プロローグ 「Kiss」
「――呉高のボスも所詮こんなものか」
雲一つない真っ暗な闇にポツンと綺麗な円を成す地球の衛星が輝く空を見上げ、俺はつい先程軽く潰した不良集団のボスの腹に腰掛けながらボソッと呟いた。
周りには総勢二十人程の不良が一面に倒れている。
折角見つけた好敵手だと思っていた分、期待ハズレも甚だしい。
「なんか、つまんね」
やる瀬ない気持ちを抱いたまま、静かになった空き地を後にした。
人気の少ない、閑静な夜の住宅街を定まらない足どりでふらつく。
俺は常に一人で喧嘩してきた。いつから喧嘩するようになったかなんてもう覚えてない。
十人来ようが二十人来ようが例外なく藻屑の山をつくっては弱さに絶望して次の標的に当たる。
そうしてここら辺のめぼしい高校の不良や、ならずどもを皆この手で潰してきた。
どいつもこいつも、大した実力も腕っ節もない雑魚ばかり。どうして強いと言われているのか不思議で仕方がないやつも多くいた。
今日喧嘩をした県立呉工業高校は名高い不良の巣窟として有名だ。
俺と呉高のボスの肩とぶつかったせいでその場で起きてしまった喧嘩とはいえ、そのボスによって召集された奴らは皆中々の戦歴を持ってそうな感じだった。
そしてそいつらを束ねるボスは大層な風格を持った厳つい大柄のマッチョで、これはヤバいと思い久々に腕がなる喧嘩が出来ると期待していた。
なのにいつもの結末にたどりついた。
今度は、空手の道場にでも喧嘩を売ろうか。それくらいじゃないと心が躍らない。
それにしても、もっと激しく争うつもりだった俺の腕、足、頭、その一つ一つが喧嘩に飢えているのが身に染みてわかる。
……帰って寝るか。
上の空のままに歩いていると、誰かとぶつかった。
「きゃっ!」
歩く勢いが早かったためか、俺が相手を押す形で二人向かい合って倒れてしまった。
そして――
俺はその相手と唇を重ねてしまった。