食顔鬼
グロ注意です。
「また、この手の死体か…。」
憂鬱そうに刑事と思われる男が呟く。彼が担当しているのは、ここ何ヶ月かで10件以上発生している「食顔鬼事件」である。この事件の被害者たちは一様に、顔面を損傷しているのである。しかも、検死の結果、凶器は人間の歯であることがわかったのである。ゆえに「食顔鬼」と呼ばれているのである。
青森市内で続くこの猟奇殺人事件を担当する坂東刑事は気が滅入っていた。
「いつも通り、被害者の顔面の肉を骨が見えるまで食いちぎってやがる。丁寧に目玉もしっかりとってやがる。近くに転がってないことをみると、食ったか持ち帰ったようだな。死因はショック死だ。」
相棒の加藤が相槌を打つ。
「うむ、害者は抵抗しようとしたようだが、鎖骨を折られたようだな。」
鎖骨を折られると腕が上がらなくなる為であろう。
「被害者は佐藤幸三。40歳。会社員だ。」
「やはり、害者達にはこれといった繋がりはないのか。」
「ああ。まったくと言っていい。」
「うんざりだ。」
坂東はどんよりとした空を見上げつつ呟いた。
翌日、捜査会議が開かれた。
今のところこの事件についてわかっているのは、凶器は人間の歯、顔のみを狙うが抵抗された場合は鎖骨や脚の骨を折る、害者同士に社会的な繋がりが無い為通り魔的犯行の可能性が高いということくらいである。目撃者は居らず、犯行の時間帯も夕方から深夜にかけてとかなり広い。正直、お手上げ状態である。
会議の後、坂東は久しぶりに帰宅するのを許された。ここ2週間、署に泊まりこみで捜査を続けていたのだが流石に限界だった。電車に乗り、最寄りの駅に着くまでの間、さっきキオスクで買った雑誌を読むことにした。雑誌には「食顔鬼事件」についての記事があり、警察の対応を批判していた。
「なにもわかってねえくせに。」
坂東は毒づいた。胸糞が悪いので違う記事に移ろうと思ったときに、気になる文が飛び込んできた。
「犯人は子供か?」
インターネットでは犯人は子供くらいの背丈であるという
噂が流れている。もしそうだとしたら、怪物のよ
うな怪力の持ち主である。他にも、犯人は人間で
は無い、悪魔に取り憑かれた人間だ、などといっ
た説が跋扈している。
「子供ねえ。」
もしそうだとしたら警察は子供のお遊びに付き合わされているのだろうか。坂東はため息を付いた。
最寄りの駅に到着し、坂東は家までの路地を歩いていた。
「もう11月も終わりか。」
寒さが厳しくなっていることを感じていると。電信柱の脇に小学6年生くらいの子供が立っていることに気づいた。時刻は23時過ぎ。子供がいるには不自然な時間帯である。しかし、昨今の児童虐待のなかには親に野外に放置されているケースもあるので、坂東は警察官という職務上、声をかけずにはいられなかった。
「そこの君、こんな時間に外にいたら危ないよ。お家は何処だい。」
出来るだけやさしい声で話しかける。しかし返事はない。聞こえなかったのかと思い、更に近づきながら同様に声をかけた。あと、1mほどのところで坂東は違和感を覚えた。子供が夏服と言っていいような薄着であったのだ。それをきっかけにあの雑誌のことを思い出した。
「犯人は子供か?」
坂東が警戒した時、それが動いた。人間とは思えない速さで坂東目掛けて突っ込んできたのだ。坂東は咄嗟に拳銃を抜いていた。それが坂東の上にのしかかり、顔を近づけてきた。それの顔を見た時、坂東は血の気が引いていくのを感じた。それの顔には眼、鼻がなくかわりに、縦に裂けた口が付いていたのだ。坂東は恐怖にかられ、思わず引き金を引いていた。怪物の腹部に一発、脚に一発が当たった。怪物は一瞬怯んだが、再び坂東の顔を喰う為に顔を近づけてくる。坂東は抵抗しようと腕を振り回そうとしたが鎖骨を折られてしまった。坂東は恐怖と絶望で失禁していた。それの口の中に生えた歯が坂東の顔に食い込み始める。
「あがっ、あがあああ。」
痛みに叫ぶ坂東。だが、怪物の夜食を止めることはできない。坂東は痛みに強い方だった。それを今は恨んでいる。顔の皮が、肉が、骨から剥ぎ取られて行く感覚。自分の肉が咀嚼されている音を聞いていると、気が狂いそうになる。早く殺して欲しかった。怪物は坂東の眼窩に指を入れはじめた。
「あぎゃああああああ。」
痛みよりもその感覚の気持ち悪さに叫ぶ。視神経がちぎれていく音が聞こえる。目玉が片方怪物の口内に吸い込まれた時、ついに坂東の鼓動は停止した。
翌日、坂東の死体が近所の主婦に発見され、現場が調査された。現場には坂東以外の血液があり、それが調べられると署内に動揺が走った。あきらかに人間でもこの地球上に存在する生命体のものでもなかったからである。より詳しい検査をするために。国立の研究所に血液を送ると、政府から圧力が掛かった。捜査の中止と箝口令が出たのである。
それから二ヶ月がたったが坂東の事件以降は、同様の事件は起きていない。彼の放った弾丸が効いたのか、それとも別の何かか。加藤は坂東の墓前でそう考えていた。
「相棒、災難だったな。こんなよくわからねえもん相手にしちまうとわな。もう二度とこんな事件はごめんだよ。」
加藤はそう言い、墓を後にした。
ふと思い立って初めてホラーを書いてみました。グロいだけで恐怖演出が全然できてない気がします。感想をいただけると嬉しいです。