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憧憬のエテルニタス  作者: 寄賀あける
第三部 宣戦布告 苦悩の果て

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13 告発(4)

 そしてホヴァセンシルは、巻き直した紙片をジョゼシラに渡した。


「よくよくご検討いただきたい。返答の期限は四日後でいかがでしょうか?」

「いや、八日待っていただけないか?」

「それは日を置き過ぎでは?」

「では、中を取って六日ではいかがか?」

「六日の間に態勢を整えたいとお思いかもしれませんが無駄と言うもの。我らの狙いが西にあることはお判りいただけたと思ったのですが?」


 そのやり取りを見ながら、やはりジョゼシラには荷が重かったか、と(ほぞ)()んでいるのはビルセゼルトだ。


 それにしてもホヴァセンシルの真意が測れない。フードを目深に被っているから表情を読めないうえに、目を合わせることもできない。送言術を使おうとしても、覗心術を使おうにも、強力にブロックされている。本気でジャグジニアの意向を伝えに来たように見える。さて、どうしたものか……


 校長室のルートに投げこまれた暗号は、攻撃に見せかけたホヴァセンシルからの警告だった。その中に、『魔導士ギルドに間者あり』の一文(いちぶん)があった。


 かなり急いで作り上げたようで、仕事が丁寧なホヴァセンシルとは思えない箇条書きの(つたな)い文章だった。が、暗号の組み立ては綿密で、ビルセゼルトでなければ解読できなかっただろう。


 首謀者はジャグジニア、後ろに何かいる、ギルドに間者、戦争は免れない、ギルドへの造反、危険――


 ひょっとしたら続くものがあったのかもしれないが途中で邪魔が入ったように、プツンとそこで終わっていた。それをホヴァセンシルは強引に校長室に投げこんだらしい。ホヴァセンシルは西に留まり、自分がこちら側の間者になるつもりなのかもしれない。


 そしてジャグジニアの(かたわ)らにいることによって、暴走を止めるチャンスを狙い、ひいてはジャグジニアを守ろうと思っているのだ、とビルセゼルトは受け止めた。


 そして引っかかるのが、今のホヴァセンシルの言葉だ。我らの狙いは西にある……何か含みがありそうだが、思いつかない。


 西の統括魔女マルテミアとその夫サリオネルトをターゲットにしていることは一目瞭然、わざわざそれを、この場に至って口にするだろうか? 


「だが、こちらとて青天の霹靂(へきれき)。内部の意見も多岐に渡ろう。それを調整しろとそちらが言って来ているのだから、時間の猶予が配慮されても(しか)るべきと考える」

予想外にジョゼシラが粘っている。慌ててビルセゼルトが送言する。

(開戦は早いほうが我らに有利)


「よかろう。では六日後までお待ちする。それまでにご返答いただけない場合、こちらの要求をお聞き届けいただけないものと見なし、戦闘行為に突入するものとご承知おきください」


 しまった、と思ったが、もう遅い。ジョゼシラへの指示が遅すぎた。ホヴァセンシルは魔導士の杖でトンと床を叩き、ここでの決定事項と(しる)してしまった。


「では、お待ちしております」

ローブを(ひるがえ)して退出しようとするホヴァセンシルを、警衛魔導士が取り巻いた。このまま帰すものかと思ったのだろう。


「北の魔女さまのご名代に無礼だぞ」

ビルセゼルトの声が響く。

「ルートの入り口まで丁重にご案内するように」


 チラリとホヴァセンシルが自分を見たような気がした。ビルセゼルトはそれに気が付いていないふりをした。


 火のルートが北の魔女の城へのルートを塞ぐまで、沈黙が会議室を包んでいた。充分な時間が過ぎても、誰も口を開かない。


 その中で、『あっ!』とビルセゼルトが動いた。ソラテシラに不動呪文を掛けたのを忘れていたのだ。何を言い出すか判らないあなたの口を封じたのだとは言えない。二次的な目的のみ話し、術を解く。


義母(はは)上、申し訳ないことをいたしました。ホヴァセンシルのあの様子、すでに臨戦態勢かと思われ、義母上に保護術を掛けお守りするため結界を張らせていただいたのですが、義母上が動かれては結界も役に立ちません。浅はかにもつい、動かれる事のないよう不動呪文を使ってしまいました」

そして近づき、丁寧に詫びの姿勢を示す。


「詫びよりも、どういうことか説明を」

完全にお怒りのようだ。笑顔がすっかり消えている。この程度の苦情で終わらせたのは、さすがのソラテシラも事の重大さを(おもんぱか)ったに違いない。


「さて、北の欠席は確定いたしました。会議を始めることといたしましょう」

ビルセゼルトは(ようや)く会議を始める気になったようだ。


「当魔導士学校の校長室に爆撃があったことは周知の事と思われます」

それは北の魔女の居城からの攻撃と、すぐに断定できた。即座に調査魔導士に指示を出し、北の魔女の陣地の様子を探らせて報告を受けている。


 先ほどのホヴァセンシルの話にあったように、北の陣地にある魔導士ギルドの出先機関、北の小ギルドはジャグジニアの手勢で既に占拠され、ジャグジニアに従わない者は拘束されていた。また、従った者も、戦火からの保護という名目で家族を北の魔女の居城に幽閉されている。


 この行動は本日の日の出とともに起こされており、指揮を取っていたのはホヴァセンシルで間違いない。ホヴァセンシルは圧倒的な力で、抵抗する魔導士数名を一瞬で制圧し、配下に拘束させている。攻守ともに一人たりとも怪我人を出すことなく、北小ギルドの対抗勢力を居城の地下牢に閉じ込めることに成功していた。

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