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暗殺ギルドの下っ端さん  作者: 海蛇
五章.暗殺ギルドの終焉

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四十九話.偏執狂騎士隊長どのは狂いました

 市内での動きは全体を揺るがそうとしていた。

一人、また一人斬り(たお)されてゆく騎士達。新たに街を闊歩する真なる騎士達。

旧時代からの圧制を象徴する最後の『国王派』の群れは、新時代の解放を謳う者達によって、蹂躙されようとしていた。

人々の希望を背負うことが出来る正しき者は、悪しき者の中から生まれ出でたのだ。


「副団長殿……またです。今度はグレイルの隊が……」

ラノマ・カノッソの団長室にて。

副団長ガングは、腹心ライオットからの報告に驚愕していた。

日が経つにつれ拡大してゆく被害。そのほとんどは騎士か、欲眼によって自分達に協力してきた者かのいずれかだったのだ。

多くは首を掻き切られたり、腹を引き裂かれたりといった、先日までの死亡報告と相違ないものであったが、最近は剣による突き刺しや矢傷、更には何の冗談か、火薬による爆発に巻き込まれての全滅報告まで続く有様であった。

「既に被害は全体の半分にも及んでいます。このままでは、我々は――」

「ええい黙れ! そんなつまらん報告など聞く気も起きんわ!! この無能共が!! そんな報告を持ってくる位なら、有効な対策のひとつも考えろ!!」

驚愕の末ガングが取った行動といえば、いつものように感情のまま怒鳴りつけ、手に持った書類をライオットに叩き返すくらいであった。

このあたりがこの男の底の浅さ、最古参にして副団長どまりだった所以である。

「……はっ」

そして、そんな男の配下についてしまったのが、このライオットの落ち目でもあった。


「隊長……副団長殿はなんと?」

役務室に戻るや、集まっていた部下達が彼を取り囲む。

皆、事態の悪化に不安げな顔をしていた。

何事もない頃ならば副団長に赦されるまま、好き放題に街娘を陵辱したり家屋を荒しまわったりと賊のような日々を送っていたというのに、いざ自分達が裁かれる側になるや、これである。

ライオットは、もう笑うしかなかった。

「――なんてことはない。お前たちは言われた通りに動けば良いのだ。不安がるな。大したことにはならんよ」

そんなはずはないと自分で思いながらも、部下達がこれ以上混乱せぬように、と、でまかせで誤魔化す。

この男達が欲しいのは、的確な指示でも、画期的な発案でもない。

ただの気休め、『自分達は大丈夫なのだ』という安堵の言葉だと、彼は理解していた。

「そ、そうでありますか……へへっ」

「ですよねぇ。調査に回った奴らがなんか、ばたばたと死んじまったって報告があるから、俺達、つい――」

そうして彼の狙い通り、無能な部下達はへらへらと、自分を誤魔化しながらに笑って済ませようとする。

「シルビアを探せ。あの女が全ての鍵を握ってるのは間違いない」

いまや人員は不足しつつある。

どうせここを守らせても仕方ないからと、ライオットは、この部下達にも探索に回るよう指示していった。

「五人一組となって隊伍(たいご)を組んで各方面に当たれ。シルビアに協力しそうな民衆は構わん、拷問にかけてでもシルビアの所在を吐かせろ」

「解りました」

「それなら俺達の得意とするところだ」

「悪人には、しっかり反省させねぇとなあ」

下卑た笑いを隠しもせず、騎士達は互いに顔を見やり、いやらしく笑って手を組んでゆく。

そんな彼らを冷めた顔で見渡しながら、ライオットは腰の剣を引き抜き、口を開いた。

「――敵の襲撃の可能性を常に考えろ。決して油断するな。武器をしまうな。道の邪魔となるモノは、人であれ物であれ構わん、斬り捨ててしまえ」

「おぉっ!!」

「よし――行け! 我ら騎士団の力、見せてやるのだ!!」

じゃきりと剣を扉に向け、騎士らを追いたててゆく。

「うぉぉぉぉぉぉっ」

「シルビアめ、待ってろよ!!」

「我ら騎士団の組織力、思い知らせてくれるわぁっ!!」

悪徳騎士らの咆哮が館を揺さぶり、それが去って往くや、再びシン、とした静寂が戻ってくるのを、ライオットは肌で感じていた。


「……ふん、馬鹿馬鹿しい」

自分の前から誰もいなくなった途端、ライオットは気だるげにため息し、抜き身となった剣を再び鞘へと戻す。

――もうここまでだろう。

ライオットは、限界を感じ始めていた。

元々、あの副団長に従ったのは彼にとって大博打に等しい行為であった。

確かにそれに従う部下達は多く、だらけきった、モラル皆無な者も多かったが。

それでも、騎士団の中でも規律を守ろうと、ピシリとした生き方をしようとする者はある程度いたのだ。

全体の中では少数派ではあったが、それは騎士団長を支持し、国と騎士団長に命を捧げた『正しき騎士の生き様』であり、そういった者達の中にこそ、騎士という存在の正当性が息づいているのだと、ライオットは解っていた。


