14 矜持(2)
会議を再開すると宣言したものの、さて、どうしたものか?
どちらにしても今日、サリオネルトが示顕王なのか違うのか、これを議事に入れないわけにいかないことは判っている。しかし、その会議の場で『サリオネルトは後七日で示顕王になる』などとセンセーショナルなことを言っていいものか?
さらに悪いことに、北はサリオネルトの息子の引き渡しを、まだ生まれてもいないのに求めている。少なくとも息子が示顕王に関係すると知っているのだ。
「では」
とジョゼシラが口を開いた。
再開すると言ったきり口を閉ざしたビルセゼルトに代わり、会議を進めるつもりなのだ。魔導士ギルドの長同様、魔女ギルドの長には議事進行権がある。
「では、まずは北の魔女の要求を精査してみることにしましょう」
いきなり来たか……余計なことを、と思った。それを言えば、サリオネルトが示顕王かそうじゃないかを議論しなくてはならなくなる。
「まず最初の問題は、『サリオネルトは果たして示顕王なのか』ということです。北の魔女ジャグジニアの要求はサリオネルトが示顕王であるという大前提があってのもの。そこで伺います」
ジョゼシラが言葉を切った。
どうするつもりだ? 下手に口を出せば、事前に口裏を合わせていたと言われかねない。ジョゼシラが会議を進めている間は下手なことを言えないとビルセゼルトは見守ることにしていた。が……
「魔導士ギルドの長ビルセゼルトさま、ギルドの星見魔導士の示顕王についての見解をお教え願いたい」
とジョゼシラがビルセゼルトに発言を求めた。
それを聞いてビルセゼルトは、『なるほど』と妻を見直している。立場を最大限に利用することをジョゼシラは考えたのだ。私見を述べているのではなく、報告の形を取れば異論をはさむ余地はない。
「魔導士ギルド総本拠に所属する星見魔導士の見解はこうなっております」
ビルセゼルトが説明を始める。
示顕王の出現は七日後の夏至の日と見ている。
示顕王の誕生を示す星は二重星、この事から今回出現する示顕王は二人、一人はすでに姿を現してはいるものの、示顕王となっていない。夏至の日にもう一人の示顕王が誕生しない限り、示顕王はこの世に存在しない。
「つまり、こういうことですか?」
とソラテシラが質問する。
「すでに姿を現している示顕王は、夏至の日よりは示顕王たる力を以て我らに君臨すると?」
「伝説によると、示顕王は『総てを顕し示す者』と言われているだけで、君臨するとはありません。また古文書に『来るべき災いを鎮めるために姿を現す』とあります。示顕王が姿を現す目的は、蹂躙ではなく救済と考えるのが妥当と思われます」
学者の威厳を使いビルセゼルトが答える。専門が魔導史の学校長に、ここで異を唱えられる者はいない。
「示顕王が何者であるかは、魔導士学校校長の説明で充分理解できたと思います。が、今は星見魔導士の見解をもとに議事を進めたいと思います」
ジョゼシラが議題を元に戻す。
「星見魔導士の見解は、夏至の日に示顕王が現れる……少なくとも示顕王と呼べるのは夏至の日以降、ということでよろしいですね? 魔導士ギルドの長ビルセゼルトさま、いかがですか?」
「その理解で問題ありません」
ビルセゼルトが答える。
「では、現在、示顕王は存在しない……困りましたね、北の魔女さまの要求をどう処理いたしましょう?」
そう言ったのはソラテシラだ。
「いないものを処刑しろと言われても、どうしたらよいものやら」
「夏至の日以降に処刑を行えばよろしいかと」
この発言は東の小ギルドの長だ。ソラテシラの息がかかっていると思っていい。
「北の魔女は示顕王の出現を恐れているのではないか?」
ここでビルセゼルトが発言する。
「だとしたら夏至の日よりも前の処刑を望むはずだ」
「でも、存在しないものをどうやって処刑するのです?」
「ソラテシラさまは示顕王が処刑に値する存在とお考えか?」
そう尋ねたのは補佐席に座る学校長の一人だ。
「歴史上、災厄を鎮めてきた示顕王を処刑するのが良いとお考えなのですね?」
「あ、そうでした、示顕王は救済のために現れるのでした」
ソラテシラが笑う。
「ならば夏至の日が過ぎて、示顕王が成立しようと、処刑するにあたりませんね」
「では、北の魔女の要求は飲まないと結論しますか?」
とジョゼシラが問う。
「示顕王を処刑する気はないと表明し、宣戦布告を受けますか?」
「いや、結論を出すのはまだ尚早」
そう言ったのは南の小ギルドの長だった。
「北の魔女の要求は示顕王の処刑とあるが、サリオネルトの処刑でもある。北の魔女にとっては、示顕王でなくてもサリオネルトを処刑すればいいとも取れる」
とっくに笑いの発作は治まって、腕を組み瞑目していたサリオネルトがさらに深く腕を組む。
「しかし、サリオネルトを処刑するにしてもなにを罪状に? 示顕王は夏至の日まで現れず、北の魔女さまの言い分は、示顕王だから処刑しろ、のはずでした」
とはソラテシラだ。
「やはり処刑は夏至の日に」
先ほどの東の小ギルド長が提案する。
「そうすれば、万事丸く収まる」
「では、丸く収めるために、これと言って罪もないのに、西の魔女の夫君を処刑することにいたしましょう」
ジョゼシラが静かに言い放った。




