データ2 セーブしますか?
勇者に選ばれたのは、私でした。
最悪だ。自分が選ばれるとは思ってなかった。開口一番、意味不明。しかもこんな、こんなダサい服の勇者に。いやダサいのは今関係ないか。
でも、この5人の中から選ぶとしたら、私は除外第一候補でしょ。私だったら絶対選ばない。だってこの後、魔王の所まで行くんでしょ? 絶対魔物や魔人と戦うじゃない。狩りもしたことのない、この私が。
痛いの嫌だよ? 怖いし。それに魔法はちょっと使える程度で、戦いには向いてない。だから、勇者に聞いてみた。
「あの、どうして私なの?」
「え?」
きょとんとした顔をして、勇者は聞き返してくる。聞こえなかったのか、それとも予想していなかった質問なのか。もう一度聞いてみる。
「どうして私を選んだの?」
「……あぁ! それは君が一番伸び代があるからだよ」
どういう意味だ、と聞く前に体が勝手に勇者を殴っていた。全身に立った鳥肌が止まらない。
大人達が駆け寄ってきて、勇者を心配し、私を取り押さえた。これはいけないことをしたようだ。反省反省。
勇者は体についた砂をはらいながら立ち上がる。幸い、どこにも傷は付いていない。良かった。逆恨みされても困るからね。
そうして私の目を見て、手を差し出した。
「よろしく、マイア!」
「私の質問は無視?」
「いいからいいから。はいっ」
私の手を掴んで、無理矢理握手させてきた。
私に拒否権はないの?
私の名前をなぜ知っているの?
私を選んだ理由は?
疑問は全部何処かに飛んでいった。
握手をした手の上、というか目の前ね。さっきみたいに、半透明の四角いやつが現れた。また、文字が書いてある。えーっと何々……。
【忠誠の誓い 〜勇者・カオスとの旅〜】
『勇者と握手を交わした。魔王を倒し世界に平和をもたらすその刻まで、君と共に戦おう。例え命が果てたとしても。▶︎』
「……命?」
ぞわりとした感覚が背中を這って、思わず手を振り払う。右手の小指が、熱い。恐る恐る見てみると、青白く光る指輪のような紋章。
勇者の手にも同じように、右手の……親指に紋章は現れている。一体何なのこれは!
「ふぉっふぉ、ついに魔王討伐への一歩を踏み出しましたな。勇者様よ」
そう言ってこちらに出てきたのは長老、もとい村長。でっかい杖を支えに、なにか言っている。これが一歩、ですって?
勇者が選べるのなら、私にも選ばせなさいよ。長老の言葉をよそに、勇者へ問いただす。
「なにこれ」
「これは忠誠の誓いと言って――」
「違う。これ!」
異議を唱えさせてもらう。勇者は紋章について言おうとしているようだ。でもそれ以前に、この半透明の四角いやつ。さっきから見えているこれは、何なんだ。
また勇者は、きょとんとした顔をこちらに向けている。私ってばもしかして、的外れな事言ってる?
「マイア……これが見えているのか?」
「あんたが来てから見えるようになったけれどね。で、なにこれ」
「マジで⁉︎ そっか、そんなことあるんだ」
お腹を抱えて笑い出した。
笑える要素、どこにもないけど。
でも勇者の反応を見る限り、見えちゃいけない物が見えてるのかな。周りにいる皆に目を向ける。皆、首を傾げている。
こんなにはっきり見えているのに。勇者に選ばれなかった、歳の近いジュピターに聞いてみた。
「これ見えないの?」
「ごめん、マイア。僕だけじゃなくて、多分誰にも見えてないよ」
皆頷いている。勇者のせいで、見えてはいけない物まで、見えるようになってしまった。あぁ、もう嫌だ。
――その時だった。
私の思考を遮るように突然、白く輝く大きな光が現れた。次から次へとなんなの、もう。頭爆発しそう。
『……しゃ。……勇者カオス。それからマイア。契りは結ばれました。魔王を倒す準備は、覚悟は。できていますか?▶︎』
「ハイ!」
鈴の音のような、軽やかな声が質問してくる。またあの半透明の四角いやつだ。白い光と一緒に浮かんでいる。あと何回見せれば気が済むの。
勇者が元気の良い返事をしている。私には返事をする元気は、既にない。
『この先の旅は長く、辛いものになるでしょう。それでもお行きなさい。世界に平和をもたらす為に。▶︎』
「マイアと頑張ります!」
勇者の返事と合わせて、白い光は空へ向かって消えてしまった。半透明の四角いやつも、ついでに消えた。一瞬の静寂のあと村の皆が、ざわつきだす。
「今のは……女神様ではないか⁉︎」
「俺にも聞こえたぜェ。美人の声だ」
「アタシは選ばれなかったのねぇ。ざんねぇん」
「この村で、勇者様の活躍を見守りますか」
あー。ダメだ。これ。皆もう勇者が旅に出る方に意識行ってる。私に拒否権ないや。諦めて項垂れる私の肩に、ぽんと触れた勇者の手。
「一緒に行くぞ、マイア!」
「…………」
誰も教えてくれない答えに、私は無言を貫く。どうしたら勇者について行く気になれるんだ。
「マイア! これを持っていきなさい」
顔を上げると、お母さんが駆け寄ってきていた。手には薬草の束と手作りサンドイッチ、それから魔法の杖。先端に埋め込まれたエメラルドの輝きを、綺麗な装飾が一層映させる。
こんなに良い物を、用意してくれてたなんて。お母さんの思いを無下にするわけにはいかない。っていうか、できないよ。
受け取って握りしめて、私はお母さんに誓う。
「お母さん! 私、このアホと一緒に世界救ってみせるから!」
「お願いだから勇者様と呼んで、マイア」
お母さんの為だから。仲良くできるかは置いておいて、私は勇者について行く事にした。無理だと思ったらすぐに逃げ帰ってやるから。
お母さんと抱きしめ合って、勇者に向き直る。
「行くわよ勇者。これからどこに行くの?」
「次の町に行きたいんだけど、ちょっとだけレベル上げでもしようかなー」
…………なんて?




