刺身包丁
ダウンの右ポケットには恋人の左手が強く心音が脈動している
その反対の左ポケットには彼女からの着信音が明滅している
衰微した三半規管が絶叫を上げ、絶域の背徳感が脳髄を駆け巡る
あまりの苛烈さに右脳と左脳が空中分裂を起こし
肉体は左右になますのように裂かれ開かれる
寸裂されればよい、我が骸など断裂されればよい
左右の手共々、全てを
背徳という刺身包丁で左右から肺腑を刺突されたかのような
背後から出刃包丁で滅多刺しにされたかのような異域の激痛
忘れはしまい、双方の刃の味を忘れはしまい、決して
そして許されはしまい
我が背徳に関わる全てが