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憧憬のエテルニタス  作者: 寄賀あける
第二部 疑惑 それぞれの思惑

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8  強まった疑惑(2)

 ふぅ、とビルセゼルトがため息をついた。

「それじゃ、とりあえず、サリーがあと一年で死ぬってことはなさそうだね」

と、薄く笑った。

「それだけでも収穫だ」


「一番頭が痛いのは、全てが夏至の日を示すってところだ」

「まったく、今年は夏至の日はありません、ってならないものかね」

「いいね、それ。でも、夏至の日がなくなるのは、わたしとしては困るな」

笑うサリオネルトに、ビルセゼルトが(あき)れる。


「こんな状況でもサリーは呑気(のんき)なんだな」

「呑気なもんか。夏至の日にはマルテミアの出産があるんだよ」

あっ、とビルセゼルトがサリオネルトの顔を見つめる。


「それで、提案だ」

いざというとき、マルテミアを(かくま)う場所が欲しい。

「ジョゼシラを南の魔女にできないか、夏至の日が来る前に」


「南に匿うか? 確かにあの城の守りはどこよりも堅い」

「だが、南の魔女ソラテシラさまにも現役でいていただきたい」

東の魔女デリアカルネに引退していただく。そこにソラテシラを移せないか?


「うーーん、さすがに即答はできない。俺の一存で決められる話じゃない」

「判っている。ソラテシラさまとジョゼシラさまに相談して欲しい。デリアカルネさまとは打ち合わせ済みだ」


「デリアカルネさまと? いつからそんな懇意に?」

「マルテミアの懐妊を公にして(しばら)くしたら、あちらから連絡があった」


 さすがは稀代の星見、我が城の星見がやっと最近になって読み取ったことを、三余年前には読み取られておいでだった。


「サリーは()(げん)王じゃないって、言いきったのはデリアカルネさまだったんじゃなかったか?」

「あの頃、スナファルデの件とかあって、示顕王の存在を隠す必要を感じたそうだよ。しかも示顕王が二人だなんて、人心を惑わせかねない」


 だが災厄が近づく今、示顕王を隠すことより備えを固めるのが先と、考えが変わったとデリアカルネが言った。


「デリアカルネさまでも、どんな災厄が起きるか読みあぐねている」

それほど強敵だという事だ。正体が見えない敵ほど強敵に違いない。


 だが、見えもしないものを恐れても仕方ない。何度も言うが、今できる備えをすることが肝心だ。

「と言うわけで、ビリー、ギルド長を引き受けろ」

「受けろ、ときたよ、命令だ」


 断れないとビルセゼルトも判っている。

「ギルド長になれば強権を発動できる。権力は握れるうちに握っておこう」

開き直ったとも言える。


 示顕王は災厄を鎮めるために生まれてくると、サリオネルトは言った。それがどれほどの重圧か、しかもまだ生まれてもいない息子まで同じ運命だという。そんなサリオネルトと比べれば、たかが校長とギルド長の兼任など大したことではないと思えてくる。


「ねぇ、ビリー」

不意に改まった声でサリオネルトがビルセゼルトに言った。

「ビリーがいてくれて良かった」


「なんだ、いきなり。サリーらしくもない」

「いや、ビリーは何度もわたしを助けてくれた。もちろんスナファルデのこともあるけれど、居てくれるだけでわたしは救われていた」


「それはこちらも同じだ。サリーのお陰でいつも気持ちが軽くなる」

ビルセゼルトの言葉にサリオネルトが微笑みを返す。それがビルセゼルトをふと不安にさせる。


「なぁ、サリー。おまえ、まだ何か隠していないか?」

ん? とサリオネルトが首を(かし)げる。


「そうだな、隠し事と言えば、里親の家にいたときに仕出かした悪さとか? ビリーには言うな、って母さんに言われている」

「何をしでかしたんだよ?」


 何も知らないビルセゼルトは、どうせ大したことじゃないだろうと、呆れ顔を見せる。

「だから、内緒だって」

サリオネルトも笑うばかりで答えない。


「そう言えば、向こうの親とは連絡を取っているのか?」

「ん……学生の頃はママが良く手紙を寄越したね」


 会いたいが会いには行けない、この街に来てもいけない。

「西の魔女と結婚が決まったときに寄越した手紙が最後だ。親でも子でもない、と書かれていたよ」


 それは嘘だとビルセゼルトは思った。そう書かれていたとしても、本意はそこにない。それをサリオネルトも判っているはずだ。


「わたしは多くの人に支えられ、助けられてきた。そしてまた、多くの人を傷付けもした」

「何を今さら、そんな当たり前のことを言ってどうした?」

ビルセゼルトが笑う。

「誰だってそうだ。そうやってみんな生きている」


 自分から目を逸らしたサリオネルトをビルセゼルトが覗きこむ。いつも優雅な笑みを浮かべるサリオネルトが唇を噛みしめている。


「おい、どうしたっていうんだ?」

「わたしは……自分が示顕王だと知ったとき、今までの報いがきた、と思った」


 両親を恨み、里親を恨み、自分だけが孤独に追いやられていると思っていた。どちらもわたしを思ってのことだったのに、それを恨んだ。


「悪魔は人の怨みや憎しみを喰らうという。わたしが生み出してしまったんじゃないか、そう思えて仕方ない。だからわたし自身が鎮めなければならなくなった。違うだろうか?」

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