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七行

作者: Stairs

 夕方。オレンジ色の綺麗な空ではなく、どんよりとした、灰色がかった夕方だった。冬ということもあって少し肌寒いが、少し厚着をすれば特に気にするほどでもない、そんな日。

 公園のベンチに寝そべり、飛行機雲の跡を目で追っていた。少し歩き疲れて、足が止まってしまったのだ。目的の場所まで、そう遠くはない。それ程急いでいる訳でもないので、一眠りするのも良いかもしれないと思い、通りがかった公園でこうしている訳である。

 案外落ち着くもので、木の葉が風に揺れる音が鮮明に聞こえ、自動車が近くを通る音さえも心が落ち着き、なんだか昔を懐かしんでいるような。そんな気分になった。


 同時に、自分の存在を改めて思い出すことが出来た。指で飛行機雲をなぞれば、今、自分が自分を動かしているのだと思えた。もし足が疲れていなければこうすることもなかった筈だが、今の自分の事を考えてみると全てが偶然で成り立っていると気が付く。全ての行動が奇跡なのだと。すると、妙に悲しみが溢れてくる。何故自分が泣いているのか分からない。

 頬を流れる涙の感覚を意識していながらも、冷静で、心が苦しい状態にあった。


 何故心が苦しいのかは分かる。ただ、それが涙に値する程の出来事かと思えばそういう訳でもない。この涙の意味を、掴みあぐねていた。が、ずっとこうしていても目的地は近付いて来ない。もう少しだけ歩くことにした。

 立ち上がると、音が聞こえ辛くなり、自分の脳内に刻まれた目的を果たす為、体が勝手に進み始める。目の前にどんな坂道があっても、同じ速度で。少しづつ。


 メールの返信はまだ来ない。伝えたかった言葉はずっと下書きの項目に残ったままだ。七行の声は、届くことなく仕舞われたまま、忘れ去られていく。相手にも、自分にも。一つ夜が過ぎる度に、次の自分が昨日の自分を薄めていく。

 最適化されていく記憶は、たった七行の言葉すら留まることを許してはくれないだろう。だから、自分が自分を消してしまう前に歩かなければならない。


 会ったら、何を伝えようか。会う頃にはきっと次の自分だ。消えないバトンを繋がなくてはならない。この心は絶対に残ることはない。だから、精一杯の言葉を。一行にも満たない七行の思いを、明日に残そう。初めましては、あっちに行ってからでもいい。感謝の言葉も、まだ先でいい。今しか言えない、明日一日だけ残る欠片を。




本当は自分で伝えたかったけれど。君には、きっと十分の一も伝わらないんだろう。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


人の考えている事、伝えたい事は自分以外に完全に理解出来ませんよね(私はそう思っています)。もしこれを読んで、何が言いたいのかはっきりと分らなかったのなら、それは正解です。

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