 今の騎士団は腐敗している。そんな事は、彼にだって解っていた。

自分が止めようとしなければ部下達は平然と女子供を誘拐してきて、欲望のはけ口にしていく。

かつて同胞だったはずの女性騎士に対してさえ、同じような事を構わずやらかす。

家族を人質にとって、逃げ出そうとした騎士に仲間の事を吐かせた事もあった。

その女騎士は結局自責の念に駆られて自刃してしまったが、自分の部下達はそんな彼女の家族を構わずに暴行し、陵辱し、弄んだ挙句に殺した。

――既に人の所業ではない。戦争という狂気が産み落とした災厄とすら思える。

何せ、副団長を除けば、今彼と行動を共にしている騎士らは、そのすべてが戦後生まれなのだから。

戦争など知りもしない世代の者達が、戦争から生まれた狂気に飲み込まれ、狂ってゆくのを、ライオットは目に見て感じていた。

――最早、こんなものはまっとうな組織とすら思えぬ。

そう思いながらも、ライオットはこの場から抜け出すことが出来ない。

正義感が無い訳ではなかった。反吐を吐くような真似を平然とする騎士らに、いっそ皆殺しにしてくれようかと思った事もないわけではない。

だが、既に自分の手は薄汚れていて、自分の理性は大きくタガが外れてしまっていた。

(それというのも、シルビアが悪いのだ……あの女が、私を受け入れようとしないから……っ)

全ての根源はあの女騎士にあった。

歪んだ騎士団にあって、誰より気高く美しく、そして多くの者に好かれていた女騎士に。


 言ってしまうなら、彼は女一人を我がものにしたいが為、副団長に従っていた。

そこにはアプローチしても袖にされ続けたという辛い日常があった事もあり、それによって芽生えてしまった『恋した女を無茶苦茶にしてしまいたい』というサディスティックな歪んだ欲望もあり、そして、男として、理想的とも言える若い女を独占したいという願望もあった。

ゲイザーのように副団長に反抗する道も無い訳ではなかった。

彼自身、副団長は人間のクズだと思ってはいたのだ。

だが、そんな人間のクズでも、自分にとって耳当たりのいい言葉を聞かせてくれるなら従ってしまうのが人間というものであった。

『シルビアを他の男に犯されたくないのだろう? なら、ワシの下で動けばいい。首尾よく捕まえたなら、お前にくれてやってもいいんだぞ?』

団長の言う『正義』を貫いたままでは、恐らく一生掛かっても得られないであろう未来が、その時ばかりは見えていた。

確かに、そのまま自分のあずかり知らぬ所でシルビアが捕らえられ、陵辱の憂き目に合うのは許容できない。

それならば、自分がこの外道の配下に加わって、シルビアを我がものにすればいいではないか、と。

彼の中の悪魔が、彼を誘ったのだ。


 そうして結果、彼は地獄を突き進む羽目になってしまった。

外道に落ちてまで欲したシルビアはどこの馬の骨とも知れぬ男と(ねんご)ろになり行方知れず。

挙句街での騎士狩りが悪化し過ぎているのも不味い。

これでは、仮に自分がシルビアを捕らえたとて、副団長がシルビアを生かしておくとは到底思えなかった。

恐らくは感情のまま処刑してしまうか、あるいは拷問にかけて殺してしまうだろう、と。


「――そんな事はさせんぞ!!」

ガツン、と、叫びながらに壁に拳を叩き付ける。

それを聞く者はいなかったが、とっさに出た叫び声に、ライオット自身が驚いてもいた。

(……くっ。私としたことが)

