居場所
1月26日修正しました
伸びをしながら博物館から太陽の当たる外へと出る。興味深いものも多かったが何よりデカかった。
「想像以上だったな、大英博物館」
考えたいことは無限にあるが、とりあえずは昼飯をどこで食べようか。カフェか、それともレストランでも行くか
「どうすっかなぁ」
スマホで調べれば適当なところは出てくるだろうがそれはつまらない。やっぱり旅たるもの歩いて探すべきだろう。
「こことか良さそうだな」
ぶらぶら歩いて10分ほど、良い感じの店を見つけた。
「ん?」
ふと、レストランの向かいにある店が目に入った。ただの野菜専門店だが、目に入ったのは店ではなく、その店頭で品定めしている少女だった。
少女、と言っていいのかは分からないが、真剣な様子でズッキーニを見ている。その横顔にどこか懐かしさを覚えた。
少女は私の視線に気づいたのか振り返るが信じられないとでも言いたいような顔をして固まった。
どこかで会ったことがあるのか、そう聞こうとした瞬間、彼女が声をかけてきた。
「旦那様?」
「いや、違うと思います」
少女の絞り出したような疑問を、俺は曖昧に否定する。少なくとも彼女が家政婦であったことはないと思うが。
「初対面のところ申し訳ないのですが、少しお時間をいただけますか?」
少女がそう尋ねてきた。別にたいした予定があるわけでもないが、こんな怪しいものについて行くべきではないだろう。
でも、俺の勘が言っている。この子は信頼できると、自分に空いていた穴を埋めてくれる誰かだと。
「大丈夫だ。」
「そうですか!ではご案内いたします」
「あぁ、」
そう言って彼女に連れられていく。
「イギリスへは、観光に?」
「エジプト展がやってるって聞いて気になってね」
「左様ですか」
長いのか短いのかよく分からない道のりを歩いた先に彼女の住んでいるのであろう家に着いた。
「ここは?」
「私の主の家です。もっとも今、旦那様は不在ですが」
少女は悲しそうに目を伏せながらそう言う。
「じゃあ、なんで俺を呼んだ?」
「これ以上は中で話しましょう。百聞は一見にしかず、です。」
少女が家の門を開け、それに続く。郊外とはいえ、そこそこ広い。
家の扉を開けると、
「おかえり〜、メタテ。!?ご主人様!帰ってきたの!?」
もう1人、少女が居た。掃除中の掃除機を置き、こちらに近づいて来る。というか、俺がご主人様?どういうことだ?
「ヤエ、旦那様の日記を」
「了かーい!!」
そう、元気に答え、"ヤエ"と呼ばれた少女は、二階へと上がっていった。
「日記?それを読めと?」
「いえ、日記を開くだけで充分です。」
「そうか」
特殊な魔術加工が施されているのだと納得しておく。それに、この家自体もかなりの結界が張っている。この家の持ち主は優れた魔術師だったようだ。
「持ってきたよ!」
元気な少女、ヤエが日記をメタテと呼ばれた少女に渡す。
「こちらを」
「あぁ、ありがと」
言われた通りに日記を開く。
刹那、本を媒介にして記憶が流れ込んで来る。だが、
「これ、誰の記憶だ?」
ノイズのかかっているものも多いが見れる物もある。でも、それは映像であって、記憶じゃない。それは、少なくとも俺の記憶じゃない。
「どうでしたか?」
「いろんな映像が脳に流れ込んできた。統一感のバラバラな映像が。これ、誰の記憶なんだ?」
「貴方のもの。ではありますが、前世の記憶ですからそう簡単に思い出せないのも仕方ありません。」
「俺の記憶?」
「はい」
にわかには信じがたい。だが、そうであるのなら、俺の空白にも説明がつく。どこでもなく、親の側さえ、居場所も思えない自分に、説明をつけられる気がする。
「ありがとう。色々踏ん切りがついた気がするよ」
「お役に立てて何よりです。」
「ご主人様、これからどうするの?」
ヤエがそう聞いてきたが、生憎俺はそれへの答えがない。でも、探そうという気力は生まれる気がした。
「でしたら、これを」
そう言って、日記を差し出してくる
「いいのか?これ、大事なものなんだろ?」
そう聞くと、メタテはきっぱりと言い切った。
「これは、旦那様のものですから。」
「こいつ、どうしよ」
昨日、私の?メイド達に渡された日記。ページ数が見た目と絶対に一致しない。というより、いくら何でもページ数が多すぎる。推定、一万ページは越している。
ただ、魔術的な知識も多く記されており、持っていて損をすることはないだろう。そう考えていると下から大きな衝撃が走る。
「なにが起こった?」
急いで部屋を出て、エレベーターに乗ろうとするが、待てどもエレベーターが来ない。
「故障か、エレベーターがどっかの階で破壊されたか、」
考えている時間はない。非常階段を使い、ロビーへと降りる。途中、何人か見かけたが、何が何だか分からない。そんな感じだった。
「一階、いやここじゃ一階か」
ロビーには誰もいない。正確には人の気配がない。ロビーに居るはずの受付嬢も、朝食を食いに出かけようとする旅行者も、誰1人として気配がない。
「でも、何かがあった。」
正面にあるデカい窓から外を見ても霧だらけで何も見えない。
「どうなってんだ?」
「Mitä tapahtuu!? Aa」
そう思っていると、階段の方から声がした。俺と同じく、見にきたのだろう。
「!?避けろ!」
刹那、黒いモヤが男に突進し、男は悲鳴と共に霧散する。
「なんだよ、あれ」
黒いモヤは階段の前で止まり、段々と形作られていく。鎖を引きずる角と鉤爪、それを持った赤い目の黒犬。
「何かは分かんねぇけど、不味いってことは確かだな。」




