表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗殺ギルドの下っ端さん  作者: 海蛇
五章.暗殺ギルドの終焉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/62

五十一話.かくして悪は滅ぼされた

 王都は、次第に戦いの音に包まれ始めていた。

騎士達を率いる実働部隊の隊長であったライオットの死は、しかし、悪徳騎士達には伝わらず行方知れずとの扱いに。

これにより、「ライオット隊長は裏切ったに違いない」「寝返って情報を漏らしたんだ」などと、ラノマ・カノッソ内部ではまことしやかに噂されるようになっていた。


「……むぐ」

これを聞くたび、団長の執務室にて歯軋りを見せ不機嫌さを露にするは、副団長ガングであった。

確かに先日からライオットは姿を見せず、更に騎士達の被害も広がっている。

最早一刻の猶予もないというのは、ずっとここに座していた彼であっても理解できるというものである。

「――副団長殿。いかがなさいますか?」

さきほどから何事か報告していた若い騎士が、顔色を伺うように問うてきて、ようやくガングは、自分が部下から報告を受けていたのだと思い出す。

「何がだ?」

「何がって……敵からの襲撃を受けている事です。ライオット隊長不在のままでは、我々とて統制に欠けます。敵はそれなりの規模、それも統率が取れている動きをしているように思えるのです。我々もある程度まとまらぬでは、各隊バラバラのままでは、いずれ削り殺されてしまいますぞ!」

聞き流されていた事にムッとしていた騎士であったが、丁寧にもう一度説明し、ガングに先の指示を求める。

腐敗していた騎士達であったが、それでもやはり相応に騎士として鍛錬を積んだだけあり、事このような『有事』となれば、考えは団結へと向くのだ。

ただし、その方向性はネガティヴなものであったが。

「……敵の動きは、王都全体に広がっているのだろう。ならば、王都内に奴らの協力者がいるはずだ。あぶりだして攻撃しろ」

「我々も団結せねば、敵の連携の前に崩されますぞ?」

「ならば貴様が指揮を執ればいい」

「副団長殿は、この期に置いてご自身で動こうと思わぬのですか? これまで分隊長格の方が数多く犠牲になったと言うのに!?」

「黙れ! 私はデスクワークで忙しいのだ。国の上役との折衝もこなさねばならん。こういった問題は、貴様らが自力でどうにかしろ!」

部下からの指摘が腹立たしいのか、ガングは怒声を浴びせながら机をバン、と強く叩き威嚇する。

「……」

「文句があるのなら、貴様も反逆の疑いありと――」

「解りましたよっ! もういいですっ」

睨みつけられながらの言葉に耐えられなくなってか、騎士は限界だとばかりに背を向け、そのまま部屋を出て行ってしまう。

「……ふんっ、若造が。でしゃばりおって」

心底腹立たしいとばかりに、去っていった騎士を見やり、再び机を叩いた。


 最早、限界が近いのはガングにも解っていた。

恐らく、そう掛からずこの騎士団はシルビアの手勢によって蹴散らされ、自身も追い詰められるのだろう、と。

あの潔癖なシルビアのこと、そうなれば自分の命も助かるまい、と。

ライオットが裏切ったにしろ野垂れ死んだにしろ、これで一番強力な駒がいなくなり、攻めが不可能に等しくなった。

防戦一方。先ほどの騎士が言っていた通り、騎士団という巨大な組織は、ネズミのような反抗軍どもに削り殺されるのを待つばかりである。

ならば、今自分の手勢で出来るのは、あるかどうかも解らぬ一発逆転の策を模索することではなく、捨て駒を如何に有効活用し、無事にこの状況から逃げおおせるかだろう、と。

彼は、自分の思考を逃げ一極に傾ける事に決めていた。

もう、こんな楽園に用はない、とばかりに。


「……街の各地に向け、全部隊を展開するのですか?」

その後、ラノマ・カノッソに残っていた騎士らを集めて彼が命じたのは、偽りの逆襲作戦であった。

「そうだ、我々と対立するシルビアの徒党は、今も尚街のいたるところにその存在が確認されている。犠牲者の数も増えるばかりだ。だから、貴様らは各地にばらけ、関係各所に向け攻撃を開始しろ」