――こんなはずではなかった。ならば、覆してみせねば。

自分の望む未来など、もうとっくに見えなくなっていた。

だが、それでも手を伸ばし続けなくてはならなかった。

決して届かぬ未来を、再び自分の元へと引き戻すために。

彼は、一人街へと歩を進めた――



「さ、早くこちらに――今でしたら、悪徳騎士達の目は他所に向いてる筈ですわ」

街の西側。川沿いに、街を離れる商人の一団に紛れ、街から脱出しようとする者達が居た。

街娘の格好をしたシルビアに率いられた、騎士団の被害者たち。

若い娘が大半であるが、中には金銭目的で長期間監禁されていた者や、財産を没収され乞食同然の暮らしをしていた者も居た。

いずれも騎士によるこれ以上の蹂躙を恐れ、街から離れたがっていたのだ。

「ありがとうございました……」

「……これで、もう、怖い思いしなくて済むんですよね。よかったです」

街の出口近くまでたどり着くと、被害者達に感謝の言葉を向けられる。

「騎士も、女性の方だと大丈夫なんですね……私、もう、騎士なんて信じられなくなるところでした」

「貴方みたいな騎士がもっと沢山この街にいたら、私たち、ひどい目に合わずに済んだんでしょうか……?」

どこか虚ろな眼でぽつり、ぽつりと呟く娘も居た。

「……皆さん、今更騎士を信じてくれなんて都合のいい事は言えませんわ。ですが――いいえ。今は、『私』を信じてください。それだけで十分ですわ」

騎士を信じてほしいなんて言葉は、シルビアからは口が裂けても言えなかった。

その騎士によって蹂躙された者達にとって、騎士とは恐怖の存在でしかないのだ。

『良い騎士もいる』なんて言ったところで、その身に直に受けた恐怖、絶望、苦痛が薄れるはずはない。

それならば、彼女たちが比較的受け入れられている自分という存在を、まずは信じて欲しいと考えていた。

そこから、少しずつでも広がってくれれば、と、儚く期待しながらに。


「――感動的な台詞だな。まるで自分達を正義の味方のように思い込んでるかのようだ」


 娘達を連れ、このまま街を出て北の廃屋へ、と、向かおうとしていたシルビアらの前に、金髪の騎士が一人立ちはだかった。

もう間も無く西門にたどり着けたというのに、一連の会話が、追っ手の追跡を許してしまった形となった。

「……ライオット、貴方」

「くくく、久しいなシルビア。やはりお前、騎士団を裏切り、犯罪者共を街から逃がしていたな?」

追っ手の顔を見て、苦虫を噛み潰したような顔になるシルビア。

対してライオットは、ようやく見つけられた意中の獲物に、その鋭い眼を楽しげに歪ませていた。

「あ、あぁ……」

「き、騎士だわ……わ、私達、やっぱり……」

「ひぃぃぃっ、いやぁぁぁぁっ、こないで、こないでぇぇぇぇっ!!!」

ライオットの姿に、若い娘達は絶望の悲鳴をあげ始める。

ライオットが身につけた騎士の鎧にトラウマが蘇ってしまったらしく、娘達は戸惑い、泣き叫び、パニックに陥っていた。

「――落ち着いて皆さん! 早く西の門へ! すぐそこですわ!!」

まだ幾分正気を保っていたほかの被害者たちに娘達を任せ、シルビアは腰のショートソードを抜き、下段に構えながらにライオットを睨み付ける。

「……ふん。私に剣を向けるか。困った女だ――」

逃げ惑う市民など歯牙にもかけず、ライオットはシルビアのそんな姿を鼻で笑い――背の大剣を引き抜く。

「正面での戦いで、お前が私に勝てたためしなんてなかっただろうに」

余裕の表情であった。こと戦いにおいて、この女に負ける要素など皆無であると。自信を以って、ライオットは笑っていた。


「そうだとしても……勝負とは時の運が左右するものですわ」

「――そういう台詞は、一度でも勝ってから……言うんだな!!」


 両者、踏み込みは同時であった。

下段からの突き上げ斬りを狙うシルビアと、上段からの振り下ろしを狙うライオット。

互いに一撃が決まるか――という瞬間。

しかし、シルビアは髪一房を失いながらも紙一重で大剣をかわし、ライオットは、腰のショートソードを盾に、器用にその一撃を受けきっていた。

