データ16 カナハの森 南東:カオスLv.12
ちょっ……と待ってよ。
なんで2人ともいないの。
身体がひとりでに、カタカタと震え出す。まだ昼間のはずなのに、夜みたいに闇が迫ってくる。風が吹いては、木々がざわめいた。
こんなところに独りはキツいわよ。
この場に留まる? もしかしたら2人が戻ってくるかも。それともピュレイの丘に戻る? いや、魔物に襲われたら太刀打ちできる自信はない。
どうする、私。考えろ、マイア。
……そうは言っても、考えなんて上手くまとまるわけもなく。握った杖は手汗で湿っていった。何度辺りを見渡しても、人は私だけ。
無理すぎる。なんでこうなったの。だからカオスの腕にしがみついていたのに。マイアのばか。
『ふふ……』
「ッ誰⁉︎」
どこからともなく聞こえた、くすくすとこだまする笑い声。幻聴であれば、どんなに良かったか。笑い声は次第に、はっきり大きくなっていく。涙が勝手ににじんでくる。
『こっちだよ』
目の前にふわりと浮かんだ3つの光。見たくもないのに目に入ってくる。よく見るとその光は、人型をしていた。
人の手 くらいしかない、小さな人がふわふわ浮いている。逃げたいのに、逃げられない。足が動かなかった。
「……魔、物?」
『失礼しちゃう! あんな野蛮な奴らと一緒にしないで! ねぇルル?』
長い髪を後ろでまとめた、ツリ目の女の子は言った。ほっぺをぷくっと膨らませて、怒っている。
『まぁまぁ、人間から見たら一緒なんだよ。しょうがないよー。そうだよね、ロロ』
ルルと呼ばれたその子。肩の辺りで揃えられた髪を揺らす、タレ目の女の子は言った。困った顔で、笑っている。
『どうでもいいから、早く本題に入りなさい。ララ』
ロロと呼ばれたその子。自分の体程ある長い髪を整えながら、切れ長の目の女の子は言った。無表情で、どうでもよさそう。
そして、ララと呼ばれた怒っている子。私の顔の前まで飛んできて、器用にピタリと止まった。体も動かない、声もまともに出ない私に、小さな指を指し示した。
『ちょっとあんた! 謝りなさい!』
「な、なにに……?」
『何って決まってるじゃない!』
3人が集まって、私の周りをくるくる回り出す。そして目の前で仲良く決めポーズ。
『魔物って言ったことをよ!』
『びっくりさせてごめんねぇ』
『ララ早く本題を話しなさい』
「……」
全員同時に違うことを言ってきた。聞き取れたような、聞き取れなかったような。不思議なトリオだ。
「えっと……まずはごめんなさい。訂正する。それで、私はどうしたら……?」
無表情の子――ロロが、長い髪を揺らしながらすぃっと横に飛んでくる。私の手の爪ほどの小さな本をめくりながら、語り出す。
『ロロたちは、アルセイス三姉妹。この森に住まう……人間で言うところの妖精ってやつかしらね。今困ってるの、ロロたち』
「私も困ってる……! 仲間とはぐれたの」
『奇遇だね』
困り顔の子――ルルも、私の横へ飛んできた。そわそわと落ち着きがなくて、なんだか楽しそうに見えた。
『お互い困ってるならさ、協力しない?』
「協力……」
胸の前で杖を強く握る。頼れるとしたら、この子たちしかいない。でも、信じていいのかな。いたずらしている可能性も、あるよね。
私の不安は怒っていた子――ララが、ぬぐってくれた。
『ララたちは嘘なんてつかない』
ララはゆっくり私の元へ来た。怒っていたはずの表情を、真剣そのものに変えて。
『あんたの言う本物の魔物が、この森を荒らしてんの。家を荒らされたら嫌でしょ? そういうことよ』
確かにそれは嫌だな。私の部屋にカオスが来たら、ボコボコにする自信あるわ。
「つまり、その魔物を、倒せばいいの?」
『そゆこと。一緒に戦ってくれる? そうしたら、あなたの仲間を探してあげる』
可愛らしく首を傾げたララだったけれど、私は黙ってしまった。魔物ってどれくらい強いんだろう。戦いという言葉に、心臓の音は速くなっていく。
私1人で倒せるわけないよ。カオスとテオ先生がいるのって、結構心強かったんだ……。この子たちが一緒だとしても、自信ない。
『大丈夫大丈夫! ルルたちがついてるよ』
「でも……」
ルルが私を元気付けてくれる。それでも私は肯定も否定も、できないでいた。カオスたちと離れた今、ここから動いていいのかも分からないし。そもそも怖い。
『……仕方ない。アレをやろう』
そう言ったのはロロ。私を見かねてだと思う。3人は頷き、私の頭上で手を握り合った。三角形の魔法陣が浮かび上がって、頭の先からつま先まで一直線に下りた。
『トライアド・エンチャント!』
3人の揃った優しい掛け声が聞こえる。柔らかくて温かい光が体を包んだ。そして、メッセージウィンドウは現れたの。
【カナハの森の加護】
『アルセイス三姉妹がエンチャント(ランダム)を付与しました。▶︎』
カオスがいなくても、出てくるんだ。加護と書いてはあるけれど、内容は書いてない。頭の上からは、ふぅと息を吐く音が聞こえた。
『成功してよかったね』
「失敗する可能性あったの⁉︎」
誰が言ったかまでは分からなかった。失敗していたら、どうなっていたんだ。しかも何をされたのか分からないし。心配倍増。
『どう? 落ち着いたでしょ』
「……え? あ……」
体の震えは、いつの間にかおさまっていた。ひょっとしたら心が落ち着くような、魔法だったのかもしれない。
戸惑う私の前に、3人は案内するように前へと出る。
『じゃ、ついてきて。森の奥から気配を感じる』
「う、うん。分かった」
カオスとテオ先生を見つける前に、魔物と対峙する羽目になってしまった。暗闇に吸い込まれるように、アルセイス三姉妹と私は森の奥へと向かった。