「協力者と思われる者の家を暴け、ではなく、攻撃しろ、とは……」

「確かに、我々も死人が出ている以上、これはもう戦争と言っても過言ではない状況ですが、それにしても……」

流石に過激すぎると、疑った目で見始める部下達に、ガングは「ふん」と、居丈高な態度のまま、説明を続ける。

「もう我らに残された時間はあまりない。これは今まで黙っていた事だがな、このような状況下が長引けば王宮近衛隊が黙ってはいない、という沙汰(さた)が、近衛隊長直々に届いているのだ。時間を掛けすぎれば、近衛隊に全容を知られてしまうかもしれん。貴様らが好き放題にしていた事も、当然表ざたになるであろう、な?」

「……なっ」

「そ、そんな……」

近衛隊、と聞いて顔面蒼白になる騎士達。

当然である。この場にいる者は例外なく、悪意に染まり手を汚し続けた鬼畜・外道なのだ。

人として裁かれるかすら危ういほどに欲望のまま犯した罪の重さを、全く自覚もなしにいる者はほとんどいないだろう。

近衛隊が介入し、国の上層部が知ることになれば、当然自分達も裁かれる事となる。

決して免れる事はあるまい。確実に死刑だろう、と。

「ソレが嫌ならば急げ。今ならばまだ取り返しがつく。これが最後の機会だ。これに失敗すれば、仮に生きて戻れても次はない」

騎士らが目に見えて怯え始めたのをいい事に、ガングはニヤリと笑い、大仰に身振りしながら騎士らを煽ってゆく。

「さあ行け。隊伍を組んで敵を潰せ。邪魔をする者は斬り捨てろ。女は犯せ、年寄りと子供は人質にしろ。今ならばまだ許される。我らの『敵』を潰せ! 我らの勝利を信じよ!」

腰の大剣を抜きながらに、騎士らにその威光を、権威を見せつける。

「これは戦だ。何をやっても許される。どんな手を使っても構わぬ。今回限りで終わらせるのだ! さあ、行け!!」

「は、はぁっ」

「そうだ、これは戦い……何をやったって……」

「ここで死ぬよりはマシだっ! どうせ死ぬなら、街に火をつけてでも(いぶ)しだしてやる!!」

騎士らの疑心を、不安を、力技で押し切る。

納得は出来ないだろうが、そうするしかないと思わせ、騎士らを走らせたのだ。


「……」

しかし、騎士達の中には、もう、彼の言葉に耳を傾けない者もいくらかいた。

「どうしたアインズ? 早く行け」

先ほど報告しにきた騎士などはまさにソレで、不審な目のまま、動く事無くガングを睨みつけていた。

「我らが全員ここを離れれば、この場は副団長殿しかいなくなってしまいます。それでは、ここの守りは……」

「今は守りなど考えている状況ではない。全員が前に出て、戦うべき時であろうが」

「でしたらば、副団長殿がまず、全員の前に立ち指揮を執るのがまっとうな考えではないかと。指揮官もなしにばらけろ、敵を倒せなど、とても戦争を経験した方の言う台詞とは思えませんな」

