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憧憬のエテルニタス  作者: 寄賀あける
第二部 疑惑 それぞれの思惑

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10 打ち明けられた苦悩(2)

「それじゃあ、ホビスが言う違和感はスナファルデが絡んでいると?」

サリオネルトの疑問に

「そうとは言い切れないが、可能性は高いだろうな」

ビルセゼルトが答える。

「ゾヒルデナスさまに確認したいところだが先ほど、二日前に亡くなられたと知らせがあったばかりだ」


「亡くなられた?」

ホヴァセンシルとサリオネルトが同時にビルセゼルトの顔を見る。


「詳しくはまだ判らない。あれほどの魔女が命を落とせば、高位の魔女・魔導士には瞬時に波動が伝わるものだが、それがなかった。二日ほど前から応答がなく、不審に思ってギルドから魔導士を向かわせて、判明した」

縁者の魔女が世話をしていたがその姿がなく、今探している。


「波動が伝わらなかったのは外に漏れないよう、強力な結界が張られていたからだと考えられている。行方不明の魔女の仕業だろう。それに加え、ゾヒルデナスの魔力は極端に衰えていた」

「まさか、その魔女がゾヒルデナスさまを殺めた?」


「それはない。死因は老衰らしい。だが、視点を変えれば殺されたとも言える。急激な老衰の原因は魔女の力を誰かに移譲したことによる。ん-、殺されたって言うより自死だな」

力の移譲は本人の意思によってのみ行える。世話をしていた魔女が力の移譲を受けたのならば、殺人ではなく自殺幇助だ。


 力を移譲された魔女が姿を消しているというのが気に()らないな、とサリオネルトが呟く。

「どこに潜めるというのだろう? すでに結界で守られているところにでも潜り込んだか?」


 その言葉にホヴァセンシルがはっとする。

「その魔女の名はドウカルネスでは?」

「どうしてその名を?」


 ビルセゼルトが答え終わらないうちにホヴァセンシルが立ち上がり、

「北の魔女の城にいる!」

と叫んだ。


「ニアが危ない、()ぐ帰る!」

「待て!」

ビルセゼルトがホヴァセンシルを制そうとする。


 聞く耳を持たず、ビルセゼルトを振り払おうとするホヴァセンシルにサリオネルトがそっと触れた。途端にホヴァセンシルは椅子に崩れるように座りこみ、動かなくなった。


「おい……」

ビルセゼルトが弟を非難する。

「緩い拘束術だよ。苦しまないはずだ。ただ動けないし話せない」

そして動けないホヴァセンシルの首に腕を回し、その耳元で静かに諭す。


「なんの策もなく動いてはいけない。それは余計にニアを危険に曝すことになる」

「だからと言って、どう動く?」

ビルセゼルトがホヴァセンシルに代わって問う。


 ふん、面白いヤツだ……サリオネルトが心内で思う。自分だってホヴァセンシルを止めたかったくせに。


「それはドウカルネスが城にどんな形で潜入しているかを聞いてからだな」

サリオネルトがホヴァセンシルの顔を覗き込む。するとホヴァセンシルが眼差しで頷いた。


 サリオネルトがにっこり微笑むと、拘束が解けたホヴァセンシルが両腕を叩く。

「ニアの世話係をしている。しかもニアは今日、寝室にドウカルネスを入れてしまった」

ホヴァセンシルがドレスルームの様子と、寝室に予備室を作ったこと、それに掛けた記録術を読んだら、ドウカルネスが寝室に入ってきたこと、ドレスルーム、バスルームにも入ったことを話す。


「そりゃあ、慌てて帰りたくなるよね」

呆れてサリオネルトがため息を吐く。


「なんでニアはそんなに無防備なんだ?」

「俺のせいだ」

とホヴァセンシルが俯く。


「初めから北の魔女の城に何かあると感じていたのに、城を出て街に帰った。それがニアを苦しめて、こんな結果を招いた」

ジャグジニアが流産したときのことをホヴァセンシルが語る。


 孤独とは厄介なものだ。ホヴァセンシルの話を聞きながらビルセゼルトは思う。サリオネルトは孤独に囚われ、マルテミアに救いを求めた。ジャグジニアは孤独からホヴァセンシルを見失っている。


「ニアの心の弱さと隙間にドウカルネスが付け込んだ、という事だね」

サリオネルトが誰に言うともなく言った。

「しかも寝室に入れるほど信用してしまった」


「うーーん……」

ビルセゼルトが唸る。

「だが、今日初めて会った相手だ。いくら気に入った、と言ってもちょっと極端過ぎやしないか?」


「あ……なぁ、魔女の誘いを魔女にしたらどうなる?」

ホヴァセンシルが不思議なことを言い出す。通常、魔女の誘いは魔女が男をベッドに引き込みたい時に使う。


「ドウカルネスが話すたびに魔女の誘いを感じた。同じことを魔女にしたらどうなるんだろう?」

「色っぽい魔女なのか?」


 笑ってそう言いながら、ビルセゼルトが本棚に手を伸ばす。魔導士学校の蔵書全てに繋がる本棚は、願う本を選んで出してくれる。


「魔女の誘い……っと」

ページをめくる手が止まる。そして舌打ちをする。

「性欲を伴わないが効果は同じ、とあるね」


「つまりニアはその魔女に夢中なんだね」

サリオネルトがため息を吐く。

「術を解かない限り、ニアはドウカルネスの言いなりだな」


 ビルセゼルトがさらに本のページをめくる。何ページか読み進んでいったが

「魔女の誘いの解術方法……」

それだけ言って本をぱたりと閉じた。


「解術法は?」

サリオネルトとホヴァセンシルが声を揃えて問う。するとビルセゼルトが腕を組んでこう言った。


「魔女の誘いに乗った男は魔女の言いなりとなり、生命力を吸い取られてやがて死ぬと言われているが、それは市井の男の場合だ。魔導士なら大抵保護術を施しているから、術に落ちてもそこまで酷いことにはならない」


 せいぜい二度も応じれば目が覚める。営みにより命を吸い取られていることに気がつくからだ。命の危険を感じれば保護術が発動して目が覚める、という事だ。


「特定の男に狙いを定めた魔女の邪魔をしてはいけない、これは魔導士ギルドの誓約にあることだ」

魔女が力を強めるために男を欲することはよくあること、それを咎めることはできない。


 また、魔女ギルドの誓約には、力を強めるために男を殺すべからず、とある。

「平たく言えば、取っ替え引っ替えするか、気に入った男は大事に使え、ってことらしい」

しばらく三人は黙り込む。


「やっぱり魔女は怖いな」

ホヴァセンシルがしみじみ言うと、あとの二人も大きく頷いた。

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