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データ8 デフテト 宿屋:カオスLv.7

「――ッあんたが死んだら誰が勇者をやるのよカオスっ!!! ……あれ?」

「一体、どんな夢を見ていたんです?」


 くすくすと笑う声に目を向けた。とっても美人なユフィさんが、横で微笑んだ。普通なら見惚れてしまう美人を前にして、私の冷や汗は止まらない。


 警鐘のように絶えず響く頭を押さえつける。部屋中に広がる独特な薬品の匂いは、不思議と嫌じゃなかった。ここはデフテトの、診療所だ。


「貴女、街の入り口で倒れたんですって?」

「……はい」

「勇者様がここまで運んできてくださったのよ。今、先生を呼んできますからね」


 そう言ってユフィさんは部屋から出て行ってしまった。私は、街の入り口で倒れた……んだっけ。……分からない。部屋に1人、取り残された私。カオスはどこにもいない。


 すぐにユフィさんと一緒に、その先生は部屋に入ってきた。先生の顔を見た瞬間に、心臓が握り潰されたような気がした。安堵と動揺が一気に押し寄せる。


「テオ……先生……?」

「私の名前をご存知でしたか」

「……えっ⁉︎ どうして泣いてるの?」

「泣いて……?」


 言われてから気付く。2人を見た途端、私の目から大粒の涙が溢れていた。なぜだろう。美男美女の微笑みが、私をひどく安心させてくれた。

 初めて会うはずなのに、さっきまで会っていたような気がしてならない。


「目が覚めたようですが……泣いてしまうほどの頭痛なのですか?」

「えっと……すみません。正直とても痛いです」

「それはいけませんね」


 眼鏡の奥の細い目が、一際細くなる。私よりもいくつか年上だろう。銀髪がよく似合う。

 デフテトに診療所があるのは知っていたけれど、中に入ったのは初めてだ。私は超健康体で、病気になったことはない、から。


 テオ先生が私に治癒術をかけてくれて、少し頭痛は治った。なにか、大切なことを忘れているような気がする。でも、頭の中に黒い霧がかかっていて、上手く思い出せない。


「……っそうだカオス! 勇者はどこ?」

「勇者様でしたら彼は調べたいことがあると、出かけていきました」

「調べたい、こと」

「はい。距離がどうの、と言っていましたかね」


 その時、紋章が刻まれた右手の小指が攣った。()()()()()()()()。今からカオスが私の横に来る。


 予想通り、カオスは現れた。

 美男美女は2人して口に手を当てて、かなり驚いている。カオスに目を移すと、右手を開いたり閉じたりしながら真剣な表情をしている。


「意外と距離ある、なんて思ってる?」

「……マイア」


 カオスは私達にゆっくりと体を向けた。なぜだろう。私はカオスの言いたいことが、それなんじゃないかって思ったの。


「この美男美女に私を任せて、自分は観光でもしてたの? 他に言うことあるでしょ。驚かせて――」

「驚かせてすみません、先生、ユフィ様。マイアを見てくれてありがとうございます」

「よろしい」


 少しは人の心があるみたいね、勇者(ダサマント)様。私は毛布を握りながら、カオスを見た。視線に気付いたカオスもまた、私を見る。

 あんた、喋らない方がモテそうね。

 ちゃんとした人に見えるわよ。


「マイア、覚えてるのか?」


 カオスの目の奥が、揺れているように見えた。


「何が?」

「……なんでもない」


 その問いを、私は深く追求しなかった。

 多少治ったと言えど、まだ頭が痛い。記憶を辿ろうとすればするほど、痛みは増していく。考えなければマシになる。

 私達を見て微笑んでいたユフィさんは、はたと何かに気付いたようでテオ先生に向き直る。


「あら。先生、そろそろお時間では?」

「おっと……もう行かねばならないですね。すみません、私はこれから用事で出なければなりません。ユフィーナがいるので、ここにいても構いませんが、いかがしますか?」


 私もカオスも、即答できなかった。カオスが何か考え始めている。テオ先生とユフィさんは首を傾げて、返事を待っているみたい。


 早く往診に行かないと魔王軍に裏山が先生で――痛い。この先のことを考えれば考えるほど、頭が痛い。涙が止まらない。この痛みから解放されたくて、無性にイライラする。


「マイア様、寝ていた方がいいわ」


 ユフィさんの手が、私の肩に優しく触れた。そのまま治癒術で痛みを和らげてくれる。とても落ち着く。このまま頭の霧が晴れそうだ。

 もうちょっとなのよ。もう少しで、とても大事なことが思い出せそうなの。でもダメだ。思い出せないや。


「マイアはここに残り――」

「待って、カオス」


 カオスの言葉を、私は遮る。まだ頭痛はするけど、ここにいても、宿にいても一緒だろうし。何を考えてるか知らないけれど、あの時みたいにならないように見張ってやるわ。


 額ににじむ汗を拭って、私はカオスに向き直る。

 カオスが腕を組んで、私の言葉を待っている。


「私達もついていかない?」

「本当ですかっ⁉︎」


 声を上げたのはユフィさんだった。私の手を握って、目がうるうるしている。心配してたもんね。


「テオ兄様はこれから、デフテトの西側にある裏山に住んでいる方の、往診に向かうんです。でも……その裏山は、魔王軍の動きが活発になっている噂があって」

「こら、ユフィーナ」

「テオ兄様……ユフィは心配なのです。兄の治癒術は一流です。世界一です。その代わりに戦いはてんで駄目で……」


 私の手を握る力が一層強まった。本当に、心配なんだ。魔王軍の動きが活発になっている、なんて噂は聞いたことないけれど。カオスを見たら首を振っている。


 裏山に住んでいる奴も、どうかしていると思うんだけれど。一旦置いておいて。気になるんだよね。放っておいたら、良くない。そんな気がするの。


 そんな中、カオスがぽつりと呟いた。


「……行きますよ、一緒に」

「っありがとうございます勇者様!」


 ユフィさんの嬉しそうな返事の後だった。

 ピコン、という音と共にめっせーじうぃんどうは現れる。私とカオス、2人の目の前に2つ分。


【★EXシナリオ】

『デフテトのメイヤーズ兄妹』


「邪魔!」


 すぐに消してやった。ユフィさんを見ると、やっぱり首を傾げている。他の人には見えないんだ。

 カオスはというと、それを消さずに口元に手を当てて、じぃと睨んでいる。


「どうしたの? カオス」

「…………変わってる」

「えっ? 一緒じゃない」

「全然違う。サブとEXじゃ、月とすっぽんくらい違うよ」


 あえ? すっぽん?

 勇者語録にまた新たな言葉が追加されたわ。


「こんなの、攻略サイトにも攻略本にも、どこにもなかった」

「何ぼそぼそ言ってんのよ! 行くわよ」


 私はベッドから飛び起きた。ユフィさんのお陰で頭痛も治ってきたし。怖いけれど、困っている人を放っておくよりマシに思えた。

 今はね。

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