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憧憬のエテルニタス  作者: 寄賀あける
第二部 疑惑 それぞれの思惑

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7  見守った心(4)

 火のルートを使えば、東の魔女の居城であろうと一瞬でいける。ただ、魔導士学校の各寮の談話室のように、暖炉から出ればすぐそこが目的地、とはいかない。もとより、火のルートは予め開通術を使って繋げていなければ使えないし、片側を封じてしまえば使いようがない。


 また、『火』を燃えさせることができれば、暖炉でなかろうと開通させることも可能だ。普段から設えられている暖炉を使うのが便利だし一般的である。魔女の集会などでは、大きな焚火を(おこ)し、そこに臨時のルートを開通させることもある。焚火を消せば消失できるのだから、始末もよい。


 水のルートや風のルートもないわけではないが、この二つは不安定で滅多に使われない。光のルートにいたっては、光と影を扱えなければ施術できないし、そんな魔女は少数派、魔導士にいたっては滅多なことではいない。そして施術が()(たら)と難しい事から、使う者がいないと断言できないものの、極めて特殊だ。


 風のルートは出入り口が常に変わってしまうので、特に風に強い魔女や魔導士しか使わない。水のルートについていえば、大きく水をたたえ、流れも波もない、そんな水面にしか開通できない関係から、最近は水を得手とする魔女であってもまず使わない。水面から姿を現して『落としたのは(きん)の釣り竿か、銀の釣り竿か』なんて悪戯(いたずら)をする魔女は、よもや居まい。


 魔女の居城に開通させる火のルートは、城の(あるじ)の居室から遠い場所に開通させることが多い。そして居城の中では移動術を弱体化させたりもした。つまり、火のルートを使った後が遠いことも、またよくあることだった。万が一、何者かが魔女を襲おうとしたとき、簡単には魔女の許にたどり着けないようにするためだ。統括魔女は己が陣地を守る義務を持っていたが、その義務の遂行のために守らなくてはならない存在でもあった。


 東の魔女の城の、デリアカルネの居室は高い塔の中ほどにあり、数百段の階段によって火のルートと隔てられていた。普段は移動術も使えるようになっていたが、有事には自動的に神秘術無効の術が発動される。平時なら、移動術が使えるということだ。平時なら、移動術が使えるということだ。その階段をホヴァセンシルが、移動術が可能なことを知っているのにわざわざ自分の足で上ってくる。そしてデリアカルネの部屋の前で立ち止まり、深呼吸をして息を整えている。


「お伯祖母(ばあ)さま、ホヴァセンシルです」

ドアの向こうから可愛い甥孫の、訪れを告げる声が聞こえた。久しぶりに顔を見せた甥孫は、少し痩せたように見える。いつから思い悩んでいるのだろう?


「まぁ、おかけなさい」

椅子をすすめ、

「チョコレートでも飲もうじゃないか」

と笑った。顔を見るなりきっと(・・・)怒られる、と思っていたのだろう、ホヴァセンシルがほっと息をつく。


「そんなにわたしは怖いかい?」

そんなホヴァセンシルに湯気を立てるチョコレートを勧めながら、デリアカルネが笑う。

「お伯祖母(ばあ)さまのお力を考えれば、誰もみな恐れずにはいられないと存じます」


「そう畏まって話すもんじゃないよ。今日は家族としておまえを呼んだのだから。まぁ、いい、お飲み。おまえ、少し痩せ過ぎだ」

デリアカルネはそう言って自分のカップを傾ける。


 勧められるままホヴァセンシルもカップに口を付けるが、とてもじゃないが、甘く温かい飲み物を味わう余裕はない。それでも少しは落ち着いたらしく、カップを取る手は震えていたが、置く手に震えは見られない。


「それで、ジャグジニアとはいつから?」

デリアカルネがいきなり本題を切り出した。


 グッと詰まったホヴァセンシルが、それでも素直に答える。

「西の魔女が決まる、ふた月ほど前から」


「おや、まあ!」

これにはデリアカルネも驚いた。

「あんた、まだ、付き合い始めて三月(みつき)も経ってないじゃないか」


 デリアカルネの声にホヴァセンシルが首を(すく)め、目をぎゅっと閉じる。そんなふうに怖がる素振りをしながら隠心術を使い、一切心を読ませない構えだ。その様子を見てデリアカルネがケラケラと笑い始める。

「あんた、ほんとに、わたしの末の妹にそっくりだよ」

うん、そりゃそうか、あんたの本当の祖母(ばあ)ちゃんだ、似るのも当たり前か。


「あの子もね、わたしに怒られるとよくそんな顔をしたもんだ。三人いた妹の中で、あの子が一番かわいかった」

まぁ、そんなことはどうでもいい。


「ホビス、あんた、たった三か月で人生の伴侶を決めたりしていいと思っているのかい?」

もっともなご意見に、ホビスは何も言い返せない。


「なんとか言ったらどうなんだい? 言わなきゃ勝手にあんたの心内を読んでしまうよ」

「お伯祖母(ばあ)さま、それは勘弁」


 耳を塞いだところでどうにもならないのに、両耳を手で塞ぐ。伯祖母(おおおば)の声を聞くのも恐ろしくて、ついやってしまう子どものころからの癖だ。


 そんなホビスの願いも虚しく、デリアカルネは容赦ない。無理やりホビスの心を()じ開ける。


「おおや、言い寄ってきたのはジャグジニアのほうからかい」

「やめてったら!」


「あんたね、魔女っていうのは男をその気にさせるにはどんな手でも使うんだよ。魔女に囲まれて育ったくせに、そんなことも知らないのかい」

「だめだったら!」

「一生大事にするって? 男は誰でも最初は本気でそう思う。でもそんなのは初めだけだ」


「よせ!」

ホヴァセンシルが(ほとばし)らせた稲妻が、デリアカルネの頬ぎりぎりを(かす)めた。


「やめろ! それ以上見るな!」

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