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憧憬のエテルニタス  作者: 寄賀あける
第三部 宣戦布告 苦悩の果て

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15 決断(1)

 案の定、ジョゼシラは南の小ギルドの長とともに会議室に姿を見せた。自席に戻る前にビルセゼルトとサリオネルトに近寄り、

「父さんと母さんは南の居城に入ってくれたけど、パパとママは『遠慮する』と言った。どうする?」

と訊いてきた。


「パパとママ?」

首を(かし)げたのはビルセゼルト、

「遠慮?」

と答えたのはサリオネルトだ。


「サリーの里親の事。そんな資格はない、縁は切れている、と言ってたよ」

ジョゼシラの言葉でビルセゼルトがサリオネルトを見る。


「最後の手紙って絶縁状だったのか?」

「そうとも言うな……ジョゼ、わたしの里親の事は誰から聞いた?」


「マリから連絡が来た。サリーのパパとママを守ってって。だから探して見つけたんだけどね」

それを聞いてサリオネルトは納得したようだが、

「北はそこまで知っているだろうか?」

とビルセゼルトに判断を求める。サリオネルトは養親の安全を訊いている。


 弟をチラリと見てからビルセゼルトは言った。

「いつかサリーは里親に迷惑を掛けた、と言っていた。慕わしいと思う気持ちがないわけじゃないと俺は見るね」


 絶縁すれば縁者ではなくなるけれど、心まで切れるものではないと思う。もし、敵がサリーの里親の存在を知ればサリーの弱点になると判断するだろう――サリオネルトの質問の答えとはそぐわない。だけど、きっと、答えはこれで()っている。


 ビルセゼルトは、サリオネルトではなくジョゼシラに向き直った。

「ギルドの命令、もしくは魔女の権限で、サリーの里親の保護を」

ジョゼシラは南小ギルドの長に合図を送った。南小ギルド長は頷いて、再びルートのある隣室へと消えた。


 確かに絶縁状の内容は『これからは親でも子でもない』なのだろうけれど、その本意は西の魔女の夫と決まったサリーの足枷(あしかせ)にならないようにとの配慮だっただろう。そんな事はサリーだって判っていたはずだ。


 けれどサリーはあんな言いかたをした。親でも子でもないと手紙を寄越したと言った。そこに(いつわ)りはない。


 だがその言葉は、サリオネルトの心の闇が言わせたものだ。養親は縁を切る事を選んだ。その事実にサリオネルトは、情けなさと寂しさを感じたのだろう。


 しかし事態は動き、絶縁しておいてよかったと、きっとサリオネルトは思い直している。養親が足枷になるのではなく、自分が養親の足枷になると考えているのではないか? 正体の知れない〝示顕(じげん)王〟の育ての親になど、誰もなりたくないはずだ。そのうえ、それを理由に危険にさらされるかもしれない。


 だから本心としては、何がなんでも保護し、安全な場所に匿いたい。が、絶縁された自分にそんな権利はない――サリオネルトのそんな心情を察してマリは、サリオネルトには何も言わずジョゼシラを頼った。住居の地の統括魔女にはどんな身分だろうが逆らえない。


 南小ギルド長を待っている間に再び茶が振舞われた。今度は茶葉にオレンジの皮を干したものを混ぜて淹れ、ハチミツが加えてある。それに一口大の焼き菓子が三つ添えてあった。


 みな、疲れているところを走り回った。労いの意味を込め、ジョゼシラが手配したのだろう。南小ギルド長が戻ると、彼にも同じものが運ばれた。


「では、揃ったところで議事に戻ります」

ジョゼシラが再開を宣言した。


「サリオネルトさまより、自身の監禁と処刑の提案がなされましたが、ミカウサガン校長より、罪のない者を罰すれば歴史に恥を残す、敵を見誤らないようにとの(かん)(げん)がありました」

ジョゼシラがここまでの経緯を(まと)める。


「この辺りでサリオネルトさまの処刑をどうするか、北の魔女の要求通り処刑するのかしないのか、採決してもよいかと思いますが、いかがでしょう」

そう言ってジョゼシラが議場を見渡す。発言する者はいない。


「では、サリオネルト処刑が相当と思われるならば名をお示し下さい」

名乗る者は一人もいない。


「では満場一致でサリオネルト処刑は不相当、北の魔女との開戦やむなし、と決議いたします」


 居並ぶ者が拍手で同意を示す。サリオネルトがほっと息をついたのに気が付いたのは、隣に座るビルセゼルトだけかもしれない。それほど微かだった。


「では次に開戦の日時を決めてまいりましょう」

ジョゼシラが議事を進める。


「それについては早いほうが当方に有利かと愚考いたします」

ビルセゼルトが発言した。

「敵はすでに作戦行動を起こしており、当方は後手に回っております。が、もともと当方には予め組織された部隊があり、これを有効に使わない手はありません」


 時が過ぎるほど敵が勢力を大きくする時間を与えることになる。こちらが人数的に大きく上回っている事を忘れてはいけない、とビルセゼルトは言った。

「期限は六日、しかしそれより早く返答してはいけないという事ではない」


「ビルセゼルトさまのご意見も(もっと)もですが、敵の間者が多く紛れているようなのが気掛かりですわ」

と言ったのはソラテシラだ。


「もちろん、悪意ある者を炙り出す呪文は陣地に仕掛けました。しかし、それだけで防げるとは、ビルセゼルトさまも思っていらっしゃらないはず」

どうやら、たかが魔導士のビルセゼルトが魔女に対して、陣地に拒留術を使えと命令したのが気に入らなかったと見える。


 面倒な、と思いつつ、ビルセゼルトが答える。

「拒留術は単なる威嚇でしかありません。威嚇に屈する程度の敵だけでも追い出せれば、陣地への被害を低減できると思っています」


「低位の者を戦渦に巻き込むのは本意ではないとでも言いたそうですね」

「そう思ってはいけませんか?」


 ここでジョゼシラが発言する。

「お二人ともお待ちください。話が陣地に拒留術を仕掛けることの是非になっています。いまは開戦をいつにするかをお考え下さい」

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