いにしえ
翌日、博物館へと向かうため、タクシーを呼んで、向かう。ヤエは話したいことがあるらしいので家に置いてきた。別に戦闘になったって行けるだろうから良いんだけど、
「出来たか?」
「中々上手くいきませんネ」
「そんなもんだよ。魔術の修練なんて一朝一夕じゃいかないからね」
そう言うが、あまり納得出来ていないらしい。
「コツとかってないんですカ?」
「コツ?そうだな、水と一体になること。コレを意識する」
「水と一体二?」
「それが属性魔術の行き着く先だからな。目の前にある水を自分の身体と考えて、腕を動かす感覚で水を動かす。そんな感じだ。」
「……ナルホド」
「まぁ、難しいこと考えずに魔力動かす感覚で水を動かせばいい。」
「それが難しいんですヨ」
「だろうな。俺も苦労したからね………お、出来てるじゃん。」
油と水の間に泡が発生しなくなり、液体の移動も起こっていない。完璧だ。
「ア、」
水の制御が乱れ、オイルタイマーに亀裂が入る。
「OK。大丈夫だ。」
水の制御を奪い、水を安定させる。コレくらいのことは俺も修行中に何度もやった。
「次のは、帰ってからやろうか」
ギザの大ピラミッドの近くにある、博物館へと来た。ココなら同日でピラミッドにも行ける。
「これかぶれ」
そう言って少し古ぼけた麦わら帽子を渡す。
「なんですカ?これ」
「認識阻害効果を付与した帽子だ。被ってればそこら辺の奴とおんなじ感じに見えて、犯罪に遭いにくくなる。」
「アリガトウございます」
俺は革製のテガロンハットを被り、レティシアも麦わら帽子を被る。
「エジプトに縁でもあるんですカ?」
「ありはしたね。ずっといた訳じゃないけど」
展示品を見ながら話していると、太陽の船の展示に差し掛かる。
「太陽の船。太陽神ラーが、昼と夜に冥界に航行するのに使う船だ。」
「神、ですカ。」
「一神教信仰してる人間からすると複雑だよな」
「メシアが生まれる前には、こういう文化もあったんですよネ」
「文化、というかそこら辺に居たんだよ奴らは。」
「神が、ですカ?」
信じられない、というような顔を向けてくる。
「神代ではね、まぁ昔のことだよ。別に今のユーラシアには基本いないし」
「………ずっと、思ってたんですケド、アナタいくつ何ですか?」
「16だよ。お前もそんなもんだろ?」
「本当ですよネ?」
「………いつかは話すよ」
そう言って歩き出す。向かう先は特設展示の場所だ。今やっている特設展示はアレクサンドロス図書館についてのものだ。
「なんですカ?あの地図」
レティシアが指差した先にはショーケースに収められたパピルス製の地図があった。
「アレは……どこで見つけたんだ?」
何なのか分からない。訳ではなく、見覚えがあるから驚いた。
「アレは、トートの地図?」
「なんですカ?ソレ」
「無限の知恵を授けるもの、所持者の行きたい場所を示す地図だ。」
「そんなモノが、」
「俺も探してたんだけどね」
視界の端に白いモヤが見えた、気付いた瞬間に辺り一帯を煙が覆う。
「いや、煙ってより霧か、………どうなってる?」
何が起こったのか、それを知りたいが魔力探知が煙と共に拡散した魔力のせいで全く役に立たない。
「この煙、吸わない方が良いですカネ」
「多分、大丈夫だと思うけど」
風切り音と魔力の揺らぎを感じ、振り向く。その瞬間に、ショーケースが壊れた音がした。
「盗人か」
〈ウォーム・ヴァイパー〉
指先から放たれる風の弾が霧を散らしながらショーケースを割った盗人へと射出される。
弾に気づいた盗人は身体を捻って回避する。
「無駄だ」
回避された弾は、方向転換し盗人へと当たる。
「……ッ」
空中で吹き飛ばされた盗人は、よろめきながらもしっかりと着地する。
「とっとと盗んだもの返して、自首しとけ」
盗人は何も話はしない。ただ、返答代わりに炎の矢をとばしてくる。
〈ケラ・ディフェンサー〉
相手の発生させた霧を利用し、空気中の水分を凝固。氷の防壁を形成し、炎の矢を防ぐ。
「!…………」
覆面で顔は見えないが、驚いているように感じる。この時代での複数属性持ちは珍しいとはいえ、そこまでなるほどか?
「……久しぶりだね、カナン」
そう呟いた。
「何者だ?」
俺の名前ならまだ良い。問題はカナンを知っているってことだ。顔も違うが、メタテとヤエも分かったしアイツもそうなのか?
「なに、僕のこと忘れちゃった?それとも人違いだったりする?」
軽口をたたくようにそう言う。
「人違いじゃないと思うよ。でも、俺にお前の記憶はない」
そう聞くとバツが悪そうな顔を浮かべている。
というか、少年?って感じだな。姿勢低くしてるから分かりにくいけど身長もそんなない。150くらいか、
「あぁ、なるほど。転生したんだね」
「……そうだ」
「ということは君は死ねたわけだ」
「まぁ、そうなるな」
空気が急に変わる。何か失望したような顔をしている。
「………結局、死んでもそうなるのか……なら、やるしかないね………」
「何する気だ?」
「救済だよ」
そう言い放ち、雷と炎を纏った矢を飛ばしてくる。
〈ケラ・ディフェンサー〉
再度氷の防壁を展開し、矢を防ぐ。だが、炎と雷によって視界が塞がれた刹那、その一瞬で霧を展開される。
「芸がないねぇ」
〈ウォーム・ヴァイパー〉
風による追尾弾が霧を吹き飛ばしながら、相手を追尾するが、水の防壁によって防がれる。相手は博物館を抜け、そのままピラミッドへと走っていく。
「足、速すぎだろ」
純粋な強化に加えて風を纏って加速している。俺とレティシアが強化込みで追跡しているが追いつけない。
「お前、魔術なに使える?」
「障壁、結界、回復ですネ」
「まぁまぁだな。」
この先は基本砂漠とピラミッドだけ。逃げ切れはしない。
その時、掠れた声に聞こえる詠唱が耳に入って来る。
「なんですカ?これ」
「古代エジプト語、使役の魔術か」
その時、スフィンクス像が揺らいだ気がした。




