ジェヴォーダンの獣
1月29日修正しました
ホテルに帰って来るとレティシアがニュースを見ていた。
コナン・ロシュフォールが孤児院を訪問し、子供たちと遊んでいる。そんな平和なニュースを。
その笑顔を見ていると、さっきまでの潜入が嘘みたいだ。
レティシアは俺に気付き、振り返る。
「どうでしたカ?」
レティシアの向かいのソファーに座り、話し始める。
「ちょっと想定外かな。一つ聞きたいんだけどさ、コナン・ロシュフォールって、魔術師の家系だよね」
「そうデスけど、ソレがどうかしましたカ?」
コナン・ロシュフォールが魔術師の家系でないのならコナン・ロシュフォールにこの事を提言した奴がいるって事だがどうやらその心配はなさそうだ。
「いや、ただの確認。とりあえず、計画についてはお前の父親に送っといたから、多分止められると思うよ」
「計画ってどんなモノなんですカ?」
「まず、ジェヴォーダンの獣っていう召喚獣を呼ぶ」
「ジェヴォーダンの獣って、ジェヴォーダン地方に出たっていう未確認動物ですよネ。映画で見ましタ」
「まぁ、そんなとこだ。それで、ソイツの魔力には召喚者の意思に応じて姿と性質を変化させるっていう特性がある。その特性を使って獣を竜種、ドラゴンに変化させる。」
「ソレで魔力を電気に変換デキルんですカ?」
「普通なら無理だ。基本、魔力の変換は魔術師にしか出来ない。だからアイツらは魔術を使えるように調整したホムンクルスを使ってる」
その言葉を聴いた途端、レティシアの顔が青ざめる。
「ホムンクルスヲ?」
「そうだ。ホムンクルスを生体ユニットとして組み込んでる。それでドラゴンから吸収した魔力を電気へと変換してる。」
ただレティシアが恐れていることはこれではないらしい。
「………別に、お前が誘拐されてたところでこうはなんないよ。適当に人質にして上手くいったところで記憶消して解放、とかだろうし。」
「そう、ですよネ。……仮にやったとして上手くいくんですかネ、ソノ計画。」
「五分五分かな。つっても、いずれは面倒ごと起こすだろうし、新エネルギーには向かないよ。これやるくらいなら原発動かす方が100倍安全だよ。」
「………ん?」
研究所に一応の見張りとして置いて来た使い魔が消滅した。
「ドウしましタ?」
「研究所の見張りに出してた使い魔が消えた。どうなってんだ?」
新たな使い魔を召喚し、即座に研究所へと向かわせる。
だが、使い魔がたどり着くよりも、使い魔が羽ばたくよりもはやく、魔力の衝撃が迸る。
「違うな。これは魔力じゃねぇ」
頬が緩む。久しく感じなかったプレッシャー、神代以来なエーテルの感触。間違いなくジェヴォーダンの獣が召喚されてる。
「どうなって[旦那様]」
メタテからの通信がはいる。
「どうした?」
[ジェヴォーダンの獣が召喚されました。一部の研究員とコナン・ロシュフォールが計画を強行しましたようです。]
メタテの息づかいが荒い、かなり焦っているようだ。現代にドラゴンが出たんだ、当然といえば当然か。
「あぁ了解。他の研究員は?」
[避難させました]
「分かった。適当に逃げときな」
[承知しました]
言ったものの、多分逃げはしないだろう。別に逃げても構わないが、アイツなら普通に足止めをしようと考えるはずだ。
「どうでしたんですカ?」
「計画を強行したらしい。とりあえず研究所に行かないと」
「ワタシも行きマス」
「最悪死ぬよ?」
「ダイジョウブです」
「分かった。でも、無茶はするなよ」
ホテルから出るとすでに空が山に覆われている。高密度の魔力、否エーテルが光を遮っている。時間としてはそこまで暗くはないはずだが、真っ暗なカーテンに覆われ、空の様子をうまく観察できない。
「アイツの魔力か」
ヤエを呼び出し、命令を下す。
「一旦、レティシアを守れ」
「ご主人様は?」
「自分のことぐらいなら自分でどうにかなる。レティシア、大丈夫か?」
非魔術師なら吸っただけで眩暈がし、悪ければ死ぬ。そんなレベルで濃度が尋常じゃない。
「大丈夫です。研究所に行きまショウ」
だが、レティシアはけろりとしている。魔術師としても随分と魔力への耐性が高い。
「あぁ」
その時、突風が吹き荒れる。それによっていくつかのアパートの外壁が破壊されていく。
「どうなってる?」
「ご主人様、あっち見て!」
ミナが指差した方向、風上を見るとドス黒いエーテルの塊が空を飛び回っている。エーテルを放出しているアレ自体が空と同様に光を遮って、何も見えない。
「魔力の制御がデキてないデスね」
「だな。アイツらの使ってる拘束用の魔術と懐柔用の魔術。及第点は上げてやってもいいがドラゴン相手にするにはまるで足りてねぇ。」
「追いまショウ」
「あぁ、方角的には………エッフェル塔か」
エッフェル塔へと走り出す。何故か、ドラゴンはエッフェル塔の上空で羽ばたいている。移動する気配はない。というより、ホバリングの要領で待機しているように見える。第三展望台におそらくコナン・ロシュフォールがいる。
「旦那様、」
「いいタイミング。研究の避難は?」
「完了しました。市民の避難も始まりました。」
「分かった。俺たちはエッフェル塔登って、コナン・ロシュフォールとジェヴォーダンの獣を迎え撃つ。」
エッフェル塔を階段とエレベーターを使い登っていく。最上階の第三展望台。そこに辿り着いた時、今までよりも遙かに濃いエーテルを感じる。奴らは恐らくこの階にいる。
「誰かな?君たちは」
お目当ての主は堂々とそこに立っていた。
「コナン・ロシュフォール」




