旅の始まり
「クソ、」
いつも木曜日はついてない。人生で一度だって木曜日が幸福だった事は無い。今日もそうだ。デカい獣が暴れてるからとハイドパークに投入された。
そしたら、どうだ?デカい黒犬に襲われて、部隊が壊滅した。オマケに通信機が壊れたせいで増援も呼べねぇ。おしまいだな。
「隠れてりゃ、それなりに……………チクショウが」
隠れて増援を待とうとしたが黒犬に見つかった。当然か、犬は鼻が効くからな
「くたばれ、クソ犬」
恨み節を吐き、目を閉じる。生暖かい息を感じた刹那、瞼越しでなければ失明するのでは無いかそう思わせるほどの光が目の前を横切る。
反射的に目を開けると犬が吹っ飛んでいた。
「逃げろ!!」
誰の声かは分からねぇし、振り返る余裕もない。ただ、その言葉に従い全力で走った。
電気を纏わせたクナイを放ち、バーゲストを吹き飛ばして、その場に居た隊員を助ける。メタテとヤエは他の隊員の回復と避難に当たっている。
俺1人で戦うしかない。
だが、戦闘技術の大半は思い出せている。
「来いよ」
『ウガアアアッ!』
〈マイム・ノヴァ〉
突進してくるバーゲストに強烈な放水を浴びせ、怯ませる。
〈ウィンド・ストライク〉
旋風を纏わせた回し蹴りを撃ち込み、吹き飛ばしつつ、バーゲストの皮膚を裂く。
『グルルルルッ』
「痛いか?だったらお座りしてな」
『グガァァァ!』
〈ラーム・ノイズ〉
放たれる咆哮を雷鳴で押し返し、バーゲストを混乱させる。
『グルルルルッ』
「決めるか」
〈ケラ・レストラクション〉
混乱しているバーゲストを拘束する。
〈エッシュ・ノヴァ〉
魔力の弓を引き絞り頭部に炎の矢を撃ち込み、消滅させる。
「まぁ上出来だ」
「旦那様、どの程度まで思い出されましたか?」
「俺の旅のキッカケと、魔術の基礎。あとお前達の名前と思い出。そんぐらいだな」
「奥様のことは?」
「俺に妻なんていたの?」
「えぇ、最も今は旦那様と会う気はないでしょうが」
「なるほどね。まぁ、いつかは会いに行くよ」
「それがよろしいかと」
「あと父さん達と交渉しないとな。」
「旦那様、学業を疎かにするのはよろしくないのでは?」
「別にいけるよ。全部の記憶取り戻せばね。」
父さん達にビデオ通話をする。
「どうした?クレフ」
「父さん、休学したい」
「何故だ?」
父さんの声が低くなる。怒っている、というよりは俺にちゃんとした回答を求めているのだろう。
「父さん、俺はね自分のいるべき場所を見つけられる気がするんだ。」
「だから、休学したいと」
「そうだよ。俺は世界を巡りたい。そして俺の、本当にいるべき場所を見つけたい」
「それは、私たちのいる場所ではないと?」
「そうは言わない。父さんにも、母さんにも感謝してる。でも、子供はいつか旅立つ日が来るから。そして、俺にとってはそれが多分、今だ。」
はっきりと、そして自信をもって言える。俺には信念がある。そのためなら死んだって構わない。
「………分かった。お前のやりたいようにやれ。」
長い沈黙の後、父さんはそう言った。
「ありがとう。父さん。」
「ただし、次会う時が死体だったら、私はお前を許さないからな。」
「安心して、俺は強いから」
「元気でな」
「あぁ、」
別れの挨拶を済ませ、ビデオ通話をきる。
「これでゴーサインは出たわけだ」
「ご主人様!次、どこ行くの?」
「そうだな、近いしフランスでも行くか」
その言葉を聞くとミナとメグは顔を顰める。
「なに?フランスって行くの不味い?」
そう聞くと、バツが悪そうにしながら、メタテが答えてくれる。
「いえ、いつかは向き合わねばならない事ですので」
「ご主人様頑張ってね」
「なんだか分かんないけど、ありがと」
かくして、俺は自分を探す旅へと向かう事を決めた。これからどんな旅が待ち受けているのか、それは神のみぞ知る。




