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憧憬のエテルニタス  作者: 寄賀あける
第一部 魔女選考 若者たちの純情

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2  引き離される二人(3)

 でも、とニアが言った。

「もしサリーがその示顕(じげん)王だとして、マリはなんでそんなに泣くの? サリーが嫌いになった?」

「そうじゃないのよニア。それがね、絶対サリーが示顕王だと言いきれない部分もあるの」


 星を読むと、示顕王の誕生は四年後、そしてその五年後に神秘王が生まれると出ているのですって。


「神秘王?」

思わずニアが聞き直す。

「神秘王なんて聞いた事がないわ」

「うん、わたしも初めて聞いた」

マリが続ける。


 もともと示顕王と神秘王は同じものだったらしいわ。それがいつの間にか別々に認識されるようになったんですって。


 『総てを(あらわ)し示す者』が示顕王、『総ての神秘を()べる者』が神秘王と呼ばれるようになったらしいわ。そして示顕王は『総ての(ことわり)を知る剣』を所持し、神秘王は『総ての神秘に()つ剣』を持っているって話よ。


「でも……星は示顕王が生まれるのは四年後だと言っているのでしょう? だったらサリーは違うのではないの?」

「示顕王は四年後に生まれるはずなのに、サリーが『剣』を空宙から出してしまったの」


 再びマリの瞳に涙が溢れる。

「それに、もし示顕王でないのなら、サリーは五年しか生きられない」

号泣するマリの背をニアが抱きしめる。

「大丈夫、サリーはきっと示顕王なのだわ」

だって剣を出したのでしょう?


 自分でも言っていることが一貫しないと思いながら、ニアはそう言わずにいられない。


「判らない、判らないのよ」

魔女も魔導士も、誰にも判らない。サリー本人にも判らない。だから時を待つしかないの。


「四年後に、何が起こるのか。星が示す示顕王の誕生が何を示すのか、星見の魔導士ですら読み取れない。その時にならないとはっきりしないらしいの」


 星が示すのは、サリーのさらなる覚醒ではないか、と言う人もいる。南の魔女さまはそう(おっしゃ)った。でも、北の魔女さまと東の魔女さまは別の人が真の示顕王で、サリーは真の示顕王を隠すためダミーだと言うの。


「そうだわ、サリーは? サリーはどうしているの? 学校に居ないのよ」

ニアがサリーの不在を思い出す。


「サリーは魔導士ギルドからご両親のもとに帰ったわ。そうよ、ニア。わたし、サリーと結婚するの」

いろいろなことがありすぎて、何から話していいか混乱している。


「少なくともサリーは、今は示顕王ではない、あるいは覚醒しきっていない。それだけは確かなことらしいわ」

示顕王は自ら名乗るらしいの。それが示顕王の力を示す方法らしいわ。


「魔女や魔導士が自分の身分と名を明示して、術を体現するように?」

ニアが問う。

「そうよ、その通りよ。魔女も魔導士も決して別人を名乗れない。示顕王も神秘王もその辺りは同じらしいわ」


「それよりも、結婚が決まったってそんな大事なことを、どうしてさらりと流してしまうの?」

ニアの目からも涙が溢れてくる。

「マリはサリーと結婚して本当に幸せになれる?」


「ごめんなさいニア、あなたに心配を掛けたいわけじゃないのに。サリーと結婚できるのは、心から嬉しいのよ」

だけど、不安で不安で仕方ないの。学校に戻ってニアの顔を見た途端、その不安が爆発して、だからわたし、泣いてばかりなのよ。


「でもね、ギルドの拠点にいる間、一度も泣いたりしていないのよ」


 サリーが『必ずキミのことは僕が守る』と言ってくれたの。この時ばかりはマリの泣き濡れた頬も赤みが差し、瞳が幸せそうんい輝いた。


「そうよ、やっと自分がなんで泣いているのかが判ったわ」

マリが涙を拭いながら言う。

「サリーが傍にいないからよ。無事に帰ってきてくれるのか、それが判らないから不安で泣いているんだわ」


「可愛いマリ、大丈夫、あなたのサリーがあなたを放っておくわけがない」

わたし、知っているのよ、とニアが言う。どれほどサリーがあなたを思い、あなたを求め、愛しているかを……


 初めてマリの声を聞いた時、初めてマリの姿を見た時、初めてマリの瞳を見詰め僕を見詰め返してくれた時、僕がどれほど時めいたか、ニアには想像できる? この人の傍にいられるならば、ほかには何もいらないと思った。そしてマリを知れば知るほどその思いは強くなり、僕の中でマリは僕の一部になっていったんだ。


 サリーはわたしにそう言ったわ。男の人が自分の恋人をそんなふうに言うのを初めて聞いた。そしてマリは幸せだと思った。わたしはまだ、誰にもそこまでの思いを貰ったことがない。


「だから大丈夫。サリーは必ず戻って来る。だいたい戻ってこない理由がない」

「そうね、ニア、サリーのことは信じているの。でも、ギルドはわたしたちの結婚を認められないと最初は言ったの」


 それをサリーが覆させた。結婚が許されないのなら、マリは西の魔女になることを拒否するだろう、と。


「ギルドの決定を誰も拒否などできないわ。それを拒否すると、サリーが言いきったの」

「ちょっと待ってよ」

ニアが慌てる。


「それって、死んでもいいって言ったのと同じ事じゃ? 反逆は死罪だわ」

「そうよ。そしてわたしも判ったの……サリーがいなければ、わたしは死んでしまう。わたしがいなければサリーも生きていけない」


 マリはまっすぐ前を見つめ、それからニアに向き合った。

「そうなのよ、わたしとサリーは一緒になれなければ生きていけないって、ギルドに宣言したの」


 そんなマリをニアは見詰め、そして抱きしめた。

「マリ、それがあなたの幸せなのね」

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