データ15 カナハの森 南東:カオスLv.11
「ぅぎゃあぁああ!」
森の木々がわざとらしく揺れて、私は思わず叫び声を上げてしまった。カオスの腕にしがみついて、涙に濡れた目をこする。
1人じゃないとはいえ、この暗さは中々こたえる。なにかの鳴き声が聞こえて、私は雑巾のようにカオスの腕を握り上げた。
「いででででマイア痛ぇよ」
「痛くない!」
「仲良しですねぇ」
「「仲良くないです」」
カナハの森に入ってすぐにセーブをしたカオスと共に、私とテオ先生はトリトスタを目指していた。頭痛がテオ先生を襲ったけれど、今は大丈夫みたい。
カナハの森の中は、とても入り組んでいる。獣道を行ったり来たりしながら、徐々に進んだ。カオスは方向が分かっているみたいで、その足に迷いはない。
しばらく歩いた先は、行き止まりだった。カオスが剣を抜いて、目の前の生い茂る葉っぱを切り刻む。
向こう側が見えたから、ここから先に進むんだと思う。行き止まりじゃなかった。でも、空洞状に木の根っこや土が絡まっていて、頭を下げないと通れなさそう。
「じゃあ俺先行くから」
「私も先に行きますね」
そう言ってカオスは私の腕をはがして、さっさとくぐって行っちゃった。テオ先生もさっさと行っちゃう。
「置いてかないでね!」
私も続こうと体をかがめた。置いていかれるどころか、むしろ2人は戻ってくることになる。私は足首をなにかに掴まれて、後ろに引きずられてしまった。
「ぅぎゃあぁああ!」
本日2度目の叫びを、私は上げる。声を聞きつけて、カオスとテオ先生が戻ってきてくれた。
足音を掴まれたまま宙吊りにされた私。スカートが重力でめくれてしまうのを、手でおさえながら助けを求めた。
「は、早く下ろして!」
「トレントかぁ……倒せるだろうけど、危ないよなぁ」
「私は戦力になりませんしね……困りました」
もしかして、結構ピンチ? 杖は落としてしまったから、私は攻撃ができない。頼りになるのは2人しかいないのに。
カオスが指を鳴らして、プチを召喚した。プチは魔物に向かって威嚇をしている。
「プチ、フレイムブレス」
「がぅっ!」
プチがくるんと跳ねて、口から炎を魔物に放った。丁度良いところに当たったのか、私は宙吊りから解放される。トレントの枝が燃えていた。
支えを失った私の体は地面に激突――しなかった。カオスが受け止めてくれて、私はカオスの背中に尻餅をつく。
「いっ……たぁい……」
「ったー! 痛いの俺な⁉︎ ほら杖」
お母さんからもらった大切な杖を受け取って、テオ先生の横に逃げ帰る私。カオスも一旦後ろに下がって体勢を立て直す。背中をさすりながら、インベントリを触りだした。
こんな時になにやってんのよ、と思ったけれど、短剣を取り出してテオ先生に手渡した。
「テオ先生、確か投擲いけるよな」
「できますよ。このナイフを投げればいいですか?」
「いや、これは装備しておいて。俺を投げてくれ」
テオ先生はあごに手を当てて、少し考えている様子。そして魔導書を開いた。緑色の光を放った本を片手に、カオスへ魔法を唱える。
「エライト」
カオスは少し跳んだだけで、重力を忘れたようにふわりと浮いた。テオ先生はしゃがんで魔導書と手を、前に出す。
「やってみますので、ここに跳んでもらえます?」
「オッケー」
魔導書めがけて、カオスがジャンプした。要望通りに、テオ先生がトレントに向かってカオスを投げた。跳んだカオスに向かって再び魔法を放つ。
「ディスペル!」
「……そういうことね」
カオスを軽くして、ぶん投げる。そのままだと軽すぎて攻撃は、文字通り刃が通らない。だからエライトを解除して重力を取り戻す。こんな感じだと思う。
予想通りにカオスの体がディスペルを受けてから、明らかに加速、落下していく。構えていた剣を縦に振り下ろした。
グオォォ……と地鳴りに近い唸り声が聞こえて、トレントの動きが弱まった。
「マイア今だ!」
「分かってるわよ! ファイヤーボール!」
相手は木なんだから、火に弱いのは当然よね。私の一番得意な魔法を食らわせてあげた。
トレントは消し炭のようになって、力無くしなびてしまった。そしてマナの淡い粒が、空へと昇っていく。
無事、戦闘終了だ。よかった、私生きてる。
トレントが消えた場所には木の枝や、薬草っぽい葉っぱ、お金が落ちていた。お金だけはなんで落ちてるか、分からないわね。
「うおぉッ! これは……レアいぞ!」
インベントリを確認しながら、トレントの落とし物を漁っていたカオスが叫んだ。手元を覗き込むと、金色にキラキラ光る枝を持っている。確かに珍しそう。
「綺麗な枝ね」
「これがあれば更なる武器強化が……! ぐへへ」
カオスは気持ち悪い笑みを浮かべた。私はちょっと引いた。テオ先生は横でニコニコ笑っている。
カオスが元来た道を振り返る。
「悪い、セーブさせてもらうわ」
「え〜! 戻るの?」
「まぁまぁ、何かあればカオスさんに守ってもらいましょう」
テオ先生になだめられて、仕方なくカナハの森の最初まで戻ることに。全く、どうしてこうも自由なんだカオスは。
魔王への道は果てしないわね。おばあちゃんにになっちゃうわよ私。カオスがセーブをする間、私はその辺の岩に座って待つことにする。
……。
……………。
「……カオス? まだセーブできないの? 遅くない?」
やけに静かね。少し遠くにあるセーブポイントに目を向けた。そこにはカオスもテオ先生も、いなかった。セーブポイントの光が青白く、淡く、輝いている。
この場に、私1人だけしかいない!