互いに即座に飛び退く。一撃必殺を回避された次の瞬間には、間合いを取っての睨みあい。

間合いの短いショートソード一本で、自分以上のリーチを持つ、二刀流の相手をしなくてはならないシルビアの方が若干の不利。

だが、ライオットはライオットで、シルビアを殺してしまう一撃を、本当に自分が繰り出せるのかという自身への不安が一株、残ってしまっていた。


「――ふん。『女』になったからか? 動きが随分緩慢だな? 美しい髪が大分千切れてしまったぞ?」

こうなれば後は、精神面の揺らぎが全てを決する。

「……っ!!」

下劣とも言える煽りに、シルビアは顔を真っ赤にして目を吊り上げた。

「お前に協力しているあの男――名をなんと言ったか? まあいい。あの男は既に我らの手に落ちている。お前の愛しい男は、いつ死ぬかも解らん状態なのだぞ?」

「何を馬鹿なことを。あの方が、貴方達なんかに捕まるはずがありません!!」

ただのブラフのつもりで出た言葉が、存外効果的だったらしく。

シルビアは、目に見えて感情的になってゆく。

「お前がそう思うのは勝手だ。別に、お前が本気で戦ったって、私には勝てっこないんだからな――ただ、お前が倒れれば当然、あの男は用無しになる訳だ」

「――ライオット、貴方!」

「くはははっ、存分に戦え! お前の愛しい男の命、誰が握っているのか理解しながらなぁ!!」

顔も名も知らぬ男に、シルビアが心底惚れてしまっているらしいのは、もうこれでわかってしまった。

怒り狂いたいのはライオットの方なのだ。

――こんないい女が、何処の馬の骨とも知れぬ男なんかに!!

心の中では激しながらも、ライオットは前に踏み込み、二本の剣でシルビアに襲い掛かる。

「くぅっ――こ、こんな……」

シルビアはそれをなんとかショートソードでいなし、受けようとしながら、しかし、先ほどより明らかに動きが鈍っていた。

「あぁっ――!?」

やがて、正面から受けさせられ、痺れた手は、ショートソードを支えきれずに落としてしまう。

直後、首に感じるひんやりとした刃。勝負は決まっていた。

「……見ろシルビア。これがお前の弱さだ。些細な事で感情的になり、動きにそれが如実に出てきてしまう」

勝利を確信し、ライオットは口を歪めて笑う。

「……くっ」

いっそ殺せとばかりに、シルビアは悔しげに歯を噛みながら眼を閉じた。


「お前はそうやって死に急いでくれるがな。生憎、こんな程度では私の気持ちは収まらんのだ。あの副団長も、お前には苦渋と絶望を求めるだろうし、な……」

片手で持った大剣を首にあてがい、それまで首筋に当てていたショートソードを使って、シルビアの胸元、ブラウスのボタンをぶつり、ぶつりと器用に弾いてゆく。

「……何を」

「――(はずかし)めてやる。私の手で、二度と他の男の事など考えられぬように壊してやる。その後は――その時にでも考える」

その言葉に、どうやら殺すよりもひどい目にあわせるつもりらしいと気付き、シルビアは下からライオットを睨み付けた。

「貴方が、そんな人だったなんて」

「お前が狂わせたんだ。シルビア。お前がな」

呆れたように、心底呆れたように呟いた言葉に、ライオットはため息混じりに笑って返す。

勝敗は決していた。ならばこその余裕であった。


「私が毎日のようにお前にアプローチしていたというのに、お前はいつも素っ気無い態度ばかり。私がお前を恋人にしてやろうとしていたのに、何故お前は私に(なび)かなかった? 大方、『自分は高貴な生まれだから』とでも嘲笑っていたのだろう?」

そうして、ライオットは語りだす。刃を愛した女に向けたまま、自分優位の自分語りを始めたのだ。

「……は?」

「まあ、それも仕方ない。私は平民出だからな。貴族令嬢から見れば取るに足らない男に見えたのだろう。それは仕方ない。だが! 私はそれでもお前の事を想っていた! 他の奴らの視線に晒され続け、それでも他の男に靡かないお前を見て、私は『この女こそが私の理想の女だ』と思ったのだ! 美しく、可憐で、そして――そして何より、清らかだと」

