第二十五話
ログハウスの外に出ると、頬に冷たい空気が刺さった。
はぁっと吐いた息が白く浮かび、薄暗い空に消えていく。
世界がまだ目覚めていない早朝。
僕の農園「神樹の里」は、すっかり雪化粧をしていた。
畝の上、木の枝、建物の屋根。
すべてに雪がしんと積もり、一面真っ白の銀世界だ。
踏み出すと、足元からザクッと小気味よい音が響く。
思わず笑みがこぼれてしまった。
なにせ、僕は都会育ちの引きこもり病弱体質だったからね。雪を踏みしめるだけでワクワクしちゃうのだ。
だけど、その笑顔はすぐに消えてしまった。
「……う~、さむっ!」
思わずブルブルと身震い。
シャドウさんに作ってもらったジャケット(アヒルちゃんの羽毛入り)を着ているけれど寒さは完全に防げていない。
ていうか、かなり寒さが厳しくない?
農園の場所が世界のどの辺りにあるのかはわからないけど、北国だったりするのだろうか。
だとすると雪下ろしとか必要になるよね……?
雪の重さで家屋が倒壊しちゃったら大変だからなぁ。
「ごむ~ん(あ、親方様。おはよう~)」
メインストリートの向こうから、ゴレム6号がやってきた。
その頭の上には沢山の野菜が詰まった【大きなカゴ】を乗せている。
ハクサイ、キャベツ、カブ、ブロッコリー。
さらに、ほうれん草にダイコン。
今年最初の冬野菜だ。
アルレーネ様や精霊さんの「精霊舞踏」のおかげで、冬野菜も連日大豊作。
今日もほとんどの畑で、収穫作業が続いている。
「おはよう。朝からご苦労様」
「ごむごむ(お屋形様も収穫?)」
「ううん、僕はちょっと別の作業」
「ごむん(そっか。昨日より冷えるから、気を付けてね)」
「そうするよ。ありがとう」
ゴレム6号はペコリとお辞儀をすると、可愛らしい足取りで去っていった。
そんな彼の可愛い後ろ姿を温かい目で愛でる僕。
あ~、やっぱりゴレムって可愛いよなぁ……。
頭に少し雪が積もってるのも、ポイントが高い。
しばしの「愛で時間」を堪能した後、「よし」と気合を入れる。
「なるべく今日中に終わらせたいから、さっさと取り掛かろう」
僕が向かったのは、ログハウスと狼小屋の間にある燻製所だ。
この隣に、「とあるもの」を作る予定なのだ。
「ここ辺りでいいかな?」
適当な位置を決め、【神樹カバン】の中から取り出した【鉄のスコップ】で土を掘っていく。
掘り返した土は、地面に置くと同時にふわっと消えていった。
カバンの中に自動収納されているのだ。
なんとも不思議な光景だけど、すごい楽ちん。
今回はこの土も素材で使うから、大切に保管しておく。
しばし地面を掘り返してからカバンのウインドウを開くと【柔らかい土】が沢山入っていた。
うん、これくらいあればいいだろう。
ひとつ【柔らかい土】を取り出す。
すると、目の前にドサッと土の塊が落ちてきたので、手のひらサイズで四角くして、開墾スキルの【凝固】で固めていく。
それを横に10個並べて【加熱】スキルを発動させた。
シュボッと火が付く音がして、固めた土が燃えあがる。
このスキルは文字通り対象を加熱させるスキルだ。
レベルが高くなると、こうやって火を起こすことも可能なのだ。
スキルレベルは4なので、強めの火を起こすことができる。
ちなみに、消費SPは5。実にリーズナブル。
現在の総SPは5600なので、何度使っても問題ない。
しばらく土を加熱していると、突然、土の塊がふわっと消失した。
カバンの中を見ると【レンガ】の文字が。
「……おお、いいぞ。ちゃんと出来てるな」
製作スキルのリストに載っていた【レンガ】だけど、作り方が特殊で「固めた【柔らかい土】を熱する」って書いてあったんだよね。
もしかしてと思って試してみたんだけど、どうやら正解だったらしい。
だけど、今回の作業はこれで終わりではない。
「お次は【石灰モルタル】だな」
これはレンガをくっつけるための接着剤的なものだ。
こっちは普通の製作方法で【石灰石】と【砂】、【水】で作ることができる。
ちなみに【石灰石】は【鉄鉱石】を取るときにオマケで大量に取れる素材だ。
ゴレムが【鉄鉱石】を採石してきたときに大量に持ってきたので、それを使っている。
「レンガも沢山必要だし、同時進行でやるか」
片方ずつ作ってたんじゃ、日が暮れちゃうからね。
凝固した四角い土を【加熱】で燃やしながら、カバンのインベントリを開いて【石灰モルタル】を生成していく。
流れ作業のように30分ほど続けた結果、100個ほどの【レンガ】と400個ほどの【石灰モルタル】が完成した。
