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第二十九話

 外で吹き荒れる風が音を立て、ログハウス全体がかすかに揺れた。


 ソファーで寝ていた僕はその揺れで目を覚ます。


 暖炉の火はまだ残っていて、赤い光がゆらゆらと室内を照らしていた。


 ソファーから降りて、そっと窓の外を見た。


 里は真っ白な世界のままだった。


 あれから一週間が経った。


 だけど、吹雪は止むどころか──勢いを増している。



「いや、流石におかしいよね?」



 ちょっと怖くなってきた。


 ここまでくると天気が悪いという話では済まない気がする。


 里の建築物は開墾スキル【凝固】のおかげで無事だけど、このまま吹雪が続くと畑の作物が全滅してしまいそうだし。


 それに、トトさんもまだ身動きがとれないままだ。


 最初は「休暇が長くなってラッキー」程度に思っていたみたいだけど、一週間ともなると青い顔で窓の外を眺めている時間が増えてきた。


 ──まぁ、今は暖炉の前で、ゴレムと一緒に寝てるけど。


 コンコンと窓を叩く音が。


 そちらを見ると、ハクが鼻先で窓を叩いていた。


 僕は厚手のコートを羽織って外に出て、ハクのもとへと向かう。



「おはようハク。今日も吹雪いてるね」

「そうだな。今日も見回りに行くか?」

「うん、そうしよう」



 屈んだハクの背中にうんしょとのぼる。


 ログハウスでじっとしているのも暇なので、危険がない程度にハクと里を見回ることにしているのだ。


 コースは水区画からはじまって、職人区画、畑区画、住民区画の順だ。


 住居と同じくらい気を使う必要があるのが水区画。


 水車小屋や露天風呂、釣り堀が雪に埋もれてしまうと、里の運営に影響が出てしまう。


 ちなみに、吹雪で鍛冶場の作業が中止しているので、今は露天風呂の湯も出ていない。


 早くあの熱々の露天風呂に入りたいものだ。



「しかし、妙な雪だな」



 ハクが空を見上げながら、何気なくそう切り出した。



「妙というと?」

「先日気付いたのだが、この雪にはマナが含まれている」

「……え? マナ?」



 マナとは魔法の源になる魔力のことだ。 


 それが雪に含まれているということは──。



「まさかこれ、自然現象じゃないってこと?」

「かもしれぬ」



 雪国でもないのに、2週間も吹雪が続いてる。


 流石におかしいとは思っていたけど、本当にただの気象現象じゃないのかもしれない。



「モンスターか何かが吹雪を起こしているのかな?」

「そこらのモンスターの仕業とは思えんな。長期間、猛吹雪を起こすとなると相当なマナが必要になるからな」

「ハクでも無理?」

「……がんばればできる」



 一瞬の間を起き、強い口調で返してきた。


 や、そこで張り合わないでいいから。


 でも、ハクレベルの強大なマナを持つモンスターって何者だろう。


 しかし、こんな吹雪もやろうと思えば起こせるって、ハクってやっぱり普通の動物じゃないよね?


 それから、水車小屋や露天風呂、施設や住居を見てまわり、異常がないことを確認してから最後に裏庭へと向かった。


 猛吹雪の中、神々しい存在感を放つ神樹は、白い嵐に襲われながらも揺らぐことなく静かに鎮座していた。


 吹雪くらいではびくともしないのかもしれないけど、じっくり時間をかけてチェックしないとね。



「……あっ」



 早速、異変を発見した。


 地面にほど近い枝が、雪の重さで折れてしまっていたのだ。


 どうしよう?


 放っておいても良いかもしれないけど、応急処置をしてあげたい。



「折れた枝は添え木で固定すると修復されるって聞いたことがあるけど、神樹にも同じ方法でいいのかな?」



 とりあえず、やってみるか。



「ごめんハク。ちょっと背中を借りるよ」



 ハクの背中に立つと、丁度いい高さになった。


 まずは制作スキルで【ふわふわのタオル】を作り、【硬い木】を添え木にしてぐるぐる巻きにする。


 さらに、タオルに【ヨモギのポーション】をふりかけておく。


 トトさんの傷が一瞬で治っていたし、きっと効果があるよね?



