表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憧憬のエテルニタス  作者: 寄賀あける
第二部 疑惑 それぞれの思惑

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/115

10 打ち明けられた苦悩(3)

「が、結婚の誓いの相手には魔女の誘いは無効だから、とりあえず我々は安全だ」

ビルセゼルトがニヤリとする。


「それで、肝心の解術方法は?」

ホヴァセンシルが忘れていないぞ、とばかり詰め寄る。

「うん、それがね」

言いずらそうにビルセゼルトが答える。


「施術した魔女が術を説くか死ぬ、あるいは身の危険を本人が感じて対抗処置を取れば解ける、らしい」


「ってことは、ドウカルネスを説得して術を解かせるか、いっそ殺してしまうか、あるいは、ニアが『ドウカルネスは危険だ』って認識しない限り術は解けないってことか」

とサリオネルトが言う。

「殺すのも、本人に術を解かせるのも現実的じゃない……さらに悪いことに、言葉で言ったってニアはドウカルネスを危険だなんて思わないだろうね。ドウカルネスに襲われでもしない限り無理なんじゃないのかな? ニアの安全を守りつつ、そんな状況を作るにはどうしたらいいかを考えろ、ってことだね」


「そんなに軽く言うなよ」

青ざめたホヴァセンシルがサリオネルトに苦情を言う。


 そんなホヴァセンシルの肩に手を置きサリオネルトが送言する。

「大丈夫、きっとなんとかする。わたしもビリーもいる。ホビスは一人ではない」

ホヴァセンシルはサリオネルトの顔を見上げた。が、また俯いてしまう。


 そんな二人の様子を見るともなく見ていたビルセゼルトが、トン(・・)と壁を叩いた。すると壁が真っ白なボードに変わった。


「少し問題点を整理しよう」

何か見えてくるかもしれない。それに雑多な情報に惑わされていないか、検証しておく必要もある。お道化(おどけ)たサリオネルトが、『校長先生の特別講座だね』と笑ったが、ビルセゼルトに(たしな)められて笑いを引っ込めた。


「まず、北の魔女の城に、前北の魔女ゾヒルデナスから魔女の力を移譲されたドウカルネスがいるという事」

ドウカルネスがゾヒルデナスの世話をし、力の移譲を受けていることは魔導士ギルドが調べて間違いないと報告が来ている。魔女は他人の名を騙れないし、魔女名は魔導士名と同様、他人と同じ名を使えない。だから同名の別人はあり得ない。


 白いボードに

『ドウカルネスは前北の魔女ゾヒルデナスの縁者。そしてゾヒルデナスから力の移譲を受け、今は北の魔女の城にいる』

と赤い文字で書かれる。


「そしてニアに魔女の誘いを使って成功させている」

ニアは俺を見なかった。語る言葉は、今思えば感情がなかった。それにドウカルネスがニアを代弁した。と、ホヴァセンシルが言えば、

「ならば間違いない」

ビルセゼルトが請け合う。


 するとボードに

『ドウカルネスはニアに対して〝魔女の誘い〟の施術に成功している』

と書き込まれた。


「北の魔女の城には何かが隠されている」

ホヴァセンシルでも見つけられないのなら、前北の魔女ゾヒルデナスが隠したのだろうとサリオネルトが言った。


「ただ、ゾヒルデナスが死亡してからも術は継続されている。誰か協力者がいるってことだと思うよ」

「入城した日から感じているのだから、そう思うのが妥当だ。協力者はドウカルネスだろうね。力の移譲の際に術の継続も移譲したんだろう」

ビルセゼルトも同意する。


 ボードに

『北の魔女の城にゾヒルデナスが何かを隠した。そして協力者ドウカルネスが術を継続させている』

と更に書き込まれる。


「そして姿を(くら)ませているスナファルデとゾヒルデナスはかつて恋仲だった」

だからと言って隠されているのがスナファルデと決めつけるのは短絡過ぎだと、ビルセゼルトが言う。それに対して、では他に何か隠したいものがあるかな? とサリオネルトが問う。


 が、ビルセゼルトが言うのももっともだと思ったのだろう、

「これについてはまだ結論が出せないね」

サリオネルトが譲歩すると、ボードには青い文字で

『ゾヒルデナスが隠したのはスナファルデかもしれない』

書かれた。


「ねぇ、ニアは本当に違和感に気が付いていないの?」

聞きにくい事をさらりと言うのはサリオネルトだ。


「北の魔女ともあろう者が、自分の城に隠されているものに気が付かないのは不自然だよ」

それを言うか、と渋い顔をしたビルセゼルトだったが

「あ、ゾヒルデナスの仕業とか?」

と思いついた事を言う。


「ゾヒルデナスがニアに非認知術を使ったとか?」

ビルセゼルトを受けてサリオネルトがそう言うと

「違うと思う」

ホヴァセンシルが言った。

「よく考えてみたんだ。とくに入城してすぐのころ、まだニアがきちんと義務を果たしていたころの事」


 朝の巡回から帰って来たときのジャグジニアは、いつも不機嫌だった。慣れない仕事で疲れたのだろうと、その時は思っていた。

「何かあったのかと訊いても、疲れたとしかニアは答えなかった。もっと問い詰めておくべきだった」


 それじゃあなにか、とビルセゼルトがホヴァセンシルに向き合う。

「ジャグジニアは最初から、自分の城に隠された何かを知っていると、ホビスは思っているのか?」


「今、二人と一緒にいろいろ整理していて、思ったんだけど、もし、ゾヒルデナスから、『あなたにだけ教える、あなたを見込んでお願いしたい』と言われたらニアはどうするだろう? きっと俺にも打ち明けずゾヒルデナスの依頼を受ける。北の魔女としての自信を持てずにいたニアなら必ず受ける」


「いや、ちょっと待って」

と言ったのはサリオネルトだ。

「もしそうだとしたら、ドウカルネスにはわざわざ魔女の誘いを使ってまでニアを(ろう)(らく)する必要がなくなるよ」


「なるほど、ゾヒルデナスを通じて繋がっていることになるからな」

とビルセゼルトが言えば、

「でも、もしドウカルネスにはニアも知らない目的があったら?」

ホヴァセンシルが考え込む。


 これも今ははっきりしない……ボードに青い文字で『ニアが隠された何かを知っているかは不明』と書きこまれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