「16歳」 リィリィの日記
【若緑月8日】
やったぁ!
念願通り、ロゼッタ様と一緒に監督生に選ばれました!!
去年は実家の財政が苦しくて、あちこちで非難されたから、監督生は無理かと思ってたから嬉しい!
さっそく監督生の執務室に案内していただいて、ロゼッタ様と久しぶりにお話した。
ロゼッタ様は、やっぱり王子とのご婚約が調ったそう。
そろそろ内々に発表されるらしい。
「おめでとうございます」って、ちゃんと言えた。よかった。
ロゼッタ様がまだ婚約に乗り気じゃないみたいだから、クレイン王子のいいところをいっぱいお話した。
王子はいいところがいっぱいあるので、話のネタに困らないと思っていたら
ロゼッタ様ったら「いい人すぎて、わたくしには釣り合わない」とかおっしゃる。
ロゼッタ様だって、すごく素敵な方なのに!
綺麗だし、お優しいし、おしとやかだし、お勉強も、歌も、刺繍も、ダンスもお上手なのだ!!
力説すると、くすっと笑ってくださった。
最近なんだか憂い顔だけど、そうやって笑ってくださった顔がいちばん素敵だと思う。
これからは監督生同士として、一緒にいられる時間も長くなるから、
たくさん笑顔を見られるようがんばろうっと。
【若緑月20日】
王子とロゼッタ様のご婚約が発表された。
とはいえまだ内定で、公けでは語ってはいけないらしい。
それって発表っていうのだろうかと思うんだけど、
これを機にロゼッタ様は王子の婚約者として扱われるらしい。
そこで一定期間、問題がなければ正式な婚約者になるそう。
なんか品定めって感じでちょっと気分悪いけど、王族の結婚ってそんなものなのかな。
まぁロゼッタ様がふさわしくないと判断されることはないだろうし、
二人の仲を深める期間なのかなって思う。
成金貴族の派閥では、わたしが王子の婚約者にふさわしいのにって言ってる人もいて笑ってしまう。
最近の貴族の位はお金で買えると言われているし実際買えちゃうけど、
さすがに男爵令嬢が王子のお相手として選ばれることはないと思う。
図書館で、また王子にお会いした。
「おめでとうございます」とお伝えしたら、なんだか泣きそうな顔をされた。
一瞬、去年わたしが王子にパーティで助けられた時のように、
今回はわたしがなにか王子を救う言葉をおかけしたい……なんて考えちゃった。
でも、これは慶事だ。
「おめでとうございます」以上の言葉は、ないはず。
なのにどうして、間違ったことをした気分になるんだろう。
【蛍月5日】
王子とロゼッタ様のご成婚は、卒業後すぐって噂されている。
あと2年弱。
まだまだの気がするけど、きっとすぐなんだろうな。
卒業した後のことなんて、まだかんがえたくない。
この生活がずっと続けばいいのに。
そろそろゲームが始まる時期が来る。
あのゲームでも、王子とロゼッタ様はすでにご婚約されていたんだっけ。
実際には婚約はまだ内定で、ロゼッタ様が王子の婚約者と紹介されることはないけど
最近のパーティでは、王子はいちばんにロゼッタ様と踊る。
それはゲームと同じだ。
ゲームでは、ヒロインであるわたしリィリィが王子と結婚するルートもあって
そのルートが進むと、王子といちばんに踊るのはわたしになる。
……いちばんじゃなくていいから、王子と踊ってみたいな、なんてね。
実際には、最近はずっと王子を避けているから、お話もほとんどしていない。
それがわたしの望んだことなのに、寂しいなんて思ってしまう。
こんなこと、考えるべきじゃないのに。
ゲームの王子ルートでは、ロゼッタ様が王子と仲がいいわたしを疎ましく思って
全力で嫌がらせをしたら二人の婚約が破棄されて、わたしと王子が結婚することになってた。
そしてロゼッタ様は、嫌がらせの罰として公爵家を追われ、平民として暮らす。
あの誇り高い方が平民としてなんて暮らせるわけない。
というか美人さんだから、悪いおじさんに騙されてさらわれそう。
そんなの絶対ダメ!
ロゼッタ様は、他人に嫌がらせをするような方じゃない。
だから、ゲームのような展開はありえない。
ロゼッタ様にゲームのことを聞いてみたけど、やっぱりご存じないみたい。
この世界がゲームと似ているなんて言って、ロゼッタ様に嫌われたくないから、このことは言わないつもり。
ロゼッタ様がわたしに嫌がらせするなんてありえないし、言う必要ないだろう
だけど万が一にもロゼッタ様を不幸にしないためにも、わたしもそろそろ婚約者を探そう。
他の人との結婚が決まれば、王子のことをつい考えるクセも治るだろうし。