「ちょっとお待ちなさい。貴方、さっきから何を――」

シルビア視点では、ライオットの語っている内容のほとんどが理解できないことばかりであった。

自然、クエスチョンばかりが浮かぶこととなる。

「何をだと!? 知れた事、私がお前を前から口説こうとしていた事位知っていただろうに!!」

そんな事を今更言わせるなとばかりに、ライオットは激昂する。

頬も若干赤らめて。事このような状況でも、彼はいささか(・・・・)純情すぎるきらいがあった。

「さっきから意味の解らないことばかり言っていると思えば……貴方、一体いつ私にそんなことを言ったのです? 私は貴方に言い寄られた事なんて一度だって――」

「なんだと!? そんなはずはない!! 毎日、そう、毎日話しかけていたではないか!!」

「それは確かに話しはしましたが……それはあくまで職務上の会話であって、恋愛など全く関係ないお話だったでしょうに。貴方、まさかそんなつもりで私に……?」

この双方の齟齬(そご)にようやく気付いたシルビアは、目を見開きながらも「まさかそんな馬鹿みたいなことが」と、呆れ果ててしまっていた。

「まさか貴方……私が靡かないから副団長に付いたとか、そんな事仰るつもりじゃないでしょうね?」

「まさかも何も、それ以外に理由などない。お前を好きにしていいと言われたからあの腐れ外道についたのだ。それ以外に、理由などいるか!!」

呆れるほどの純情っぷりであった。シルビアも真っ青なほどにはた迷惑ながら。


「はぁ……馬鹿馬鹿しい」

こんな男に負けたのか、と、シルビアは心底馬鹿らしく感じてしまっていた。

同時に、こんな男に負けた自分が馬鹿らしいと、割と本気で殺して欲しくなっていた。

「――なんだと?」

聞き捨てならない言葉だったのか、ライオットはじろ、と、シルビアの顔を睨み付ける。

そこには、今さっきのやり取りの中しまいこまれていた狂気や殺意がにじみ出ていた。

「私は、ずっと自分に女としての魅力がないのだと思っていましたわ。いつになったら素敵な殿方が現れて、私を口説いてくださるのかと。私はどのようにして、殿方に心奪われるのかと、ずっと悩んでましたのに」

だが、そんな視線になど臆する事なく、シルビアは遠慮なく下から睨み続ける。

「そんな馬鹿な。お前は騎士団の中にあって絶対不可侵の――」

「――そんな私から見ても、貴方をはじめ、騎士団の殿方にはそのような感情を感じた事は一度もありませんでした。今となっては当然ですわね? こんな悪辣(あくらつ)なことを平然とやっている男達に、心揺るがされるはずがなかったのです」

その瞳には、怒りが籠められていた。

多くの者を涙させた、その悪意に。

他者を苦しめてでも欲望を満たそうとしていた、その害悪に。

シルビアは、静かに怒りを湛えた目で、ライオットを睨み続けていた。

「……う、ぐ」

そのいい知れぬ重圧に、ライオットは頬に汗を流してしまう。

「私が靡かなかったから副団長に従った? 何を馬鹿な事を。貴方は最初から履き違えていますわ。貴方のような男に、私が靡く事など、最初からありえなかったのですから!」

自覚なさい、と、怒りのままに言葉を突きつけ――しかし、そこで止まってしまう。


「黙れよシルビア……お前、裸になっても同じことを言えるのか?」


 その怒りの言葉は、しかし、却ってライオットを戻れぬ道へと押し進めただけであった。

露になった胸元から見える肌着を切り裂き、ぱしゃりと落としてしまう。

スカートの脇を切り落とし、ずり落ちた後に残った乳白色の布切れをも剣先で斬りおとしてしまった。

辛うじて腿に挟まれ残ったその下布は、しかし、不恰好な形にも見え、却って男の興奮を煽ってしまう。

「いいざまだなシルビア――ほら、どうした。さっきのご高説はもう終わりか? 続けても良いんだぞ? 俺の前でストリップしながら、偉そうな事を言ってみろよ。ほら。早く言え。言えったら!!」

「あっ――!!」

ばしり、と、剣の腹で頬を叩き、姿勢を崩させる。

横倒れになったシルビアの左腕を踏みつけながら、にやり、口を歪ませるライオット。

「うぐ……く……っ」

腕の関節を踏みつけられ、激痛に歯を食いしばりながら呻き、なんとか身を振り抵抗しようとするも。

再び首筋に剣をつきつけられては動く事などできず、されるがままになってしまう。

「抵抗できないからって口ばかり動かすがな。お前は意味のない事をしているんだ。自覚しろよ敗北者。お前の口は何の為についてるのか、これからじっくり教え込んでやる。貴族のお嬢様には解らんだろう? 俺も初めてだから上手くないかも知れんが、なに、相性さえよければ何の問題もないという話だから気にするな」

下卑た顔のまま、白昼堂々とシルビアの服を剥ぎ取ってゆく。

それが楽しくて仕方ないとばかりに。

興奮が収まらぬとばかりに、ライオットは、普段の冷静さをかなぐり捨ててシルビアの言う『悪党』に成り下がっていた。

ただひとえに、目の前の女を欲するが為に。

どうせ殺されるこの女を、せめて今だけは忘れられぬようにと、徹底して傷つける為に。



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