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データ14 ピュレイの丘 南:カオスLv.10

 勇者であるカオスについていく私とテオ先生。デフテトから出るものだと思っていたけれど、カオスが向かったのは少し古めのお店屋さんだった。多分前に言っていた商店、かな。


「ちょっとカオス。次の街に行くんじゃないの?」


 私は聞いてみる。早く行かないと今度こそ野宿かもしれない。それだけは絶対回避しないとね。商店のおじさんがカオスに気付いて声をかける。


「らっしゃい。なにが欲しいんだい」

「えーっと、これとあれとそれ」

「あいよ」


 カオスはいつものように私を無視して、買い物をしている。同時にインベントリ、から色々な素材や道具を出し始めた。テオ先生と2人でその奇行に近い行動をただ眺める。


 おじさんは素材と道具を受け取って、奥に引っ込んでしまった。その間に買った物をごそごそして、旅にぴったりそうな帽子をかぶった。もちろん、ダサいわよ。

 そしてこちらにも、手渡してきた。


「私絶対かぶりたくない、嫌だ! ダサすぎる!」

「マイアはかぶれないよ、この装備は」


 渡したのは、テオ先生だった。無言で受け取ったテオ先生は帽子をかぶる。うーん、この……何て言うんだろう。

 とりあえず、美形に似合わないものはない、とだけ伝えておくわ。


 割とすぐに商店のおじさんが戻ってきた。手にはカオスが渡したはずの剣。なのだけれど、その形は少し違っていた。カオスは受け取って腰に差した。


「買い物しただけ……よね。なんで剣の形変わっちゃったの?」

「素材渡して合成した。ま、強くなったってこった」


 説明するのを面倒そうにするな。そんなカオスが私にも何かの装備を渡してきた。綺麗な模様が入った、シルバーのバングルだった。


「マイア見た目気にしてんだろ。これ付けとけ。魔力と防御上昇付き。高いぜ」

「あー……あり、がと」


 珍しいこともあるものだ。カオスが私に気をつかってくれるなんて。左の手首につけて太陽にかざすと、バングルは眩しく光を反射させた。


「じゃあ、行くか」

「またなー兄ちゃん」


 商店のおじさんがニカッと笑って手を振った。後ろ姿を向けながらカオスも手を上げる。カッコつけてるみたいで、なんかちょっとイラッとした。


 デフテトの北側に向かうと出入り口が見えてきた。後ろから聞こえなくなったテオ先生の足音が気になって、私は足を止めて振り返る。

 風が優しく吹いて、テオ先生の白いローブが揺れる。町を眺めるテオ先生の背中は、少し寂しそうに見えた。


「……あ、すみません。行きましょう」


 私に気付いたテオ先生は振り返って、そっとデフテトから出て行った。


 一足先にデフテトから出たカオスは、台座に置かれた本……は、セーブだっけ。それに手をかざしている。これは……また頭痛が来そうかも。私は台座の横にしゃがみ込んだ。


「何やってんの」

「また頭痛くなるかもしれないから、待機よ」

「頭痛……ですか」

「そもそもテオ先生にお世話になったのは、これのせいなんです」

「ほぉ……」


 本が青白く発光して、私は強く目を閉じる。

 さぁ来なさい。いつでも準備バッチリよ。


 …………あれ? 頭痛くならない。良かったぁ。大丈夫そうだったから、目を開けた。そうしたらなんと、テオ先生が横でうずくまっていた。頭をかかえて、うなっている。私は思わず声をかけた。


「テオ先生?」

「なるほど、これは中々鋭い痛み、ですね……!」


 私に来るはずの頭痛が、テオ先生に移ったような状況だ。


「大丈夫? 行くのやめる? ユフィ様と代わる?」

「あんた人の心ないわけ? テオ先生、大丈夫ですか」

「あーハイ……なんとかなりそうです……ただ、頭の中に大きな狼が私を追いかけてくる映像が……」


 テオ先生のその言葉で、私の心臓は跳ねた。


 思い出したの。


 裏山でテオ先生がダークフェンリルに襲われて、助けようとしたことを。頭は痛くないけれど、思い出したくないことを、思い出しちゃった。

 カオスが私を助けてくれて、診療所で目覚めたんだ。どうして今思い出したんだろう。いや、どうして忘れてしまったの。

 立ち上がって、カオスを見つめた。


「早く行くぞ」

「……カオス。あんたが言っていたこと、少し分かってきたわ。確かに、戻れるのね」

「そう言ってるじゃん。お、先生も大丈夫そうだな。さて、行くぞー」


 セーブを終えたカオスは、特に気にする様子なく先に行っちゃった。テオ先生もふらふらしながら、私と一緒に歩き出す。



 デフテトの北は、ピュレイの丘が広がっている。ここから先、私は未知の領域だ。2人が頼りなので、後ろをついて行く。


 初めての景色に、周りを見ながら草を踏みしめる。見たことない魔物もちらちらいるけれど、カオスが気付かれない距離で歩いてくれた。

 時々岩かげや草むらに隠れた宝箱を漁りながら進んでいく。私はあんまりやってほしくないけれど……テオ先生が何も言わないし、いいのかな?


 東の方にある山は、ロキ山岳って言うんだって。テオ先生に教えてもらった。あんな高い山、登るの大変そうね。ちなみにテオ先生はもう頭痛はおさまったみたい。


 そうしてピュレイの丘をぐねぐね進んで行くと、山と森の間に時計塔が見えてきた。ここから見えるってことは、相当高い塔ね。

 多分この先に進んだら次の街なんだろうけれど、目の前には木や岩が崩れるような形で行手を遮っていた。


「あるあるだよな〜この感じ」


 カオスは意味深に呟いた。私たちが足を止めた時、近くにいた兵士の人がこちらに駆け寄って来る。


「申し訳ない。この通り、今この道は使えないんだ」

「トリトスタに行くにはどうすれば?」


 兵士の人にテオ先生が質問する。『トリトスタ』は次に向かう街の名前。さっき、テオ先生に聞いた。う〜んと腕を組んだ兵士の人は、悩んだ末に声を絞り出す。


「できれば引き返してほしい、が……すぐに行きたければカナハの森を迂回して抜けて行くのが一番早いかな」

「はーい、分かりました」


 物分かりいいわね、カオス。と思ったけれど、この後どうなるか知ってる……って言ってたっけ。それならカナハの森に向かう流れになるのかしら。


「あの山はどうなの?」

「ロキ山岳のことか? むしろトリトスタが遠くなっちゃうよ。強い魔物もいるからね。おすすめはできない」


 私は兵士の人に聞いてみたけれど、まぁ、そうよね。やっぱりまだ怖いなぁ。左の方にある森、見るからにとても暗いの。

 そして私たちはカナハの森を迂回して、トリトスタへ向かって行った。


 おかげさまで私は、何度目か分からないテオ先生の言う『死に戻り』を、完全に感覚として憶える羽目になる。

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