黒き獣との戦い
1月26日修正しました。
「何かは分かんねぇけど、不味いってことは確かだな」
覚悟を決め、黒犬と向き合う。犬、というよりは熊に近いサイズだ。
「…………来る」
『ウガアアアッ!』
身体を大きく捻り、突進を避ける。突進されたカウンターは砕け散り辺りに粉塵が舞う。
「当たれば死ぬな」
だが、攻撃は単調。回避は十分出k
「痛って」
攻撃が僅かに掠っていたらしく、脇腹から出血している。単調な攻撃だし、回避し続ければ勝てると思った。逆だ、あの速度でこの威力を続けられればジリ貧なのは寧ろこっち。
「どうにかして撃退しねぇとな」
こっちの使える魔法は魔弾と障壁と身体強化だけ。それに、私の障壁程度じゃアレを受けるには心許なさすぎる。
「だとしても、やるしかねぇ」
昨日、踏ん切りつけたってのに。まだ、死ぬわけにはいかない。
身構えていると黒犬が咆哮を放つ。
『グガァァァァ!』
「ちっ」
防壁で防ぐが、後ろの壁がひび割れている。
「コイツはいけるけど、アレは多分無理だな。なら、」
「こっちから、近づいてやるよ」
即座に駆け出し、黒犬も多少遅れてこちらに突進してくる。
『ウガアアアッ!』
「確かに、加速しきればそれは防げねぇ。でもなぁ、加速する前なら!」
距離を詰め、加速する前に障壁に突っ込ませるが、障壁は砕ける。
だが、障壁にあたればコイツとてタダじゃすまない。
「喰らいやがれ」
至近距離から頭部目掛けて、大量の魔弾を撃ち込む。
衝撃で黒犬がよろけた瞬間に、距離を取る。
「……無傷かよ」
多少怯みはしたものの以前無傷な黒犬は私に噛みつこうと大きく口を開け、突進してくる。
「そんな攻撃で!」
障壁を口内に発生させ、口を封じ突進を跳んで躱わす。
『グガァァァ!』
「不味い、」
黒犬が放った、咆哮で障壁が砕け散る。追加の障壁を貼るが間に合わず、壁に叩きつけられる。
「クソが、」
薄れゆく意識の中で聞こえたのは、クソ犬の足音だけだった。
「でもな!」
こんなところで終われるか、気合いで意識を保ち、突進してくる黒犬にカウンターを仕掛ける。
身体強化をかけたところでアレの皮膚を貫けるか、どうかは怪しい。でも、やるしかない。
全身の強化に使う最低限の魔力。それ以外の全てを右腕に集約する。
熱い、魔力を集約させた右腕が火で炙られたように熱い。壁に叩きつけられた時に骨折でもしたか。だが、そんなことはもう考えている余裕はない。
瞬きする間もなくアイツは間合いを詰めてくる。
「はぁ!」
ギリギリで下に潜り込み、腹に拳を入れる。燃えるように熱い拳は的確に黒犬の腹を捉え、ロビーの端まで吹き飛ばした。
遂に、意識が途切れる。
寸前な感じたのは、
「旦那様!」
「ご主人さま!」
メタテとヤエの声だった。
気がつくと私は見知らぬ部屋で楔形文字が記された粘土板を見ている。
どこだ?ここ?
そう言おうとしたが、声が出ない。
何故粘土板なんて時代遅れのものがあるのか、そもそもここはどこなのか、疑問は尽きない。そんな考えは意識外からの一言でかき消される。
「カナン?」
誰だ?
そんな言葉も喉から出ない。
視線が下へと向かう。
俺は恐らく、誰かの記憶を追体験している。他人のゲーム画面を眺めてるみたいな感じだ。
「そういえば、結局解毒出来なくてあと数日らしいわ。私」
は?
「別に、謝らなくていいわよ。貴方は最善を尽くしたし、それでも治らなかっただけなんだから」
私のせい?誰の記憶かも分からないのにそんな思考が脳を覆う。
いや、違う。俺がポニエを。
「だから、謝らなくていいって言ってるでしょ」
「そんなに謝るなら、私の分まで生きてよね」
ポニエの笑顔が眩しい。俺はそんな顔を向けられるような人間じゃない。お前が死ぬのは俺のせいなのに。
でも、ようやく思い出せた。俺のことを。
覚醒と同時に目に入ったのは2人の顔だった。今にも泣きそうで、でも泣くまいと堪えている。
「旦那様!」
「ご主人様!」
2人の声が響く。
「俺は大丈夫だよ」
あくまでも気丈に振る舞う。
「俺はどのくらい寝てた?」
「12時間程です」
そんなに寝てたのか、そう思いつつ言葉を繋ぐ。
「アイツは、えっと、なんて名前?」
「おそらく、バーゲストかと。」
「そうそう、バーゲスト。で、どうなってる?」
「イギリスの特殊部隊がハイドパークで交戦を開始しています。」
「勝てると思う?」
そんな笑えないジョークは
「有り得ませんね」
「無理だと思うよ?」
即座に否定される。
「だろうね。じゃ、助けに行かないと。」
それをメタテが引き止める。
「このような事は言うべきでは無いかもしれませんが、旦那様。あの程度の獣、旦那様なら大丈夫でしょう。ですが、旦那様が身を危険に晒す事は無いのでは?」
「前の私はそうだった。生きる事に全てを注いでた。でも、今は違う。救える命はちゃんと助けたい。行くよ、メタテ、ヤエ。」
「承知しました。」
「分かったよ!ご主人様!」