「これくらいあれば大丈夫だろ」
これでようやく下準備は終わり。
ここからが本番。いよいよ「アレ」の製作に取り掛かる。
まずは基礎部分。
レンガをひとつ取り、接合用の【石灰モルタル】を塗りつける。
それを水平になるように地面に置き、軽く【鉄のハンマー】で叩いた。
それを2段、四角形に並べていく。
四角く並べたレンガの中の空洞にモルタルを流しこみ、弱めの【加熱】スキルを使って、がっちり固めた。
「ん~、こんな感じかな?」
手作り感満載で少し不格好だけど、土台は完成ってことでいいだろう。
その上に、さらにレンガを積み上げていく。
ここのレンガはアーチ状にする必要があるので、【造形】スキルで作った型木を使って扇状に積んでいく。
ここの作業は慎重に。
ゆっくりと、崩れないように……。
気づけば、吐く息の白さが濃くなっていた。
額には大粒の汗が。
これは中々に重労働だな。
「よし……最後の一枚」
アーチの頂点、要石をハンマーで叩き込む。
コンと乾いた音が響き、全てがカチッと噛み合った。
ゆっくりと型木を外す。
組んだレンガはびくともしなかった。
天井部分に煙突口を開けて内壁を滑らかにするために、【石灰モルタル】で塗り固める。
最後に全体を【加熱】スキルで乾かして──一旦終了だ。
「試しに火を入れてみるか」
森で拾ってきた【枯葉】や【枝】を窯に入れ、【加熱】スキルで火を付ける。
すぐにモクモクと上がり始めた煙が窯の奥に吸い込まれ、やがて煙突から白い筋になって空へと流れていった。
「何をやっているのだ、カズマ?」
ふと、背後から声がした。
振り向くと、雪景色に溶け込む白い毛の狼が2匹。
ハクとヒサシだ。
「おはよう。見ての通り、石窯を作ってたんだよ」
「む? 石窯?」
「そ。パン作りにチャレンジしようかなって」
「ええっ!? パン!?」
声をあげたのは、ヒサシだ。
「お屋形様、パンが作れるの!?」
「うん。前に一度だけ作ったことがあるんだよ」
体調不良になる前の話だけどね。
そんなパン作りにチャレンジしようと思ったきっかけは、トトさんだった。
先日、売り上げ金を届けに来てくれたとき、ドライイーストを取り寄せることができると教えてくれたのだ。
パン作りに欠かせない、生地を膨らませる酵母、ドライイースト。
培養した酵母を乾燥させて粒状にしたものなんだけど、異世界にもあるとは思わなかった。
だって、現実世界でも発見されたのは20世紀に入ってからだし。
魔法が一般的に流通しているみたいだし、特定の分野は現実世界よりも発展しているのかもしれないな。
そんなドライイーストは、次の便で持ってきてくれることになっている。
それに間に合わせたくて石窯を作ることにしたんだけど、なんとかなりそうだな。
「作業を続けてもいいかい?」
「もちろんだ。邪魔をしてすまない」
ハクたちに見守られながら、作業を続ける。
煙が漏れ出していないことを確認してから、石窯全体に【凝固】スキルを使って固定する。
モルタルは乾いてるから倒壊することはないだろうけど、念の為に。
最後に石窯が雨風にさらされないよう、【木の壁】と【木の屋根】で壁と天井を作って完成だ。
「……うん、良い感じだね。我ながらよく出来てるじゃないか」
額の汗をぬぐい、完成した石窯を眺める。
重なり合う赤褐色のレンガの色合いが素朴な味わいを出しているが、しっかりとした作りで、まるで小さな砦のような存在感があった。
「しかし、立派な窯だな」
感心したようなハクの声。
「前々から思っていたのだが、カズマは手先が器用なのだな」
「僕もそう思う! 小屋とか簡単に作っちゃうし!」
「あはは、ありがとう。でも、女神様のスキルのおかげだよ」
DIYにあこがれていたけど、正直、不器用なほうだったし。
スキルなしで窯のアーチなんて作ってたら、間違いなく途中で大崩壊コースだったと思う。
でも、まさかこんな簡単に完成するとは思わなかったな。
今からトトさんが来るのが待ち遠しい。
「……ん?」
ログハウスのほうから、チリンと鈴の音が聞こえた。
その鈴の音に誘われるように、トテトテとゴレム1号がやってくる。
「ごむ~(お屋形様、トト様がきたよ~)」
「噂をすればなんとやらだね」
余ったレンガやモルタルを【神樹カバン】の中に入れて撤収する。
ハクたちとログハウスの前に行くと、オークさんたちが護衛するトトさんの荷馬車が見えた。
第二十六話は明日10時更新です!
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