エピローグ 「Happiness」
「わかった。じゃあそれでよろしく」
30分に及ぶ長電話がようやく終了した。
「ふぅ」
今の電話で今日の仕事が終わった。
「入るわよ」
部屋に誰かが入ってきた。
「何のようだ、舞?」
「あら、妻が夫に会うのに理由が必要かしら?」
「いや、そうだな」
舞は俺が座る場所の目の前にあるソファに座った。
俺もその隣に移動して座る。
「それにしても、まさかあんたがここまでやるとは思わなかったわ」
「どうせ、喧嘩しかできない単細胞バカとでも思ってたんだろ」
「そうね。あんたが学校一の秀才じゃなければそう思ってたわ」
知ってたのか。
「なんでそれを知ってるんだ?」
「私がずっと二番目だったからよ。気になって先生に聞いたら、こっそり教えてくれたわ。一番はずっとあんただって」
当時の二年三組の難点である俺たちが学年の成績上位二つを独占してたというのはなんとも皮肉な話である。
ただ、舞は家柄で、俺はおじさんに迷惑を書けないためにお互い人一倍の勉強をしてきたが故の結果であり、もっと言えば俺は学校の授業が退屈だからこそ授業サボってふらふらしてた。
時々溜まったストレスを発散するために喧嘩するようになったのは、今思えば少し恥ずかしい歴史だな。
「全く、隠してたのに」
「まあいいじゃない。だからこそ、私はあんたのことが気になったわけだし」
「あれか、本郷家の人間として一番じゃなきゃいけないとか思ってたんだろ?」
「う、うるさいわね」
舞がムクッと膨れたあと、すぐに真顔に戻った。
「ん、どうした? 急に真面目な顔をして」
「……でも、おかげで私は願いが叶ったから」
「そうだったな」
あの結婚式の一件後、その責任という形で高校卒業の後俺は本郷家の企業に就職をした。
下っ端からのし上がるのにはそれ相応の努力を要したが、徐々にその努力が実っていき、気が付けば俺は本郷家のトップに座っていた。
結果的に白鳥家の勢いを跳ね返す程の経済成長を実現した俺は、晴れて本郷家の婿養子として認められることとなった。
その頑張りの見返りとして、俺は舞に最高の言葉をもって褒めてあげてほしいと頼んだ。
そうして返ってきた言葉は――
「舞は私たちの自慢の娘だ、か」
舞の目にうっすらと滴が溜まっていた。
「泣いてもいいぞ」
「う、うるさい!」
舞はあわてて涙を拭いた。
「なあ、舞」
「なに?」
「俺は、お前を幸せにできたか?」
ふと、そんな疑問を呟いた。
「正直答える気になれないわね」
「なっ! こっちは真剣に質問を――」
「最高に幸せよ」
「え?」
「私のことを大切にしてくれる人がいて、幸せにしようとしてくれる人がいて、なにより、愛する人の側にいられて、幸せに決まってるじゃない」
「……よかった。そう言ってくれて嬉しいよ」
「そういうあんたはどうなのよ?」
「舞が幸せだって笑うなら、俺も幸せだ」
「そう、なら――」
舞が膨らみ始めたお腹に手を当てて笑った。
「これからもっともっと幸せになろうね」
「ああ、そうだな」
――新しい『家族』と一緒に。
ご拝読ありがとうございました!初めての連載小説で少し短いですが無事書き終えることができました。後半は推敲が思うように進まず更新できない日がありましたが、今はホッとしています。
誤字脱字、表現の間違い、ストーリーの矛盾点等何がございましたらご指摘よろしくお願いします。