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憧憬のエテルニタス  作者: 寄賀あける
第二部 疑惑 それぞれの思惑

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10 打ち明けられた苦悩(4)

 するとすぐに行動を起こさなくてはならないことは一つだな、とビルセゼルトが言った。

「ドウカルネスをニアから遠ざける。できれば捕らえ、魔導士ギルドに引き渡す」


「現時点では、ドウカルネスが罪人だとは断定できないけれど、事情を聴くためギルドに呼び出すことは可能なはずだよね」

と、これはサリオネルトだ。

「ゾヒルデナスの死の真相を聞きたいと言えば、ドウカルネスは応じないわけには行かないんじゃないかな」


「素直に応じるとは思えないが?」

顔を(しか)めるのはホヴァセンシル、そんなに簡単じゃないと思っている。

「目的を持って北の城に来ているんだ。ギルドから逃れるためというのも目的の一つだと俺は見る。それにドウカルネスが拒めば、ジャグジニアが(かば)うのが目に見えている」


「さすがに北の魔女の居城にはギルドも踏み込めない」

ビルセゼルトがため息を吐く。

「ホビス、おまえ、どうにかドウカルネスを城の外に連れ出せないか?」


 ホヴァセンシルが腕を組み、目を閉じる。それをビルセゼルトとサリオネルトが見つめる。


「ニアも一緒なら可能かもしれない」

ホヴァセンシルがやっと口を開く。本当は言いたくないと表情が言っている。


「ニアに、マリに会いに行こうと持ち掛ける。今ならマリの体調も安定しているが、出産後となると赤子の世話やなんやらで落ち着かないだろうから、と」

『マリに会いたい』と零すことがあるニアだ。だからきっと話に乗ってくる。


 ホヴァセンシルの提案にサリオネルトの顔が曇る。が、黙っている。その様子を(うかが)いながらビルセゼルトが、それで? とホヴァセンシルに先を促す。


「それにドウカルネスを同行させる。北の魔女の居城と西の魔女の居城の火のルートを開通させ、西のルートを出たところで拘束する」

「反対だ」

すかさずサリオネルトが言った。


「危険すぎる。火のルートを開くという事は一続きの空間になることを意味する。結界が無効という事だ」

「もちろん、西の出口はサリオネルトを始め、力の強い魔女・魔導士が守りを固め、その後ろに強力な結界を……」


「だめだ」

ホヴァセンシルの発言が終わるのを待たずにビルセゼルトが却下する。

「北の魔女の城に潜むものが何かが、まだ判っていない。つまりはどれほどの力を持っているか予測が付かない」

一瞬の隙をついて、西の魔女の城にまで影響を及ぼさない保証はない。


「だからもし、ニアとマリを面会させるなら、魔導士ギルドにしろ。ギルドの本拠なら、守護力の高い魔導士が揃っている。なんだったら、強力な攻撃術を使える者を集めておくこともできる。最悪、放棄して新たに本拠を築くことも不可能じゃない」


 その場合、と言ったのはサリオネルトだ。

「一見よさそうに見えるが、その場合、ドウカルネスが同行を拒むだろうね」

罠だと見え見えだ。

「のこのこギルドに来るもンか」


「詰んだな……」

苦笑いとともにビルセゼルトが頭を抱える。

「西の魔女の城にドウカルネスをおびき寄せるのはハイリスクで、魔導士ギルドに来させることもできない。かといって北の魔女の城にギルドが押し入るわけにもいかない」


「ギルドが押し入れないのなら」

サリオネルトが言った。

「わたしとビルセゼルトの二人ならどうだい?」


 ビルセゼルトが苦笑とともに答える。

「それにホヴァセンシルを加えた三人でドウカルネスを抑えると?」

「敵陣に乗り込むのは本意ではないが、畏れているばかりでは(らち)が明かない」

「サリー、北の城にいる敵はドウカルネスだけじゃないんだぞ。もし正体不明の敵が『悪魔』だとしたら、三人で対処できるかどうか」


「えっ?」

ビルセゼルトの失言を、ホヴァセンシルは聞き逃さない。

「悪魔? 悪魔ってなんだ?」


 ホヴァセンシルの問いに、ビルセゼルトとサリオネルトが目を見交わす。『実は』と説明したのはサリオネルト、ホヴァセンシルの顔が見る見る青ざめる。


「北に悪魔が潜んでいると、そう星見が言った?」

「うん。だが、北が方向を指すか、北の魔女を指すか……」


「北の魔女の居城だ!」

サリオネルトを遮ってホヴァセンシルが断言する。

「今、ここで話したことを包括すれば、そう答えが出る」


 サリオネルトが腕を組み、そっぽを向いた。ビルセゼルトもやはり腕を組み、目を閉じた。ホヴァセンシルが北の魔女の居城に何かが潜んでいると言い出した時から二人とも、潜んでいるのは『悪魔』だと考えていた。


 だがそれを今、ホヴァセンシルに伝えることは得策だろうか? ドウカルネスの事だけで、ホヴァセンシルは飛び出していくほど取り乱した。しかし、知られてしまったとなれば善後策を練るほかない。


「悪魔が動き出すのは、夏至の日だと星見が言っている」

サリオネルトが静かに言った。

「それまでにドウカルネスを捕らえ、ニアを北の魔女の居城から連れ出せないかな」


「ふむ……」

ビルセゼルトが唸る。

「その上で北の魔女の居城を取り囲み『悪魔』を排除する、か。城が使い物にならなくなった時は、また作ればいい」


「それをニアが納得するとでも? 居城を守るのは統括魔女のプライドを守ることと同じだぞ」

抗議するホヴァセンシルにビルセゼルトが言い放つ。

「納得させろ」

強い口調だ。

「それが統括魔女の夫の仕事だ」


「よせよ、ビリー」

(とり)()すのはサリオネルトだ。

「そんな事はホビスだって判っているんだ。けどね、ニアの気持ちを考えると、そう簡単にはいかないよ」


「相変わらず甘いな。相手が騙すなら騙されてやれっていつか言ってたけど、騙されたままで放置できる問題じゃない」

「何を言い出すかと思えば……だけどビリー、ジョゼの力は強すぎるからギルドから追放しろ言われたら、おまえだってできないだろう?」

「いや、できるさ。あいつの力を取り上げて、隠遁(いんとん)したってかまわない」

「そりゃあいいや。ジョゼを言いなりにするのはお手の物だものね。わたしなら無理だ。妻を守らないでどうする?」

「あぁ、おまえはおまえの天使を守っていればいい。俺はこれでもギルド長だ。全魔女・全魔導士の利益を優先する」


「よせ、二人とも!」

叫んだのはホヴァセンシルだった。

「ニアを必ず城から連れ出す。それがあいつを守ることにもなる――あいつは俺の妻だ」

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