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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

鬼の世界

作者: 柿緒

 たった今、オレは世界にひとつ借りをカエした。

 グタイテキに言えば、人を一人殺してカネをウバってきた。それが、どうして世界に借りをカエしたことになるかと言えば、つまりこういうことだ。

 

 この世界が正常に機能している間は、命はオレたちからはじめにウバうのではなく与えてくれる。世界のおかげで命があふれかえっている。しかし命はすべからく周りの命が失われることによって生きながらえている。ぜんぜん命が失われずにたくさんの命が生きるというのはシゼンノセツリに反していることで、シゼンではないものはいつかフシゼンに耐え切れずにコワれることになる。そして、オレは生きるために命をウバっていると分かって命をウバうし、ちゃんと命をウバえるというのはフシゼンを正しているのに一役買っているということだし、つまりそれは世界に毎回しっかり借りをカエすということだ。世界は常にメンテナンスを必要としている。


 オレは生まれてきたことに感謝している。けれど、オレが生まれたときに母が死んだ。子供に母親がいないなんて世界で一番残酷なことのひとつだ。でも、おかげで人より早い段階で、世界のメンテナンスについて思い当たった。ただ、オレが世界のメンテナンスについて思い当たったのは生まれてきたときに母を殺してしまったことだけが原因ではなくて、ついでに父がオレを食わすためにやったドロボーのせいでオレの知らない人たちに殴り殺されたというだけでもなくて、それら以外の機会でオレが自分の意思でちゃんと人を殺せたからだった。

 

 命をウバウのは簡単で、ちょっとそこらでとがったものを拾って、殺そうと思う人間の胸か首にそっと突き刺すか、硬い石か何かで頭を叩くか、寝ているときに手か紐で首を絞めればいい。どの方法でやるにしろ、胸に耳を当てて、シンゾウのコドウがなくなったと思うまで時間をかけてやるのがコツだ。初めて殺したときは石を使った。オレは飢えていて、通りかかった女の頭に思い切り石を叩きつけ、持っていたパンの入った紙袋をウバって走った。袋のパンを食ってから、そうだあの女はもしかしたらパンだけでなくほかにも役に立つものを持っていたのではないか、自分はちゃんとウバいきっていなかったのではないかと思い、女を殴った場所に戻ったら、そこには何人か人が集まっていて、その中の一人が女の胸に耳を当てて、その後首を左右に何度か振るのをみた。それからは、ウバうときに胸に耳をあてて、ちゃんとウバえたかどうか確認するようにした。


 こうして生きているうちに、オレは世界にメンテナンスが足りてないことがわかるようになってきた。母が死んだのはメンテナンスのために必要なことだったのだ。ちゃんとウバえなかった父が死んだのは当たり前のことだった。オレのような親のいない子供はいつだって見かけたけれど、ちゃんとウバえたのは生きているのが多かったし、ウバえずにいたのはガリガリになって道端に転がっているのが多かった。でも最近はそうじゃない。ウバってないのに誰も腹を空かせていない。


 オレは世界のメンテナンスに貢献しているのに、そのことに気づいていないクソッタレがさっきからオレを見ているのが分かる。命を増やすだけ増やしてちゃんと数あわせをしようとしない卑怯者が、卑怯者らしく木の影に隠れている。そいつらはメンテナンスのことなんかちっとも考えたりしないで、命を守るとかなんとかのたまって、わけもわからず奪っているだけなのだ。世界にはメンテナンスが足りてないというのに。

 

 

takeiteasy!

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