『神樹ポイントを400ポイント得ました』



 ぽっとウインドウが表示された。


 世話するともらえるSPが入った──ってことは、効果があったんだな。 


 他にも折れている枝を何箇所か発見したので、同じ方法で補強していく。


 一通り作業を終え、ハクの背中から軽やかに降りた。



「ありがとう、ハク。助かったよ」

「うむ」



 しかし、とハクの頭を撫でながら神樹を見上げる。


 今回の作業はハクの背を借りれば届く高さだったけど、もっと上の場所で同じことが起きていないか、ちょっと不安になる。


 精霊さんたちにお願いして、高い位置の枝も見てきてもらおうかな。



「……ん?」



 ふと、僕の目に、山のようになっている雪の塊が映った。


 神樹をぐるっと囲むように山が連なってるし、雪が枝から落ちてきて積もったんだろう。


 そんな雪の塊を、手に取る。



「……マナが含まれている雪か」



 見た目は普通の雪だけど、魔法によって作られたのなら、何かしら効果が付与されていたりしないかな?


 それがわかったら、対処のしようもあるんだけど──。



「あ、そうだ」



 良いことを思いついた。


 手にしていた雪の塊を【神樹カバン】の中に入れ、中身を確認するウインドウを開く。


 すると、そこに【灰雪の塊】という文字が表示されていた。



 灰雪の塊:灰のようにひらひらと舞い落ちてくる雪。ホワイトドラゴンのマナに汚染されている。



 お、やっぱり確認できたぞ。


 カバンの中に入れた素材や道具はこうして情報を見ることができるから、雪も同じように確認出来るんじゃないかと思ったんだよね。


 ふむふむ。マナに汚染されているのか。



「何をしているのだ?」



 ハクが尋ねてきた。



「雪の情報を確認しようと思って、カバンの中に入れてみたんだ」

「ほう。何かわかったのか?」

「うん。灰雪っていう種類の雪みたいなんだけど、マナに汚染されていて──」



 と、そこで続く言葉を飲みこんでしまった。


 不思議に思ったのか、ハクが首を傾げる。



「……? どうした?」

「ちょ、ちょっと待って? ホワイトドラゴンって何?」



 見間違いかと思って情報を再度確認してみたけど、確かに「ホワイトドラゴンのマナに汚染されている」と書かれている。



「どうやらこの吹雪の原因、ホワイトドラゴンみたい」

「……ホ、ホワイトドラゴンだと!?」



 驚いたような声をあげるハク。



「え? まさか知ってるの?」

「いや、全く」

「知らんのかい!」



 だったら意味深な声を出すんじゃないよ。


 こういう情報は、アルレーネ様に聞くにかぎるな。


 と思ってアルレーネ様の姿を探したんだけど──。



「……まだ帰ってきてないんだよね」


 アルレーネ様の特等席になっているハンモックには雪が積もっているだけ。


 縁側にも庭にも、彼女の姿はない。


 2週間前に、神樹酒を持って森に行ったっきり戻ってきていないのだ。


 多分、この吹雪のせいだろうな。


 どうにかして連絡を取れないものか。


 そう思いながらログハウスに戻ると、そのアルレーネ様が何事もなかったかのようにテーブルでお茶を飲んでいた。



「……え? アルレーネ様?」

「あっ、カズマ様!」



 僕に気づいたアルレーネ様は、慌てて椅子から立ち上がる。


 だけど、急ぐあまり椅子の足にひっかかってすっ転びかけ、よたよたとこちらに駆け寄ってきた。



「だ、大丈夫ですか?」

「も、問題ありませんとも! それより、2週間も里を離れて申し訳ありませんでした! 実は、この雪のせいで森から出られなくなってしまって」

「ああ、やはりそうだったんですね」



 どうやら吹雪被害の対処に奔走していたらしい。


 なにせ彼女は、森に住む精霊のお姫様なのだ。


 そんなアルレーネ様が困ったような顔で続ける。



「本当に妙な天気ですよね。2週間も吹雪が続くなんて、ただの自然現象だとは思えないです」

「この吹雪なんですが、実はついさきほど原因がわかったんです」

「え? 原因?」



 小首をかしげるアルレーネ様。



「この雪、ホワイトドラゴンが関係しているみたいなんです」

「……ふぇええええっ!?」



 体をのけぞらせてびっくりするアルレーネ様。


 驚くあまり、またしても転けそうになってしまう。



「ど、どうしたんですか?」

「どうしたもこうしたもありませんよ! ホワイトドラゴンは『白い天災』と呼ばれる、伝説的なモンスターなんですよ!?」



