Battle.3 彼女のサマーウォーズ <2>
サンサンと降り注ぐ光のシャワー。
青い海に水飛沫。
えー、えー、なんて海水浴日和なんでしょうね!
「志保、何でそんなもの着てくるの」
隣のこの人さえいなければ…
私は最後の抵抗とでも言わんばかりに、パーカーのチャックを一番上まで上げてホールドした。
「あまり肌を出したくないので」
「うんうん。貞操観念は大切だね。でも、ここには俺たちしかいないから大丈夫」
いや、あなたが一番危ないんですよ!
「志保ちゃん」
いきなり後ろからぴたっと首の辺りに腕が回された。
「あ、綾乃さん…」
「ふふ。私の選んだ水着は気に入ってくれたかしら?」
「あ、は、はい…」
「ほんと?じゃあ…」
そういってすかさず私のパーカーのチャックを下ろす綾乃さん。
後ろからなのになんて器用な…
ってそうじゃない。
後ろは綾乃さん、前は…先輩!
はっと気付いた時にはもう遅かった。
絶対に脱がないと固く誓ったそれをあっさり脱がされた私は、目の前の危険人物にすっかり見られてしまったのだ。
「どう?」
「うん、さすが、綾乃の見立てだね」
この目の前の兄妹は一体どこまで悪魔なのだろうか…
抵抗することをあきらめた私は、為す術もなく先輩にパーカーを脱がされてしまうのだった。
「先輩って、思い通りにならないことないんじゃないですか?」
頭からずぼっと入れられたおっきな浮輪にぷかぷかと浮かびながら、志保は不貞腐れたように拓也を見た。
ここは砂浜からは離れた沖の方。先輩に引っ張って連れられてきたのだ。
沖でビーチボールしてるメンバーがとおい。
無論、私の足の着く範囲ではなく、だからこうやって浮輪にいれられてるんだろうと思う。
「いっぱいあるよ」
「嘘でしょ」
訝しげに見てしまうのは仕方ないと思ってもらいたい。
「俺が何やっても思い通りになるなら、志保は今頃…」
海の中の近い目線で、そんなことを言われても困る!いやな予感たっぷりだ。
「わ、私が悪かったです!あやまりますから!だからっ…」
「志保」
「は、はい」
「確かに普段、いじめてる俺にも原因があるんだろうけどさ」
いじめてる自覚はあるんですね。
「そんなに恐がらなくても、俺は志保の何」
「えっと…」
「志保は俺のこと嫌い?」
…反則です。いつも邪悪オーラたっぷりのくせになんで捨てられた犬みたいな目をしてこっちを見るんですか…
目を泳がせてもここは海のど真ん中。そう簡単に逃げ場はない。
…やられた
「えっと…」
さっきから何度この言葉を馬鹿の一つ覚えみたいに零しただろう。
先輩の目はそらされる事なく私をじっと見てる。
緊張してしまって、何だかこの世界には私と先輩しかいないように感じてしまう。
「志保…?」
さすがに焦れてきたのか、会長が促してきた。
「き、嫌いなら付き合ってないです…」
精一杯でやっとこさ返事を返したけど、もちろん会長は満足してくださらないわけで。
ただでさえ、周りがしっかり海で逃げ場がないのに、うきわに体重が掛かるくらいの近距離にその綺麗な顔を近付けて来た。
「志保…どういう返事を俺が待ってるかくらいわかるよね?」
っ…ぎゃー!
耳!耳に息かけないで!
そんな色っぽい声で耳元でささやかないで!
逃げたいのにうきわはしっかり先輩に捕まえられているわけで…
「っ…」
絶対、今わたしの顔は真っ赤だ。
「これが最後のチャンスだよ?俺のことどう思ってる?」
「…最後のチャンスって…これを逃したら何があるんですか…」
「知りたいんだ?」
にこっと笑うその表情は魔王サマ降臨ですか!?
「知りたくないです!」
「じゃあ答えて」
わかってる、わかってるもん。
この人を前にして逃げられるなんて思ってなかったよ。
「……好きです…」
すごくすごく小さな声になったけど、これが私の精一杯。
恥ずかしくて顔すら上げられない。
そんな私の頬をそっと大きな両手で包んで、先輩は顔を上げさせた。
優しく笑うその顔は、普段は見られない。
私にだけ向けられてるんだって思うのは自惚れかな。
「よくできました」
そういってポンと頭を撫でられた。
「本当はご褒美にキスしたいとこなんだけど」
「なっ!」
「ギャラリーいるし止めとこうか。俺は別にいいんだけど」
や、やめてください!
この人、私が首を振らなきゃ確実にしてたと思う。
流石に先輩も慈悲はあったのか、思うままの行動は止めてくれたようで、私はほっと一息ついた。
「二人きりでたくさんしようね」
ええ、すぐに爆弾は落としてくれましたけどね!
「そうだ、志保」
「なんですか…」
「俺のことはいつまで会長って呼ぶの?綾乃だって名前で呼んでるんだから、俺のことも名前で呼んでよ」
脈絡なく話題をふるのは止めてください。
「む、無理です…」
「どうして?」