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憧憬のエテルニタス  作者: 寄賀あける
第三部 宣戦布告 苦悩の果て

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17 迷走(5)

 東の魔女ソラテシラ、南の魔女ジョゼシラ、そして西の魔女マルテミアの夫・魔導士サリオネルト、この三人は、みなそれぞれの居城の最上階に陣を張り、北の城に神経を集中させている。


 しかしこの戦争、西が敗れ魔女マルテミアが西の陣地を放棄するまで、東と南の魔女は動くに動けない。西の魔女が統括している以上、ほかの統括魔女は西に手出しできない。


 魔導士であれば、それぞれの陣地から西の陣地を援護する保護術や防御術を投げることもできるが、ビルセゼルトやホヴァセンシルのような高位魔導士の、強い力が発した術でなければ気休め程度にしかならない。


 北の陣地が西の陣地に攻撃を仕掛けると同時に、東の魔女ソラテシラを中心に東と南から北を攻撃する、との意見もあった。だがそれは、ビルセゼルト・サリオネルトの『被害は最小限に』という意見の前に却下された。いまやギルドに置いてビルセゼルトに反対できるものはいなくなっている。


 南の魔女が妻であり、双子の弟は西の魔女の夫で、実質的に西の陣地を仕切っている。王家の森魔導士学校の校長でもあり、他の魔導士学校二校の校長の信頼をも得ている。ギルド内に置いて東の魔女は孤立させられたに等しい。


 そうは言っても東の魔女ソラテシラは南の魔女ジョゼシラの母親であり、本質的には味方なのだから、別の見方をすればギルドは一枚岩になったといえる。


 ギルドの執務室にいたビルセゼルドが時刻を確認し、立ち上がる。傍らに控えていた警護魔導士ナセシナノに会釈し『頼んだぞ』と部屋を出る。


 ナセシナノはビルセゼルトの(めい)に従い、ギルドの総本拠、つまりは魔導士学校全体の結界を更に強化するよう部下に指示を出した。


 そしてビルセゼルトは火のルートに向かう。ビルセゼルトを見るとルート番が頷いて、南の魔女の居城へのルートを開き、

「南の魔女さまの夫君ビルセゼルトさまが南の居城にお戻りになる」

居城側のルート番に告げる。

「いってらっしゃいませ」

ギルドのルート番に見送られ、ビルセゼルトは炎に足を踏み入れた。


 西の魔女の居城では、北の動きを見詰めつつ、サリオネルトが腹心の魔導士ブランシスに送言術で指示を出していた。もうだめだと思ったら、迷うことなくみなを退避させろ。


 それにブランシスが異を唱える。

(サリーを置いて逃げろと? 馬鹿を言うな)

(星見は西の城を諦めるよう言っている。だが、ギルドもわたしもやすやすと西の城を北の魔女に明け渡すわけにはいかない)

できる限り交戦し、北の魔女にギルドの意思を示してからだ。


(だから、ギリギリまでわたしはこの城に残る。わたしが撤退する前に、みなを安全な場所に誘導するよう、おまえに頼んでいるんだよ)

(判りました、みなには退避命令を出しましょう。だが俺は最後までサリーとともにいる)

(相変わらず強情だなぁ……)

サリオネルトが苦笑いする。

(判った、だが無理はするな。シスに何かあったら、わたしは叔父さんと叔母さんに会わせる顔がない)


 魔導士学校を卒業したら、サリーのいる西の城住みにしてくれ、と売り込んできたのはブランシスのほうからだ。


 おまえがギルドに誘われているのは知っているよと、サリオネルトは受け入れなかった――デリアカルネから否定されたものの、サリオネルトは納得していなかった。自分は()(げん)王かもしれないという不安を抱えたまま、従弟(いとこ)ブランシスを巻き込むのが怖かった。


 が、しつこく西の城を訪れ懇願するブランシスをマルテミアが気に入って、城住みの許可を出してしまった。マルテミアが許してしまえば、サリオネルトにそれを覆すことはできない。統括魔女の居城において魔女の決定は絶対、たとえ夫であろうと取り消せない。


 自分は示顕王だとはっきりしてからも、ブランシスには明かしていない。明かせばブランシスの心に、重い心配事を植え付けてしまう。だから言えなかった。


 そんな経緯で西の魔女の居城に入場したブランシスだが、サリオネルトから離れることなくよく働き、今ではサリオネルトにとって欠かせない腹心となっていた。


 南の居城の最上階では、ビルセゼルトを迎え魔導士たちが円陣を組んでいる。ここにいるのはどれも保護術を得意とする者ばかりだ。そして王家の森魔導士学校(しろ)(がね)寮出身者が多い。


 ビルセゼルトは、赤金(あかがね)寮出身者を東の陣地に、黄金(こがね)寮出身者を西の陣地に、それぞれ大目に配分した。それ以外の別の魔導士学校を卒業した者は東に集めた。


 四年間の学生生活で寮の結束はいやでも固くなっている。それをうまく使わない手はない。顔見知りであれば、意思の疎通も巧くいくだろう。

「目的は西の陣地を守ることにある。我らに抜かりのないところ、しっかりと世に示そうではないか!」

ビルセゼルトに魔導士たちが歓声で応えた。


 そして―――


 北の魔女の居城、周囲を見晴らせる最上階のテラスで、ホヴァセンシルが立ち上がる。フードを目深に被り、腰には魔導士の剣、手には魔導士の杖がある。その傍らにジャグジニアが立った。ジャグジニアも魔女のローブを纏い、フードを目深に被っている。そして、右手を高く(かざ)(せん)した。


 その声は、魔導士ギルドに届くよう神秘術が掛けてある。


「北の魔女ジャグジニアの名を持って宣言する。我が北の陣地は西の魔女マルテミア及びその夫・魔導士サリオネルトを、世を騒がせ災いするものとして討伐するべく、西の陣地に攻め入るものなり」


 終わると同時にどよめく喚声、北の陣地から様々な呪文が西の陣地の結界に向かって、撃ち放たれ始めた。


 西の居城ではサリオネルトが身構え、

「来るぞ!」

と叫んだ。


 同時に魔導士の杖を両手で掲げ持ち、防御呪文を唱え始める。並み居る者たちもそれぞれに、魔導士であるならば杖を使い、魔女は全身、髪の一本一本までをも使い、自分の得手とする術で結界を強化し始める。


 立て続けに炸裂音がし、陣地に振動が走る。市井では暴風が吹き荒れていることだろう。


 街の魔導士たちは巧くやってくれているだろうか。サリオネルトは里親の家があった街を思い起こしていた。


 ――こうして二十数余年に渡る『灰色の記録』、魔導士ギルドが二分され覇権を争うきっかけ、九日間戦争の幕は切って落とされた。

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