義兄が私と似た表情です。つまり何かしでかすと思います(ロゼッタ)
ちょっと短めです。
次の日。
パーティに向かう準備が早々に整ったので、ロゼッタは侍女たちを一度下がらせ、ひとり部屋にこもっていた。
手の中には、あの毒薬。
今日の夜パーティがあるので、今夜は服毒はできない。
この毒薬は自然死に見せかけて死ねるらしいけれど、万が一でもロゼッタが自死したと発覚すれば、王子との婚約を疎んでの自死となり、公爵家に咎がかかってしまう。
それはロゼッタの望むところではない。
毒の入手は身元がぜったいに発覚しないルートをとれたが、長時間毒を持ち歩いていれば、ロゼッタが毒を所持していたことがバレる恐れも高くなる。
さっさと毒を飲んで、ことを終わらせたいんだけど、とロゼッタはため息をついた。
その時。
ノックの音がして、ふいにドアが開いた。
「セーゲル……っ」
ロゼッタは慌てて、毒を持った手をスカートの陰に隠し、強張る顔を抑え、笑顔をうかべた。
「驚いたわ。ノックをしたからといって、返事もないまま女性の部屋の扉を開けるなんて、失礼ですわよ?」
「すまない、ロゼッタ。すこし君と話がしたかったんだ」
セーゲルはドアを抑えたまま、ロゼッタに部屋に入っていいかと尋ねる。
ロゼッタは考える間でもなく、首を横に振った。
「いくらセーゲルが立場上お兄様になっているからといって、もとは従兄ですもの。男性と二人きりになるなんて、許されませんわ。……侍女を呼び戻しますから、すこしお待ちいただけます?」
話しながら、ロゼッタはスカートの陰に手を隠したまま、小物入れの中にそっと手に持った毒を落とした。
セーゲルはそんなロゼッタをじっと見ていたが、やがて首を横に振った。
「いや、やっぱりいいよ。そろそろ出かけなくてはいけない時間だしね。部屋に戻る。ロゼッタもそろそろ玄関へ向かいなさい」
「ええ……」
ロゼッタがうなずくと、セーゲルはいつも通りの優し気な笑みを浮かべて去っていった。
けれどロゼッタは、一瞬セーゲルがロゼッタにむけた見透かすような目と、自分に似た酷薄な表情をうかべたことを見逃さなかった。
……ああいった表情をする人間は、自分の是とすることのためなら、手段を択ばない。
それは自分にもあてはまるからこそわかる、奇妙なシンクロだった。
もしかすると、毒を持っていたことに気づかれたかもしれない。
ロゼッタは慌てて、毒を隠し戸棚に移した。
そして数刻後、パーティへ向かうために玄関へと向かった。