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第二十二話

「はぁ……凄い農園だな……」



 ログハウスに戻ると、リビングの窓際でトトさんが呆然と立ちすくんでいた。


 そんな彼女にそっと声をかける。



「お待たせしました、トトさん」

「おお、カズマさん。荷馬車はどうだった?」

「1時間ほどで修理は終わるそうですよ」

「えっ!? ほ、本当に!?」

「はい。なのでここで少し待っていてください」

「ありがとう! いやぁ、本当に助かったよ!」



 安堵した表情を浮かべるトトさん。


 すごいホッとしているみたいだけど、荷馬車って商売の要だし、命よりも大事なものなのかもしれないな。



「しかしカズマさん、ここは凄い農園だな」



 窓の外を眺めながらトトさんが続ける。



「モンスターだらけで冒険者すら近づかないステンの森のど真ん中に、こんなデカい農園を作っちまうなんて、尊敬するぜ」

「ここまで大きくできたのは、住民の皆さんのおかげですよ」



 僕ひとりだったら絶対無理だったと思う。


 特にあの小さくて可愛い使い魔がいなかったら──なんて思ってたら、「ごむごむ~」とゴレムが2人分のお茶を持ってきてくれた。


 ハーブ園で採れたカモミールを使ったカモミールティだ。


 働き者なうえに気まで利く。本当に頼もしすぎるヤツらだ。


 トトさんと一緒にカモミールティを飲んで、ほっと一息。



「なぁ、カズマさん。よかったら農園を案内してくれないか?」



 トトさんがそんなことを申し出てきた。



「なんだか湯気が出てる建物もあるし、何があるのか凄い興味があるんだ」

「ええ、もちろん良いですよ!」



 ふたつ返事で承諾した。


 だって、僕が作った農園に興味を持ってもらえるのは、素直に嬉しいし。


 張り切って案内、しちゃいますかね!


 てなわけで、まずはログハウスの裏庭に向かうことに。


 この農園のシンボル、神樹からお見せしましょう。


 だけど、神樹のことをトトさんにどう紹介すればいいんだろう?


 おっきな木──だと味気ないし。


 以前僕の魂とリンクしていたんですだと、ちょっと重いかな?



「ええと、これが神樹です」



 なので、シンプルに紹介した。



「し、神樹……!? いきなり凄いものが出てきたな!? しかも雑だし!」



 神樹のことを知っていたのか、トトさんは目をまん丸くしていた。


 しまったな。もう少し丁寧に紹介するべきだったか。


 紹介ついでに神樹の周囲に生えていた雑草を刈ってSPを貰っておく。


 ブラックウイドウと戦ったときにSPを使っちゃったからね。


 お次に向かったのは、裏庭からすぐのところにある燻製所だ。


 丁度ゴレムが晩ごはん用の魚の燻製を作っていたので、つまみ食い。


 トトさんは「これは美味い! 酒のツマミにぴったりだ!」と大喜びしていた。お土産に少しお裾分けしてあげよう。


 そこらか農園のメインストリートを通って水場区画へと向かう。


 釣り堀は軽くで良いとして、露天風呂をしっかり紹介しないとね。 


 トトさんが「湯気が出ている建物」と言っていたのは、露天風呂のことだろうし。


 鍛冶場の排熱を利用しているので、露天風呂には常に熱々のお湯が出ているのだ。



「……これは何だ?」



 露天風呂にやってきたんだけど、トトさんは湯船をみるなり、首を傾げてしまった。


 どうやら温泉を見るのもはじめてらしい。



「露天風呂ですよ。夜に星空を見ながらのんびりお湯につかって一日の疲れを取るんです」

「へぇ、ロテンブロか! こりゃあ気持ちよさそうだな! 上流階級の連中に勧めたら飛びつきそうだ!」



 トトさんが何やら指をパチパチと動かし、ソロバン勘定をはじめる。


 おお、流石商人さんだ。


 というか、こっちにもソロバンがあるんだな。


 水区画の正面に広がる畑区画を眺めながら、職人区画へと向かうことに。


 丁度ゴレム3号と4号が【木の箱】を頭に抱え、前からやってきた。


 収穫を終えて野菜を貯蔵庫へ運んでいる途中だろう。



「トトさん、ウチで採れた野菜、見てみます?」

「是非見てみたい!」



 目を輝かせるトトさん。


 そんな彼女に、野菜をいくつか見せる。


 ニンジンにダイコン。


 ブロッコリーにほうれん草。


 大きな野菜が【木の箱】2つ分収穫されていた。


 うん、今日も大収穫だな。



「うおおっ!? なんじゃコリャ!?」



 トトさんが素っ頓狂な声をあげる。



「凄い量だし、どれも大きさが半端ない! おまけに、ほんのりマナが宿っているような気もするし……」

「えへへ、でしょう? 自慢の野菜たちですよ」



 むふふ、とキモい笑いが出てしまう。


 なんだか自分の子どもが褒められているみたいで嬉しいな。



「なぁ、カズマ! ちょっと食べてみてもいいか!?」

「はい、どうぞ──え? 食べる?」

「ちゃんとお金は払うぞ?」

「お金はいらないですけど、そのまま食べられる野菜はないですよ?」



 トマトやキュウリだったらいけるけど、生憎、今の季節はない。


 ブロッコリーなら大丈夫か?



