハイ

手拍子が始まり、音楽に合わせてライトが踊り始める。

四人のライヴは今、始まったばかりだった。




2017/08/02 初稿

201p/11/07 一部修正、誤記レベル


これはフィクションです。

名前や団体に似通った物があったとしてもそれは偶然であり、実際とは何の関係も有りません。

この話は全て作者の創作に依るものです。

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