訝しげに、どこか馬鹿にするような口調で上官を見据えるこの騎士。

彼だけではない。その場に残った騎士達は、いずれもその腰に下げた剣の柄に、手を伸ばそうとしていた。


「……どういうつもりだ?」

この騎士らが何をするつもりか理解したうえで、ガングはせせら笑うように彼らの顔を見回す。

「あんたが逃げようとしてるのはもう解ってるんだよ」

「俺達は、もう懲り懲りなんだ。元々好きで従ってたわけじゃない。そうしないと、自分の家族や恋人がひどい目に合うのがわかってたから従ってただけだ」

「同胞がひどい目にあってたのを見せられれば、逆らうなんて判断できっこなかったからな。だが、それも終わりだ」

「俺も悪いことはしてたが、あんたの首一つとって、シルビア隊長に詫びを入れれば助かるかもしれんしな」

「まあ、そういう事だよ。死んでくれ」

五人が口々に口上を上げ、目配せし、腰からすらりと、ショートソードを抜き、構えた。

上段、下段、中構え。各々異なる剣構えなれど、覚悟の表情。

狭い屋内での戦いとはいえ、この人数相手に一人ではどうにもなるまい、と。

騎士らは確信を持って挑んでいた。


「……ふっ。ふふっ、ははははははっ」


 だが。ガングは我慢できぬとばかりに、愉快そうに笑い出す。

侮蔑とは別の。心底の愉悦が今、ガングを笑わせていた。

「な、何故笑う。狂ったか?」

騎士らは困惑し、アインズが剣を向けながらに問えば、ガングは首を横に振り、「すまんな」と、口元に手を当てる。

「あんまりにも戯けたことばかり申すから、つい、腹の底から笑ってしまった。貴様ら、五人いればワシに勝てると、そう踏んだのだろうが――」

笑いながら、抜き身の大剣を(さか)向きに、柄を前に後ろ手に構えながら、腰を低く落とした。

「――たったの五人で、戦上(いくさあ)がりを殺せると思うなよ?」

最後には冷め切った、冷酷な顔に戻り。白髪頭の副団長は、悪鬼へと変貌した。


「こ、このっ」

「そんな大剣で何がっ」

「一斉にかかるぞ!!」


 騎士らもその変貌に驚きながらも、一気に飛びかかる。

しかし、その一斉の一撃を、ガングは大剣で事も無げに受け捌き、あるいはかわし。

全てをかわしきり、逆襲の一撃を振りかぶる。


「――うおぁっ!!」


 悪鬼の形相で飛びかかり、その体型に不似合いな軽業を以って大剣をまるで木の枝のように振り回し、叩き付ける。

絨毯が、その下の木目板もろともにバコリと不具合な穴へと変わり、それをなんとかかわした騎士の一人に大剣の一撃が振るわれたのはわずか一瞬の内。

ぐちゃりという嫌な肉音を立て、騎士であったものは惨めに潰れた。

更に次の瞬間には自分に襲い掛かってきた騎士らに威圧の一撃。

思わず足を止め下がろうとしてしまった二人には無慈悲な突きの一手が迫り、そのままに(はらわた)や首を切り裂かれてしまう。


「貴様ら、弱すぎるぞ? 安穏の中生ぬるくなったワシの動きに、全く付いて来れていないではないか?」

あまりにも弱すぎる、と。悪鬼は侮蔑を込め笑い、そして、跳んだ。

「ひ、ひぃっ!?」

「く、くそっ、せめて一撃っ!!」

ほんの少し前まで勝ち気に逸っていたはずの騎士らは、今では顔面蒼白となり、絶望の中、逃げると言う選択すらできずに、剣を前に、突進するばかりであった。

その単調すぎる動き。剣のリーチの差は如何ともしがたく。

残った騎士二人のショートソードは全く届きもしないまま、副団長の大剣による横の斬り払いを受け、どう、と倒れた。

一歩分のリーチの差が、致命的過ぎる実力の差を更に上へと押し上げたのだ。


「……ふん。かつては先代と共に戦場を渡り歩いたのだぞ? 戦のなんたるかも知らぬ小僧っ子相手に、遅れを取るものかよ」


 反逆者の処刑を終えたガングは、その死体に向けて唾を吐き捨て、剣の汚れを騎士らの服で落とし、一言吐き捨てた。



 そうして、自分のいう事を聞いた騎士達(おろかものども)が離れ、敵の注意が恐らくはそちらへと向いたであろう頃を狙い、ガングは屋敷を抜け出す。

武器と最低限の食料や衣類のほかには、具足をつけた馬だけが彼の持ち物であった。

余計なものは持たず、ただ逃げに徹する。

これもまた、戦いに生きた者だからこその、機動性を重視した備えであった。


「……ふん。短い間ではあったが、確かにワシの天下ではあったのだ。地方ならばまだ力の蓄えようもある。とりあえずは……そうさな、セルジオにでも往くか。あそこには同じ先代国王派であったセルジオ伯もいらっしゃる。そこでしばし時間を――」


