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憧憬のエテルニタス  作者: 寄賀あける
第二部 疑惑 それぞれの思惑

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8  強まった疑惑(1)

 ホヴァセンシルが住居を北の魔女の居城に戻して程なく、東の魔女の引退がギルドから発表された。それに伴い、南の魔女が東に移り、(かね)てより次の南の魔女と指名されていたジョゼシラが南の魔女となると決定された。極めて異例のことであった。


 通常ならば魔女から引退の意向を受けたギルドが継承魔女の選別を行うが、今回はそれがない。しかも統括魔女が受け持つ陣地を変えるなど、今まで一度もなかったことだ。


 もちろん、東の魔女の引退の意向を受けての会議は持たれた。そこでビルセゼルトの提案がほぼ採用されて、今回の処置となる。


 新たな東の魔女を選ぼうにも、適任を思いつくか? 少なくとも当魔導士学校の学生の中にはいない。魔導士界最大の魔導士学校の校長ビルセゼルトがそう断言したのだ、他の魔導士学校の校長も遠慮なく『いない』と言えた。


 そこでジョゼシラを東の魔女にするのが良策とビルセゼルトが提案したが、南の魔女が『自分が東に行く』と言い出した。


「南の陣地はそろそろ飽きたので」

と、にこやかに言われ、誰も反対できなかったこともある。が、広大な陣地を持つ南には、できる限り力の強い魔女を置くのが定石であることを考えれば、いずれジョゼシラは南に戻ることが予測される。ならば最初から南に置き、次の東の魔女を育てたほうがよい、と話がまとまった。それと同時に、保留案件の魔導士ギルドの長だが、ビルセゼルトが学校長と兼任すると正式に決まった。


 会議の後、王家の森魔導士学校の校長室で頭を抱えるビルセゼルトの横で、サリオネルトがクスクスと笑っていた。

「決まってしまったものは仕方ない。まして自分で決めたんじゃないか。覚悟するしかないよ」

弟の言葉に

「サリーにあんな話を聞いて、覚悟しないでいられるものか」

と、ビルセゼルトは(なか)自棄(やけ)を起こしているように見える。


「でも、まあ、納まりはいいかもしれない」

と、サリオネルトが言えば

「まぁね」

ビルセゼルトも同意する。


 南の魔女が東に移るというのは、事前にビルセゼルトがソラテシラに提案していたことだった。その替わり、魔導士ギルドの長を引き受ける交換条件を出したのもビルセゼルトだ。


 事が起こる前に、ジョゼシラを南の魔女にしておきたい。そう言いだしたのはサリオネルトだった。

「北に何かがある」

我が城の星見がそう告げた。その何かとは悪魔だという。


()とは、北の魔女のことか?」

「それはまだ判らない。なんらかの〝北〟で、何かが起こることは間違いない」

サリオネルトは断言した。ビルセゼルトがサリオネルトを呼び出し、助けて欲しいと言い、秘密を隠せるか、とサリオネルトが念を押した、あの時の話だ。


 校長室の話は外には漏れない、誰にも言うなと言うなら誰にも言わない、南の魔女はともかく、ジョゼシラには隠心術でどんな隠し事もできると、ビルセゼルトはサリオネルトに請け合った。


「それにしても、いったい何が飛び出してくるんだ? これ以上の面倒ごとは遠慮したいところだが」

ビルセゼルトの願いに反し、サリオネルトの話はビルセゼルトの悩みを増やすものだった。


 サリオネルトはどう話せばいいか、少し考えているようだったが、おもむろにこう言った。


「ビリー、わたしはどうやら示顕(じげん)王らしい」

「え?」

ビルセゼルトは思わず弟の顔を凝視する。

「今、なんて言った?」


「わたしが示顕王だ、と言った」

吐き捨てるようにサリオネルトが答える。


「だって、おまえじゃないと結論が出たんじゃなかったのか?」

「今は違うというだけだ。だから、示顕王ではないとも言える」


 言葉の意味を飲み込めないでいるビルセゼルトにサリオネルトが

「順を追って説明するから、最後まで黙って聞いて欲しい」

と言った。


 我が城の星見が言う。

「今度の夏至に示顕王の誕生を示す星が出ている。そしてその星が二重星だとやっと判った」

そして最初の星がわたしを示し、あとの星はわたしの息子を差している。二つの星が揃って、初めて示顕王はその力を示すことが可能となり、公式に名乗れるようになる。


 示顕王には伝説通り、幸いと災いがついてくる。正確には災いを鎮めるため示顕王は存在する。災いを鎮める使命を持って生まれてくる。


 そして今回の災厄は『北』を示している。その『北』が方向を示すのか、北の魔女を示すのかはまだ判らない。その災厄をもたらすのが、あるいは災厄自体が『悪魔』だという事までは判った。


「悪魔が姿を現すのも夏至の日だと星見が言っている」

悪魔とはどんなものか、これもまだよく判っていない。星見が古文書を調べると言っていたが、『人の怨み妬み憎しみを喰らう』とあるのを見つけた。わたしも調べてみたが同じ文言しか見つけられない。だが、倒さなければならない相手だという事だけは判っている。


 そしてもう一つ、判っていることがある。この戦いは二十二年以上はかかるという事だ。


「二十二年!?」

黙って聞いていたビルセゼルトが思わず声を出す。チラリとビルセゼルト見たがすぐに視線を逸らし、サリオネルトが言った。

以上(・・)、だ。二十二年で終わるかどうかは判らない。だが、少なくとも示顕王の真の目覚めは二十二年後だと星見魔導士は読んでいる」


 災厄の訪れから五年後に神秘王の誕生を星が示し、それから十七年後に示顕王が再び目覚めると、星は告げているらしい。

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