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憧憬のエテルニタス  作者: 寄賀あける
第二部 疑惑 それぞれの思惑

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10 打ち明けられた苦悩(5)

「体調も回復してるんだから、たまにはギルドに顔を出したらどうだとでも言って、ニアをなんとしてでも魔導士ギルドに連れてくる。そのあと、北の魔女の居城を襲撃して、ドウカルネスを拘束するなり、悪魔とやらを捕らえるなりしてくれ」

そう言ったホヴァセンシルは少し怒っているようだ。


「ただ、少し時間が欲しい。ニアの精神は不安定だ。タイミングを外せば巧くいかない」

いつ魔導士ギルドに行くか決まったら連絡すると言って、ホヴァセンシルは帰って行った。


「ホビスのヤツ、気が付いていたな」

ビルセゼルトがぽつりと言った。

「俺たちの言い争いが芝居だと、判っていたな」

サリオネルトがチラリとビルセゼルトを見る。


「後悔するなら、初めからしないことだ」

「後悔しているわけじゃない。悪魔と口にした時に、覚悟はついている」

そう言いながら、とっくに空になったグラスにワインを注ぎ足す。


「いるか?」

頷いたサリオネルトのグラスも満たされていく。それを一気にサリオネルトが煽った。そして

「もう一杯貰おうか」

と言う。


「後悔はしないが、後味が悪いことには違いない」

ビルセゼルトは弟のグラスをもう一度満たした。


「おまえ、大丈夫なのか? 確か酒には弱かったと思うが」

「そうだね、でも今日はいくら飲んでも酔わない気がする」


「ホヴァセンシルはニアの連れだしに成功するだろうか?」

「成功させるしかないよね……ニアに会いたいと、マリに手紙を書かせるよ。少しはホビスの手助けになるかも知れない」


「ギルドで会いたいと? ドウカルネスを同行させなくていいのだから、効果があるかも知れないな」

「まぁ、わたしとて後味の悪さを感じていないわけではない。こちらの都合のいい情報だけ明かして、わたしが()(げん)王だという事を隠したままだ」

そう言ってサリオネルトはグラスを空けた。


 それで、おまえの用事はなんだったんだ? と、ビルセゼルトがサリオネルトに尋ねる。


「あぁ、ホビスの話に気を取られて、うっかり忘れるところだった」

いやね、とても気掛かりなんだが、わたしには手出しできないんだ、とサリオネルトが話し始める。


「母さんがマリに手紙を寄越した……わたしをなんだけどね、『自分が産んだサリオネルトとは別人だ』って思い込んでる。里親が入れ替えたんじゃないかと疑っているらしいよ」

「なんだ、それは?」

ビルセゼルトが目を丸くする。


「まったく、次から次へと、どうしてこう困り事ばかり起こるんだ?」

「で、父さんもそうだと言っていると続いていた」


「なにを錯乱しているんだろう」

ビルセゼルトがため息を吐く。

「父さんまで可怪(おか)しくなっているとは考えにくい。サリオネルトを自分の子ではないと、何かの拍子に思いこみ、それで父さんもそう思っていると勝手に信じているってとこだな」


「わたしとしては、なぜそう思いたかったのかを知りたいところだけど、まぁ、いいや」

それよりも、父さんと連絡を取って母さんを癒術魔導士に診せるよう言ってくれないか?


「連絡するよ。放っては置けない」

そう言いながらビルセゼルトが弟の顔を覗き込む。

「おまえは間違いなく俺の弟だ。こんな事を気に病むなよ」

判っているよと、サリオネルトが微笑む。


 判っていても、感情はそうはいかないのだろうなと思ったが、それを口にするビルセゼルトではなかった。言えばさらにサリオネルトを傷付けるだろう。帰ったらまたマリに慰めて貰うさ、と冗談を言い、笑ってサリオネルトは帰って行った。


 それを見送って、再びビルセゼルトは椅子に座ると、大きなため息をついた。


 昔聞いた、母の言葉を思い出す。ある夜の事だった。言い争う声に目覚め、どうしたのだろうと耳を澄ました。


『サリオネルトは普通じゃないの』

あの子は恐ろしい。生まれてすぐに言葉を発した。なんでわたしがあんな子を産まなくてはならなかったの? そう父に迫り、父のせいだと母が詰め寄っている。


 ビリーだけでよかったのに、なんで双子なの? そもそもあんな化け物を、わたしが産む羽目になったのは全部あなたのせい……そう言って母は泣きじゃくっていた。


 父は『自分の子をそんなふうに言うもんじゃない』と(たしな)めていたがやがて、『いい加減にしろ』と怒鳴り、母を突き放した。


『サリーはおまえが産んだ子じゃないか。俺とおまえの子に違いないんだぞ』

父の言葉に救われた思いがした。


 だがその父も、スナファルデにサリーの命乞いをすることはなかった。


 スナファルデの企みで昏倒薬を盛られた時、魔導士ギルドに運ばれるまでは途切れ途切れに話し声が聞こえた。両親が『ビリーだけは返して欲しい』と懇願する。するとスナファルデが『サリーは要らないと?』と笑い、父が『サリーの事はとっくに諦めている』と言った。


 あの時、サリーは同じように聞こえていたんだろうか? 聞こえていたら、残酷過ぎる。ビルセゼルトは目頭を押さえた。


 俺はおまえの分も両親から愛情を受けて育った。おまえを守ることをしなかった両親の分も、俺はおまえを守りたい。


 ふぅ、と息を吐き、立ち上がる。


 弟のために妻を南の魔女に据えた事を思い出す。必ずジョゼの協力を得ると決意して、妻が待つ自室へと帰って行った。

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