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憧憬のエテルニタス  作者: 寄賀あける
第四部 落城 永遠への憧れ

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20 慟哭(3)

「いずれ術は解かれ、ここは見つかることだろう。わたしはこれから大きな術を掛ける。良く聞いて、間違えずに従って欲しい」

サリオネルトの言葉にブランシスが大きく頷く。


「これから、いくつかの術を掛ける。術の最後に『時限の実効』を使う」

「時限の実効?」

「設定した時間が過ぎて、初めて効力が生じる。今回は十、数える間とする」


「それで?」

「術を唱える最後にそれを宣言する。その宣言を聞いたら、おまえは赤ん坊と剣を持って南に飛んで欲しい」


「剣……あの赤ん坊の上に置かれた剣のこと?」

「置いてはいない。剣の重さに赤ん坊は耐えられない。よく見てごらん、剣は浮いている」

ブランシスが見ると、確かにわずかな空間を持って剣は赤ん坊の呼吸の動きに沿って浮いている。


「総ての(ことわり)を知る剣だ。今、剣の加護をロハンデルトに与えている」

()(げん)王……」


 サリオネルトが剣を手に取った。そして我が子がすやすやと眠っているのを確かめる。

「名はロハンデルトだ。通り名は……ロファーがいいな」

そう言ってニッコリと微笑み、赤ん坊の(ひたい)にキスをする。そしてまたその顔を見詰める。


「いつまでも見ていたいがそうもいかない」

立ちあがりブランシスに頷く。ブランシスがそれに頷き返す。


 居住まいを正し、剣先を赤ん坊に向ける。部屋の空気が重くなった。


示顕(じげん)王サリオネルトの権限で、(すべ)ての神秘、(すべ)ての(ことわり)に命じる》


 我が子ロハンデルトに向こう二十二年間の偽りなき守護を。そして神秘の力の封印を。その対価としてサリオネルトの魂を捧げる。我が魂はロハンデルトに封印され、二十二年の時を過ごす。


 時が満ちれば二つの封印は解かれ、サリオネルトからロハンデルトへ、力と権限の移譲がなされる。だがロハンデルトがそれを拒むとき、その対価はロハンデルトの持つ神秘の力とし、ロハンデルトは神秘の力を失うだろう――


 見つめるブランシスが顔色を様々に変える。こんな術は見た事がない。聞いた事もない。魔導術の本でも、魔導呪文の本でも読んだことがない。それに魂の封印とはなんだ? 魂を術の対価にするなんて!


 どんな術を掛けるのか、サリオネルトに訊いておくべきだった。


「そして我が子ロハンデルト……おまえは母に愛され、その命と引き替えに誕生した。それをおまえの心に刻む。(きた)るべき時、おまえはそれを思い出せ」


 おまえの両親は互いに運命を預け合える相手と結ばれた。おまえも定められた相手を見つけ、必ずその相手とのみ結ばれよ。二親の愛の賜物であるおまえには、その義務を課す。



《示顕王サリオネルトはここに宣言する。この神秘術は、これより十、数えた後に実効される》


 ずっしりとしていた空気が急に軽くなる。サリオネルトが持っていた剣をブランシスに手渡しながら

「ボケっとするな、しっかりしろ」

と肩を叩く。それから赤ん坊を抱き上げる。


「ロファー……」

顔を見詰め、頬ずりし、もう一度顔を見詰める。そして預かった剣をブランシスが宙に隠し終えると、赤ん坊をブランシスに手渡した。


「行け。頼んだぞ」

そう言う間もサリオネルトはロハンデルトの顔を見つめ、身体に触れ続ける。そんなサリオネルトを見詰めながら掛ける言葉を思いつかないブランシスは、瞳を閉じると黙って姿を消した。


 見つめる顔と触れる身体を失って、サリオネルトは一瞬自失する。が、すぐにベッドに駆け寄り、横たわるマルテミアの手を握りしめ、『決して引き離せぬ契り』の術を掛けた。


「わたしたちの息子は無事だ。安心して眠るんだよ」

マルテミアは命を落とした時と変わらず、優しい微笑みを浮かべていた 。


 西の城に乗り込んでいたビルセゼルトは、必死にサリオネルトを探すが見つけられずにいた。途中、スナファルデたちと遭遇しそうになったが、寸前でホヴァセンシルの合図に気が付いて回避できた。


 しかもホヴァセンシルの合図はサリオネルトの居場所を指してきた。方向はこちらのはずだ。騙惑術を解術したいが、スナファルデに気が付かれる危険がある。


 だが、心配なのはホヴァセンシルだ。あんな合図を送ってきて、スナファルデや二人の魔女に気が付かれないか?


 なにしろここはホビスのためにも先にサリオネルトを見つける事だ。ビルセゼルトは遠見、遠聴を駆使して気配を探った。


 いっぽうホヴァセンシルは、合図を送ったビルセゼルトが巧く気配を消したことに安堵していた。スナファルデたちは騙惑術の解術に夢中で、ホヴァセンシルの裏切りにはまるで気が付いていない。


(ビリーに任せてここは北の魔女の城に引き上げたほうがいい。何かいい方便はないだろうか?)

ホヴァセンシルは解術を手伝うふりをしながら、思索し続けていた。


 ハッとビルセゼルトが立ち止まる。

(ここだ、強い術の気配がする。とんでもなく強い力が大きな術を掛けている)

だが、サリオネルトが術を掛けているとして、ここまで強い力だったか?


(……示顕(じげん)王が成立したんだ)

顔を上げて壁の向こうを見詰めるが、強力な結界が中を覗かせてくれない。掛けられた入室制限も強いものだ。


(サリオネルトとブランシスのみ許可されている)

間違いない。術が終わるのを待って壁を()じ開けるか? ビルセゼルトは周囲に気を配って、今度はスナファルデの気配を探る。


(ホビスは上手くやっている。先ほどより遠ざかっている)

ならば術が終わるのを待ち、タイミングを見計らってサリオネルトに声を掛ければいい。


 ビルセゼルトがそう決めた時、急に足元が揺れ始めた。


「なに?」

大きく城が揺れる。違う、大地が揺れている。そして大気も共鳴して、細かく、そして強い振動が輪を描いて広がっていく。


 サリオネルト!


 ビルセゼルトが部屋の中を見ようとした。が、崩れ始めた壁に遮られ見えない。そして足元も崩れ始め、自分も一緒に落下していく。


 西の魔女の城は建物ごと崩れ始めていた。

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