7 見守った心(3)
その考えを裏付ける出来事が直後に起こっている。スナファルデがサリオネルトに消失呪文を使ったあの事件だ。この時、デリアカルネは静観を決め込んでいた。必ずビルセゼルトが助け出すと見込んでいたのだ。
サリオネルトが示顕王ならば、そもそもスナファルデに捕らえられるはずもないのだが、まだ後続の示顕王が現れていない。だから、サリオネルトはその力の全てを示すことができない。流石に今のサリオネルトではギルド長を勤めるほどの魔導士スナファルデに対抗できなかった。
案の定、サリオネルトはビルセゼルトに助け出される。もちろんビルセゼルト一人の力でないことは判っている。だが、最初に動いたのはビルセゼルトに間違いない。
そしてデリアカルネはこの事件を利用して情報操作することにした。サリオネルトは示顕王に非ず ――
四年後まではその力が発揮されはしないのだから、半ば真実である。嘘とはいえない。嘘が言えない魔女の縛りにかからずに、今なら言える言葉である。四年後には言えない言葉、いずれ撤回することになるが、今は取りあえずこれでいい。
星見の魔女としての見解を正式に魔女ギルドに発信すれば、東の魔女デリアカルネが読み間違えることがないと、すべての星見の指針となる。これでサリオネルトを示顕王を敵対視する勢力から守ることができると思った。
デリアカルネのもう一つの心配事は神秘王のことだった。これはやはり星の言う通り、九年後に生まれてくるのだろう。そうは思ったが、南の魔女の娘ジョゼシラの噂を聞いて不安になった。あの南の魔女が手を焼くほどの娘、ひょっとしたら神秘王ではないのか?
ジョゼシラにもホヴァセンシルを近づけ、ホヴァセンシルを遠見することで観察した。
確かにジョゼシラには神秘王を匂わせる何かがある。だが、まだ足りない。得物は稲妻、火、水、風、大地。これに光と影が揃わなければ神秘王とはならない。
神秘王になるのはジョゼシラとビルセゼルトの間に生まれる子だとデリアカルネは目星をつけた。先に現れた示顕王を守る兄ビルセゼルトの血を引くとなればまず間違いない。
すべて事はなるようになっている。残る気掛かりは災厄がどのようなものかだ。が、星はまだ何も示さない。
だが……北に何かがあると感じてならない。星が隠しているのはなんだろう?
そこへ目に入れても痛くないほど可愛い甥孫が北の魔女と結婚したいと言っていると知らされた。どうにかならないかと姪から相談され、腰を抜かすほど驚いた。
「星はどんな悪戯を仕掛けているのか」
来るべく災厄に備えて、甥孫は手元に呼び寄せておきたかった。そしてできることなら後継の魔女と娶わせたかった。
西に示顕王、南に神秘王、東にはわたしが磐石の備えをする。そうなると災いは北から現れるのではないかと、思い始めた矢先でもあった。
新たに北の魔女となったジャグジニアについては判断材料を持っていない。示顕王に気を取られ、統括魔女に関してはギルドが決める決定に任せていた。西の魔女となったマルテミアとも、将来南の魔女となるジョゼシラとも仲が良いと聞けば反対する理由もなかった。それがまさか、ホヴァセンシルと恋仲になっていようとは――迂闊だったと思わずにいられない。
しかし、物は考えようか。不安が残る北に、我が懐刀とも言えるホヴァセンシルを配するのも悪くないかもしれない。
北に潜んでいる何かが災いであったとしても、それが直接北の魔女に絡むとも考えずらい。北の備えとしてホヴァセンシルは適任と言える。
だが、一抹の不安が残る。ホヴァセンシルの弱点は、その情の篤さだ。どのような形で災厄が現れるか知れない今、その情の篤さで災いに取り込まれないよう、釘を刺しておく必要がある……デリアカルネは甥孫の顔を思い浮かべていた。
二日後の夜、ホヴァセンシルを寄越すように、デリアカルネは姪に返事をしている。姪はデリアカルネがホヴァセンシルを諫めてくれると思ったようで、『必ず行かせる』と大喜びで返事を寄越した。