 アルレーネ様は慌てふためきながら、いかにホワイトドラゴンがやばいモンスターなのかを説明してくれた。


 ホワイトドラゴンは鉄よりも硬い氷の鱗をまとい、吹雪と共に現れるという。


 その息吹は空気すらも凍りつかせ、翼を羽ばたかせるだけでひとつの大陸を氷漬けにすることができるらしい。



「この伝説は誇張表現ではなく、数百年前に地上に降り立ったとき、実際に北方地域を氷漬けにしたんですから!」

「……マ、マジですか」



 その北方地域は、今でも生物が住めない氷の世界のままなのだとか。


 そんなホワイトドラゴンは、ここから北にある山の頂上に住んでいる──というのがもっぱらな噂らしい。


 時折、山を通る旅人や商人が、氷漬けになって発見されているのだとか。


 なんだか日本の妖怪伝承っぽい話だな。


 ほら、川で人が溺れるのは「河童に引きずり込まれたせいだ」と言われていたけど、実は水中の渦のせいだったみたいな。


 まぁ、ここは異世界だし、本当にドラゴンのせいなんだろうけど。


 ホワイトドラゴン、超怖いな……。


 だけど、天候すら操れるというのなら、僕の予想は間違ってなさそうだ。


 この吹雪はそのホワイトドラゴンが起こしている可能性は高いぞ。



「ちなみに数百年前にホワイトドラゴンが暴れたときは、どうやって解決を?」

「人間と魔族の王が対話を持ちかけ、穏便に鎮めたと聞いています。それで北の山に住処を与えたと」

「なるほど。ということは聞く耳は持ってるってわけですね」



 問答無用で襲ってくるモンスター……というわけではなさそう。


 だとしたら、一度会いに行くのも手か?



「ま、まさかカズマ様」

「はい、会いにいってみようかと」

「きっ、きき、危険ですよ! 北の山はドラゴンだけでなくモンスターも多いんですから! ステンの森以上に冒険者も忌避する場所なんです!」

「だけど、この吹雪がホワイトドラゴンのせいなら早く止めてもらわないと」



 トトさんは町に帰ることができないし、里の作物は全滅してしまう。


 もはやこの里は、僕ひとりのものじゃない。


 住んでいる人たちや関わってくれている人たちのためにも、僕がなんとかしなきゃ。



「ここで待っていても好転するとは思えませんし」

「で、ですが、北の山まで相当な距離があります。たどり着けたとしてもドラゴンが山のどこにいるかは──」 

「んじゃ、あたしが案内するぜ」



 背後から声がした。


 先程までゴレムと暖炉の前で寝ていた、トトさんだ。



「北の山は何度か行商で通ったことがあるんだ。ドラゴンを相手にするのは無理だけど、道案内ならできるぜ」

「おお、本当ですか!」

「ま、吹雪のせいで荷馬車は使えないから、移動は徒歩になっちまうけどな」



 トトさんが、照れくさそうに笑う


 いや、それでもありがたい。


 というか、たまに死人が出てるのに、北の山を交易路に使っているんだな。


 命がけの商売って大変だ──そう思っていたところで、ふと気づく。


 ……そうだ。トトさんは竜人族だったっけ。


 その血のおかげで、モンスターに襲われないって言ってたし、危険な北の山も問題なく通行できるんだ。


 それにトトさんと一緒なら、ドラゴンに警戒されずにすみそうだ。



「ありがとうございます。助かります」

「気にするなって。カズマさんと遠出できるなんて、デートみたいであたしも嬉しいしな~」

「……? 何か言いました?」

「なんも言ってねぇ」



 トトさんは「出発の準備をしてくる」とリビングを出ていく。


 僕はそっとアルレーネ様に尋ねた。



「どうですかね、アルレーネ様?」

「え、ええと……」



 アルレーネ様はおろおろとしながらしばし考え、やがてこくりと頷いた。



「わ、わかりました。ですが、山に行くなら護衛をつけてください!」

「ごむごむ~(それならもうボクたちが声をかけたよ~)」



 玄関のほうから、トテトテとゴレムがやってきた。



「ごむ~(こっちきて、お屋形様~)」



 なんだろう?


 不思議に思いながら、ゴレムに連れられ玄関に向かう。


 すると、扉が放たれていた玄関の先に、たくさんの人影が。



「……どうやら私たちの出番みたいですね」

「のようだな」



 いつの間に準備をしていたのか、完全武装したオークさんとハクたちがずらりと並んでいた。

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