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憧憬のエテルニタス  作者: 寄賀あける
第四部 落城 永遠への憧れ

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19 難産(4)

 泣き止んだところでジョゼシラを球体から解放した。グズグズ鼻を啜り上げるジョゼシラにビルセゼルトが、自分の城を傷つける愚かさをクドクド説教していた時だ。

「何が起きた!?」

大気が大きく振動した。ジョゼシラどころではなくなったビルセゼルトが、城の最上階へと瞬時に移動した。


 遠見すると西の陣地の結界はボロボロで、辛うじて外郭をとどめているに過ぎない。が、消えたわけではない。空を見上げると、太陽はかなり中天に近いがまだ達していない。


(今の振動は何だ? てっきりマリかと思って慌てたが、マリはまだ生きている)

結界が姿を残しているのがその証拠だ。すると、まさか?

「サリオネルト!」

急いで西の城の中を覗く。


 が、皮肉にも自分とダガンネジブが施した騙惑術が邪魔をして人の気配は感じるものの、誰なのかが判別できない。そこへ目を(こぶし)で擦りながらジョゼシラが姿を現す。頬が赤くなっているのは、ビルセゼルトに魔法で打たれた痕だ。


「西の城の中が見えるか?」

「うん?」

ビルセゼルトの問いに、ジョゼシラが瞳を閉じる。


「だれ、あんな複雑な術を掛けたのは? 騙惑術があっちこっちに掛けてあって、良く見えない。でも、魔女が六人、魔導士が多分三人」


「人数は判るんだ?」

「辛うじてね。だけど、魔女の一人はかなり弱っているし、魔導士の一人は、魔導士じゃないかもしれない」


 産室に五人の魔女とサリオネルトが言っていた。もう一人はマルテミアだ。そうか、マリは弱っているか……


 だが魔導士は誰だ? サリオネルトとブランシスで二人。もう一人となると……

(生まれた? 夏至になっていないのに?)


 さっきの振動がサリオネルトの子が生まれた衝撃だとしたら? 示顕(じげん)王が? 生まれた?


「ビリー、ねぇ、ビリー」

ジョゼシラがビルセゼルトの腕を揺する。

「考え事をしてる、構うな」

ジョゼシラの手をビルセゼルドが振り払う。


「でも、ビリー」

五月蝿(うるさ)いって言ってるんだ。(わずら)わしいヤツだ」

ジョゼシラの顔色が変わる。ハッとビルセゼルトも自分の失言に気が付く。


「ごめん、そうじゃなくって、今は、ね。今は忙しいから」

「……」

ジョゼシラがビルセゼルトを表情のない顔で見る。そして

「西の陣地の結界が破れた」

西の城の方角を見た――


 大気の振動は東の魔女の居城でも感知されている。

「騙惑術が邪魔をして、よく見えない」

チッとソラテシラが舌打ちする隣で、ダガンネジブがそっぽを向いてヒュウと口笛を吹く。


「まっ! あなたの仕業(しわざ)ね?」

「サリオネルトのリクエストでね。ジョゼの旦那と二人でやった」


「まったく!」

と怒りながら、

「でも、見事ね。ビリーもやるじゃない」

ソラテシラが微笑む。


「でも、魔女が張った結界はもう持たないわね」

「マルテミアが亡くなれば、当然崩壊する」


「それで逃げ帰って来たのよね?」

「サリオネルトの命令だ。いても足手(あしで)(まと)いと感じたのかもな。お、陣地の結界が崩壊したぞ」

「城の結界が丸出しだわ」

嘆かわしいと言わんばかりのソラテシラだ。


 北の魔女の居城、ホヴァセンシルは魔女の居室の居間で、苦虫を噛み潰したような顔で腰かけていた。

「今の振動は何? マリ? マリに何かあったの?」

ジャグジニアが大声を出し、それをドウカルネスが宥めている。


「騒ぐな。西の陣地の結界も、城の結界も、まだ辛うじて存在している。マリは生きている」

ホヴァセンシルがそう言うと

「見てもいないのに何が判るの?」

ジャグジニアが余計に(わめ)きたてる。

「ジャグジニアさま、落ち着いてください。ホヴァセンシルさまの(おっしゃ)る通りです」

ドウカルネスが必死に宥める。ふん、判っちゃいないクセに……ホヴァセンシルが心の中で悪態をつく。


 居室で戦況報告を受けながら、ホヴァセンシルは西の魔女の居城の内部をずっと覗いていた。


 ビルセゼルトとダガンネジブが騙惑術を城のあちこちに掛けているのも見ていた。おかげでどこがどこやら判らなくなってはいるが、内部の人数は把握している。


(一人増えた。無事に生まれたのだな。マリも無事だ)

おめでとう、サリオネルト。こんな状況になっていなければ、すぐにでも祝いに駆けつけるのに。


 そのホヴァセンシルが俯き加減だった視線を不意に上に向け、サッと立ち上がる。

「陣地の結界が破れた」

そう言うと姿を消した。最上階に出向いたのだろう。するとドウカルネスと黙って座っていただけのスナファルデが視線を合わせる。


「ジャグジニアさま。今こそスナファルデさまのお力をお借りください」

ドウカルネスが静かに言った。


 北の魔女の城の最上階では、ホヴァセンシルが並み居る魔導士たちに様子を聞いている。

「先ほど急に結界が崩れました。何が起こったのかが判りません」


「南の魔女が出産で、一気に体力を使っただけだ。それで、どうだ。城の結界も破れそうか?」

「それが、土台がボロボロなのに崩れません」

「どれ……あぁ、サリオネルトが大地の守護術を足した結界を張っている。だが、そう長続きしない」


 ホヴァセンシルが空を見上げる。夏至まであと僅か――

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