 一目、荒廃した街を見やり。自身の楽園の日々を確かに胸に焼き付けたガングは、愛馬にゆったりと進むよう促し、立ち去ろうとした。

丁度夕刻。霧が出始めた頃である。ひっそり逃げるには容易かろう、と。


「――どこへ行こうというのだ? 副団長」


 そして、それを阻む影があった。

長身痩躯の、無精髭の野味溢れる顔立ち。

傷だらけの腕は、しかし業物(わざもの)のロングソードによって変わりなく映え。

老将は、その姿に驚愕した。

「馬鹿な……貴様は、死んだはずでは」

異国の地にて死したはずの騎士団長、レイバー=トゥースその人であった。

霧の中佇むその姿にすら威厳があり、そして、悪鬼をも凍てつかせる眼光が自身に向けられているのを、ガングはその身を以って感じていた。

「こんな霧の中だからな。俺も幽霊になって出てきたんだろうよ。無様だろう? 笑ってくれよ副団長」

にやにやと余裕の笑みを見せながらに、靴音もなく近づいてくる。

その姿は確かに薄ぼんやりとしていたが、だが、そのような状態になって尚、その威圧感は本物であった。

「くっ、まやかしがっ――いや、そうか――」

そして、ガングはひとつの可能性を考え付く。

これはまやかし等ではないのではないか。レイバーは、団長は、死んでいなかったのではないか、と。

「く、くそ……シルビア一人でここまで反抗できる訳がないと思っていた。最初は衛兵隊か近衛隊の協力を得たのかと思ったが……貴様が後ろから操っていたな!?」

「なんだぁ? 随分と気づくのが速いな。もうちょっと幽霊ごっこをしててもよかったんだぜ?」

「黙れっ! 貴様、こうなるのを見越して、我々を嵌める為にこんな芝居をっ!!」

「――ああ、そうさ。とはいえ、俺ぁここまでお前らが暴れるとは思いもしなかったがな。精々が、ちょっとしたおいた(・・・)をする(くれ)ぇだと思ってた。てめぇら、ちょっとばかしやりすぎだぞ?」

怒声を飛ばすガングに、しかし、レイバーは冷め切った顔になり、睨みを利かせる。

「む……ぐぅっ」

その力の強さに、威圧感の重さに、ガングは思わず馬を下がらせようとしてしまう、が、やがて、腰の大剣を引き抜き、馬から降りた。


「――ならば、ここで亡き者にすれば同じ事。いいや、反逆者どもの急所が貴様だと解れば、むしろ好都合だ! 刻み捨てた後、此度の責任を全て貴様に擦り付けてくれる!!」

「――なんだ、逃げねぇのか。そのまま馬に乗って逆方向に全力で逃げれば、余裕で抜けられたかもしれねぇのにな」


 剣を後ろ手に構えながらのガングの口上に、レイバーは楽しげに剣を腰溜めに構え、身を低くする。


 かこん、と、どこかで何かが落ちたような音がして――それが合図となった。


「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

「ずぇりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 男二人、一気に駆け出し、そして、正面からぶつかり合う。