「平気、平気」



 トトさんは気にする様子もなく、鼻歌まじりにゴレムが掲げている木の箱の中の野菜を選びはじめた。



「カブにナスか。これもいいな。ニンジンは……パスだな」



 そうしてトトさんが手にしたのは、巨大なダイコンだった。



「よし! いただきますっ!」



 え? まさかそれ、そのままいくの?


 ──と、心配する僕をよそに、トトさんがガブリと喰らいついた。


 うわっ、ワイルド!



「……ほむほむ」


 難しい顔でもしゃもしゃと咀嚼し、味を堪能するトトさん。


 しばしして、カッと目を開いた。



「おお! やっぱ甘くて美味いな!」



 どうやらお口にあったらしい。



「それに、やっぱりマナが宿ってる! こいつは美味いな! もぐもぐ!」

「そ、それは良かった」



 一心不乱にダイコンにかぶりつくトトさん。


 そんな彼女を見て、思わず苦笑い。


 マナが宿っているのは、精霊さんたちが世話してくれてるおかげかな?



「もぐ……野菜の他に……もぐ、何か作ってないのか?」

「他ですか? ポーションとかですかね」

「ポーション?」

「つい先日、住民が体調を崩したので、ヨモギを使った煎じ薬を作ったんです」

「なるほど、ヨモギか……」



 もぐもぐと口を動かしながら、眉根を寄せるトトさん。


 ポーションにも興味があるのかな?


 そういえば【神樹カバン】の中にいくつか入れてたっけ。


 ひとつ取り出して、トトさんに渡す。



「ふむ。ちょいと失礼して」



 トトさんは小瓶の蓋を開け、香りを確かめるように鼻を近づける。


 今度は液体を手のひらに垂らして監視しはじめたかと思ったら、無言で腰のナイフを抜き、自らの指先に刃を走らせた。



「ええっ!? ちょ、ト、トトさん!?」

「大丈夫、大丈夫」



 赤い血が伝う指先に、トトさんは迷いなくポーションを垂らした。


 液が触れた瞬間、光が走り、傷は跡形もなく消える。


 僕は思わず息をのんだ。


 アルレーネ様も「傷にも効く」って言ってたけど、まさかここまで効果があったなんて。



「す、凄いですね! こんなに早く傷を癒せるなんて知らなかったです!」

「いや、普通のヨモギのポーションでこんな芸当は無理だぞ?」

「……え? そうなんですか?」

「農作物にマナが宿っていたからもしやと思ったんだが……うん、こりゃ凄い効果だ」



 傷が消えた自分の手をまじまじと眺めるトトさん。


 こんなに効果が高いのは、きっとアルレーネ様のレシピだからだろう。


 後でお礼を言っておこうっと。



「なぁ、カズマさん。お願いがあるんだが」



 そう付け加え、トトさんが続ける。



「この農園で作ったもの、あたしに売ってくれないか?」

「え? トトさんにですか?」

「町の商会や教会にツテがあるんだ。マナが含まれた野菜や、どんな傷でも癒やすポーションなんて、絶対飛ぶように売れるぞ……!」



 語っているうちに、トトさんの声にどんどん熱がこもっていった。


 町で商品を卸すには「商会」を通す必要があるらしいけど、そういう面倒な手続きも全部引き受けてくれるという。


 これは願ってもない話だ。


 貯蔵庫はすでに野菜でいっぱいだし、3棟目の貯蔵庫の建設も考えていたところだった。


 余剰分を買い取ってくれるなら、こちらとしても助かる。


 それに、農園で手に入らないものを仕入れるには、やっぱり収入が欠かせないからね。


 必要なものをリスト化して渡せば、ここまで届けてもらうこともできそうだ。



「ありがとうございます。こちらこそ是非、よろしくお願いします」

「おお、本当か!? やった! ありがとう、カズマさん!」



 トトさんは両手を打ち鳴らし、子どものように飛び跳ねて喜んだ。


 ──こうして森の中での意外な出会いが、僕の農園に新たな風を運んでくれたのだった。

第二十三話は17時更新です!


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