13 告発(3)
再び魔導士学校の伝令が姿を現す。
「そうか、学校のルートは全て塞げたか。ではギルドのルート番に、生徒の親元から開通の打診があった場合、書状を通すルートだけ開くよう指示を。書状に何かしらの攻撃術が仕掛けてあれば燃焼する仕掛けを忘れず掛けるように。親元には、書状のあて先は全て学校長にと」
頷いて伝令は部屋を出て行った。
それを見送ってソラテシラが苦情を言う。
「会議はいつ始まるのでしょう?」
「まだ揃っておりません。何かしらの事情で遅れているのだと思われます」
ビルセゼルトが澄まして言う。
そこへ調査魔導士が入室し、ビルセゼルトに一葉の紙片を渡した。おもむろに目を通すと、ビルセゼルトは紙片を空宙に消した。一瞬炎が見えたところを見ると焼失させたようだ。
「調査魔導士はなんと?」
ソラテシラが尋ねる。
「揃ってからお話ししましょう」
とビルセゼルトは素っ気ない。
「なにを調査なさったのかくらい、教えてくださっても良さそうなものだけど」
これはソラテシラの愚痴だ。
サリオネルトは腕を組み、瞑目している。時おり『遅いな』と送言してくる。ビルセゼルトも『遅いな』と送り返す。
ジョゼシラは母親を言い負かしてからは、いつになく温和しく、黙って宙を見据えているが、やはり時おりビルセゼルトに視線を投げる。それをビルセゼルトに無視されても、面白くない顔をするだけだ。
不意にルートのある隣室に騒めきが起きた。お待ちください、声高にそう言っている気配が伝わってくる。ビルセゼルトとサリオネルトが立ち上がった。
幾分乱暴に開かれたドアから一人の男が入ってくる。それを追うようにルート番が叫ぶ。
「北の魔女さまのご名代、ホヴァセンシルさまがお見えになりました!」
ホヴァセンシルは部屋が見渡せる場所まで来ると歩みを止め、一人一人に目を止めて顔を確認したようだ。ローブは正装、しかもフードのついた戦闘用の仕様、そして手には自分の背と同じ高さの杖を持っている。魔導士の杖だ。填め込んだ宝玉が、神秘力を強めてくれる。
先端に填め込んだ宝玉はトパーズ・ルビー・サファイヤ・エメラルドで、中でも稲妻を表すトパーズは大きく、煌々と輝き、光の矢を放っている。ルビーは火を、サファイヤは水を、エメラルドは大地をそれぞれ表し、どれもホヴァセンシルが得物としているものだ。
目深にフードを被り、ホヴァセンシルの表情は見えない。だが、明らかに戦闘態勢だ。
呆気に取られていた補佐席の五人が立ち上がり攻撃体勢を取る。ビルセゼルトがそれを抑え、着席するよう促す。
「我は魔導士ホヴァセンシル。北の魔女ジャグジニアの名代としてきた。相応の処遇を求む」
聞こえる声は間違いなくホヴァセンシルのものだ。
「北の魔女ジャグジニアは西の魔女マルテミアをギルドの盟約を破るものとして告発し、統括魔女の地位をマルテミアから剥奪することをギルドに要求する。ついては魔女ギルドの長と話がしたい」
「わたしが魔女ギルドの長、南の魔女ジョゼシラだ。話しを伺おう」
ジョゼシラが立ち上がる。咄嗟にビルセゼルトはソラテシラに不動呪文を仕掛け、さらに保護結界を張った。
そこへサリオネルトから送言されてくる。
(ホビスは北の悪魔に取り込まれたかな?)
(判らない。が、少なくともニアの脱出に失敗したのだろう)
ホヴァセンシルの登場で、ジョゼシラはビルセゼルトに『何の茶番だ?』と送言してきていたが、ビルセゼルトは『判らない、聞いていない』と返している。『おまえがなんとかしろ』と最後にはジョゼシラに任せた。余計な情報が入るより、そのほうがいい。
「では聞いていただこう」
ホヴァセンシルは懐から巻紙を取り出し広げ、読み始める。北の魔女ジャグジニアの言い分だ。
西の魔女マルテミアは西の魔女と定められる際、ギルドの意に反し、サリオネルトを夫と出来ない限り、西の魔女への就任を拒否するとした。これはギルドの命令には絶対服従の原則に反している。
さらにその夫サリオネルトは災いを招く示顕王であり、統括魔女の夫の資格がないことは明白、そもそもその力の発現を見る前に討伐すべき対象である。
北の魔女ジャグジニアは統括魔女の権限を持って魔女ギルド及び魔導士ギルドに以下を要求する。
一つ、示顕王サリオネルトの処刑。
一つ、示顕王サリオネルトの生まれてくるであろう子の引き渡し。引き渡された後の処遇は当方に一任する事。
一つ、前述の二つを西の魔女マルテミアが従順に応じれば、マルテミアについては不問とするが、抵抗するようであれば統括魔女としての地位を剥奪し、力を取り上げて監禁する事。
一つ、以上を魔女ギルド、もしくは魔導士ギルドが拒絶した場合、当該ギルド、もしくは両ギルドに宣戦布告し、まずは西の魔女の陣地を襲撃するものなり。西の陣地を占領したのちは新たに選定した西の統括魔女を置くが、その決定権は我が方にあるとする。
以上が告発状の内容で、ホヴァセンシルは読み終えた紙を巻きながら続けた。
「ちなみに、我が北の陣地に属する魔導士小ギルドはすでに我が傘下にあり、未所属の魔女、魔導士も我が呼びかけに呼応する者、多数なり。また、宣戦布告がなされた後も、我が方に与する者に対しては、その生命は言うに及ばず、身分、財産を保障する。ギルドは己が失策を恥じるが良かろう」