初撃を弾かれ後ろに跳んだ両者は、しかしそれをバネに更に前に飛び、一撃を狙う。

レイバーのロングソードが(きらめ)きと共に神速を以って横から振りぬかれるのと、ガングが跳び技を見せながらに下段突きを首元に見舞うのはほぼ同時。

がちり、と、かみ合う大剣とロングソード。

今度は弾かれた剣をバネに重心を横にずらし、地につけた剣を軸に下段からの突き上げを見舞うレイバー。

着地狙いの一撃をかわしたガングは、これをバックステップで避けて見せ、跳ね返りの下段斬り払いを見せる。

「――死ねぃっ」

「ぐぅっ!!」

二人の騎士を一撃で仕留めた必殺の斬撃であったが、レイバーはこれを剣の腹で受けながらに飛び、剣の勢いに吹き飛ばされながらも、着地し、再び距離が離れる。


「はぁっ……はぁっ」

「スタミナのなさが弱点みてぇだな……確かに、剣のキレは恐ろしいものがある。先代と共に戦っただけあるな」

一瞬の戦いが、まさしく無限の戦のように感じられたレイバーであったが。

早くも息切れが見え始めたガングに対し、こちらはまだ幾分、体力には余裕が残されていた。

「デスクワークのし過ぎか?」

「くっ、うるさいわっ! 黙って斬り捨てられろ!」

年老いた身には、最早軽装での戦闘すら苦痛この上ないらしく。

未だ息が上がったまま、構えを解く事も出来ずに第二の打ち合いが始まってしまう。


「つぁっ!!」

「ぐぶぅっ!? こ、このぉっ!!」

軽妙たるガングの動きは、見る見るうちに精彩を欠いてゆく。

序盤こそレイバー相手に互角以上に渡り合っていた老将は、しかし、戦いの中に自らの老いを、明確に感じ始めていたのだ。

「やはり動きが鈍ってるな――これでっ」

勝ちの目を見たレイバーは、一歩飛び退き、再び腰溜めに構えて姿勢を低くする。

「ぬおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

二歩、三歩と跳びながらに向かってくるガングに狙いをつけ――一気に突した。

「ふんっ、馬鹿めっ、正面突破すれば勝てると思ったかっ!!」

レイバーの、一見判断を欠いた突進のように見えたソレを真に受けてしまったガングは、にたりと口元を歪ませ、上段からの素早い突きによってそれを迎え撃とうとしていた。

「そうくると思ったぜっ!!」

しかし、レイバーはそれを見越して一歩、横へとずれてその突を避け、真横から老体に蹴りを見舞う。

「ぶぐっ!?」

横腹にまともに入った蹴りは、老体にはきつい一撃となり、もんどりうったガングはそのまま苦しさに剣を手放し、のた打ち回る。

「ぎぃっ、がはっ、げはっ!?」

「――勝負有りだな、ガング。てめぇ、そのまま死ねると思うなよ?」

鬼の形相のままその老体の首筋に剣を当て、見下ろすレイバー。

「ぐふっ……く、くそ。わ、ワシが、こんな――」

信じられぬと目を見開き、憎悪のままにレイバーを見上げるガングは、最早抵抗する力もなく。

勝負は、ここにレイバーの勝利を確定させていた



「中々に楽しいものが見られたぞ」

傍に控えていた部下らに、元副団長ガングを教会へと運ばせたレイバーは、霧の中、いつの間にか佇んでいた影に気付く。

「ベルクか。いつからいた?」

影に向け、レイバーが声をかけるのと、影が足音と共に姿を見せるのはほぼ同時。

「さっきからだ。『ガングが逃げるかもしれない場所』を張っていたが、どうやらこない様子だったのでな」

「……あいつが仮に逃げたとしても、あんたに倒されていた訳か」

馬を使い逃げようとしても、どの道あの男には逃げ場はなかったという事になる。

いずれにしても、ガングは捕らえられる運命にあったのだ。

つい、レイバーは笑ってしまった。

「いい仕事をするな。俺の部下にならねぇか? シルビアを二度……いや、三度も助け、こうして俺達に助勢してくれた。お前ぇなら、幹部として置いてもいいと思っているぜ」

「幹部として、首輪をつけておきたいのか?」

誘い文句を皮肉たっぷりに返され、団長は苦笑いするしかなかった。

「やっぱ、お前ぇは仲間にはなってくれそうにねぇな」

「残念ながらな。次にあったときに仲間である保障もない。ただ、シルビアは別だな。あの女は、私にとっては掛け替えのない存在になりつつある。裏の世界でしか生きられなかった私にとって、眩しすぎる位にあの女は『正しい』」

「……そうか」

ため息混じりに、しかし嬉しくも感じ、レイバーはクロウの顔を見やる。

「ともあれ、助かった。今回の件に関してはどう感謝したらいいのかも解らねぇ。事がここまで上手く動いたのも、お前ぇ自身の助力と、お前ぇの働きかけ(・・・・)があってのものだ」

笑いを見せたままに。騎士団長は、油断なくその顔を見ていた。

「あんたも、中々に油断ならん男だ。敵にならなければ良いのだがな」

「全くだ」

そうして、クロウも同じように笑い。

やがて、二人ともが背を向けあい、声もなく別れた。



 こうして、王都を騒がせた『騎士団の内戦』は終わり、バルゴア王都に、ようやく平穏が戻ろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