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憧憬のエテルニタス  作者: 寄賀あける
第二部 疑惑 それぞれの思惑

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7  見守った心(1)

 東の魔女デリアカルネは、自分が現役を去るのはそう遠くないと悟っていた。そこへ星見たちが示顕(じげん)王だ、神秘王だと騒ぎ始めた。


 もともと星見を得意としていたデリアカルネは自分でも星を読み、そして(ちまた)で言われている星の動きと少し違った見解を持っていた。


 他の星見の多くが言うように『誕生』を示す星は確かに示顕王を差しているように見える。しかし、その星の後ろにはやはり示顕王を示す『誕生』の星が隠れている。すなわち、示顕王は二人現れ、そして先に生まれた示顕王が後からくる示顕王を隠している。


 東の魔女デリアカルネは考えた。ただでさえ示顕王の存在は出現が予測されただけで世を惑わせ混乱させる。ここで示顕王が二人などと知られたら、収拾がつかなくなるのは目に見えている。幸いなことに、ほかの星見は『誕生』の星が二重になっていることに気が付いていない。


 後ろに隠れた星が姿を現すのは四年後、そして二人目の示顕王が現れない限り、先に現れた示顕王もその力を発揮できない。となれば、それまでの四年間、示顕王は居てもいないと同じとなる。


 示顕王は『幸いと災い』を(とも)にしていると言われている。詩編では『幸いか、災いか』とされているが古文書を調べると必ず、起きた災いを示顕王が鎮めている。来るべき災いを治めるため、示顕王は出現している。


 深く学べば判ることだが、たとえ古文書を(ひもと)いたとしても、その者に読解力が備わっていなければ過誤を生じる。そして、これはこうだ、と説明しても、思い込んでいる者を覆すのは難しい。だから『示顕王』を守らなくてはいけない。災いを呼ぶかもしれないと示顕王を迫害しようとする者から、力を発揮できるようになるまで示顕王を守らなくてはならない。


 では誰が示顕王か? 誰なのかが判らなければ、守りようがない。


 デリアカルネは〝サリオネルト〟と断定していた。西の魔女の後継を決める会議の席で、初めてサリオネルトを見た。人物は甥孫ホヴァセンシルから聞いて、ある程度知っていた。心を読んだら(たしな)められたらしい。


 どれどれ、とデリアカルネもサリオネルトの心を読んでみることにした。するとなるほど、こちらに気が付く様子もない。それでいて、どこかに何かを隠していると感じた。それならばと、送言術で話しかけてみた。それには『これ以上のお(たわむ)れはご容赦願いたい』と、苦笑とともに返事があった。


『東の魔女さまであれば、わたしの隠心術など簡単に解いておしまいでしょう』


 何を隠している、と問いかけると、『女性との秘め事を』と照れ笑いするた。それは見られたくないだろうな、と笑わずにはいられなかった。無体なことをした、と思わず謝り退散した。


 そして、『なるほど』と思った。サリオネルトが言う通り、彼の隠心術は()じ開けようと思えばできる程度のものだった。そして中には彼が言う通りの思いや思い出が隠れていることだろう。しかし更にその奥にもっと強力な隠心術を使った何かがあるとデリアカルネは推測した。


 もし、送言術を使わずに隠心術を解いて中を覗けば、彼が言うところの秘め事を見ることになる。たぶんそれは彼にとって、見られたところで大した痛手ではないのだろう。が、覗いた方にしては気まずく、即退散する。少なくともわたしならそうだとデリアカルネは思った。覗きこんできた相手で、隠す中身を変える知恵をサリオネルトは持っているに違いない。


 デリアカルネが読んだサリオネルトは、ほぼ彼の今まで生きてきた記憶そのものだった。ホヴァセンシルにはそこまで読ませていないように思える。


 しかし洒落(しゃれ)たことを……サリオネルトは『彼女との』秘め事とは言わず、『女性との』秘め事とさらりと言ってのけた。隠心術の外にはマルテミアとの色濃い記憶もあった。つまり、隠しているのはマルテミア以外の女性との、となる。


 母の胎から出てきてすぐに力を発揮し、サリオネルトは即座に力を封印された。そして、父親の知り合いの街の魔導士に預けられた。デリアカルネはサリオネルトから読み取った内容を思い返す。


 時おり親元に帰され休暇を過ごしていたのだから、街の魔導士は育ての親、実の親は休暇を過ごす家の夫婦と本人も知っていた。無論、兄の存在も承知していた。そしてそのことに対してサリオネルトが不満を漏らすこともなかった。けれど、どこかに孤独が見え隠れしている。


 年頃となり、急に品行不良が目立つようになる。きっかけは里親の愚痴を偶然聞いてしまった事だ。自分の子と思って育てているつもりなのに、つい遠慮してしまう、と。


 里親の家に帰らず、友人の家を泊まり歩いた。街の同世代のほとんどを友人としていたから、最初は心配して探していた里親もすぐに諦め探さないようになった。それがサリオネルトの孤独に追い打ちをかける。自分に非があると判っているから誰を責めることもできない。自分を追いつめる結果しかない。友人たちは彼の慰めにはなったものの、孤独の本質までは埋めてくれない。


 特にこれと言った悪さをするわけではないから、時どき大人たちが『あまり親に心配を掛けるなよ』と諭す程度で、街の人々から非難されることもない。が、とうとうとんでもない事件を起こしてしまった。人妻と深い仲になり、それを夫に知られてしまったのだ。


 もともと街中の娘と関係を持ったんじゃないかと噂されるほど、サリオネルトの女出入りは激しく、と言うか、誘われれば拒まないと言った(てい)で、これについても最初はクドクド言った里親も、どうも遊びと割り切っている女を相手に選んでいるし、悪い噂は立ったものの揉め事を起こすこともなかった。そのうち一人に決めるだろうと、さじを投げていた。

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