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データ17 カナハの森 南東:カオスLv.12

『おっかしいなぁ。こっちの方角で合ってるはずなのに』


 呟いたのはルルだった。私たちは魔物を倒し、カオスとテオ先生を探すため、森の中を捜索中。3人の案内で森の奥へとどんどん進んでいく。

 けれども、闇が深くなるだけで何もない。加護とやらのお陰で怖さはないけれど、不安は増していった。


「……そういえば、他の魔物は出てこないのね」

『雑魚は怯えてるのよ』


 ロロが淡々と呟く。他の魔物が怯えるほどの魔物が、この森を占拠してる……ってことよね。トレントですら手こずったのに、大丈夫かしら。


『大丈夫大丈夫!ルルたちいるもん』


 笑いながらルルは言うけれど、不安なもんは不安だ。怖さとはまた違う話だと思う。……っていうか。


「なんで私喋ってないのに、大丈夫って言ったの?」

『え? あんたの心の声、丸聞こえだもの』


 ララの怪訝な顔を見て、私も同じような顔になってしまう。思ったこと口に出してた?


『いえ。エンチャントの効果で、ロロたちに貴女の声が届くようになったのよ』


 長い髪を揺らしてロロは言う。

 どうやら私の恐怖は、ララたちの不屈の心を私の心に上書きしているらしい。その影響で私の思ったことが伝わってしまうとか。

 つまり、リンクしている。私には3人の声は届かないんだけれどなぁ。変なこと考えないでおこう。


『あはは、変なこと……って……』

「どしたの?」


 言葉を詰まらせたルルは、私の問いに答えなかった。他の2人も黙って一点を見つめていた。私も同じ方向を見てみる。暗い森が広がるだけで、特に変わった様子もない。


『……あんた、名前は?』

「マイアよ」

『ララたちの名前はもう分かるよね。マイア、この先にララたちが探している魔物がいる』


 私の喉は、ごくりと鳴った。心臓の音が速くなっていくのを感じて、杖を両手で握る。いよいよご対面ってワケね。


 ララたちとともに、ゆっくりと草木をかき分けて足を進める。魔物もいないし風も吹いていない。とても静かだ。踏み締める砂と葉の音、それから私の胸の鼓動だけが、やけにはっきり聞こえている。


 そして木々の隙間から光が差し込む、開けた場所に出た。陽の光と暗闇が混ざった、不思議な雰囲気の場所だった。


『いるわね』


 ロロの声が聞こえる。目の前には祭壇のような石の建物があるけれど、崩れていて原型はない。カナハの森の奥にこんな場所があったんだ。


「……カオス?」


 石の建物の前に、見覚えのあるダサいマント。あの金髪は紛れもない、私の知っている勇者だ。俯いていた顔をゆっくり上げたカオス。苦しそうな顔をしながら、私を見て目を見開いた。


「来、るな、マイア……」

「え?」

『危ない! エレメントウォール!』


 何かと何かがぶつかった衝撃音に、思わず目を閉じる。まぶたの外からでも分かる、眩しさの正体が知りたくて再び目を開けた。

 三姉妹が展開したバリアが、私の周りに光り輝いている。バリアの外から見えている魔物の攻撃から、守ってくれていた。


 魔物はにやりと笑い、軽々しく身をひるがえす。音もなく着地して、艶のある黒髪が揺れた。頭から生えた角に、黒い羽と尻尾。書物に載っている悪魔のような、人間のような見た目。


 肌を自慢げに見せつける、大人のお姉さん。その妖艶な姿に、見惚れない人はいないと思う。舌なめずりをして、こちらを見ている。


「アタシ、女に興味ないんだけどぉ」


 妖艶な魔物が笑って言った。

 そんなこと、知ったこっちゃないよ。


「カオスとテオ先生を返して」

『カナハの森から出ていきなさい!』


 私とララは、魔物に要求する。どうせ聞いてくれないだろうけれど、言って損はないと思う。森の加護の力で私は、いつにも増して強気だ。

 杖を魔物に向けて、魔力を流し込む。先端にあるエメラルドの装飾が、淡く光り始めた。


「ばっ……かマイア逃げろって!」

「遅いわねぇ小娘」


 気が付いた時には、魔物が目の前にいた。私は呆気に取られている間に、お母さんにもらった杖を乱暴に掴む。そして、真っ二つに折られてしまった。

 装飾が付いている半分が、乾いた音を立てて落ちる。エメラルドは輝きを失って、ただの石ころのようになった。


 私の、大切な杖が、折られた。

 お母さんに貰った、大切な大切な魔法の杖。


「ぐ……っ!」

「よそ見してちゃダメよ」


 体が宙に浮いた。その代わりに首がとてつもなく苦しい。目をこじ開ければ、魔物の腕が私の首を強く握っているようだった。もがこうにも、もがけない。まるでレインボースライムの体の中にいるみたい。


「カオス……やって、くれ……たわね」


 声になっているのか分からない声を、私は発した。カオスのそばにいると、ロクなめにしか遭わない。睨んでやりたかったけれど、視界がぼやけてカオスがどこにいるか見えなかった。


「これからデザートを楽しむつもりだったのに、邪魔してくれちゃって。貴女の仲間の眼鏡美男子、美味しかったわぁ。ご馳走様」


 首を掴む力が一層強まる。私はこの苦しみに耐えるしかなかった。そんな中、遠くからカオスの叫び声が聞こえる。


「――三姉妹!」

『なんでララ――のこと知っ――の?』

「話は後――。お前――俺を今す――せ」


 なんか、全然声が聞こえない。目は、ぼやけてるし。勝手に話進めないでよ。もう少しで意識が完全に落ちそうになったけれど、爆発音と共に私は地面に落とされる。


 空気の吸い方を忘れた喉が、掠れた音を立てた。音のした方を見れば、アルセイス三姉妹がカオスの周りにいる。カオスからは黒い煙が上がっていた。何をしたの、ララたちは。


『どうしてもって言うから、殺した』


 これはロロの声だ。なんてことをしてくれたんだ。私1人置いて、どこに行こうと――


「…………あ?」


 ――セーブとロードの力が、頭をよぎった。カオスにしかできない、勇者たる力。もしかしてカオス、わざと?

 首を掴まれた時とは、また別の感覚が私を襲った。頭がぐわんぐわんと揺れて、気持ちが悪い。とりあえず憶えているのはここまでよ。


 私も一緒に前の時間に、戻される。

 まぁ、覚えちゃいないけれどね。

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