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憧憬のエテルニタス  作者: 寄賀あける
第一部 魔女選考 若者たちの純情

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1  恋する二人(2)

 いつもの隠れベンチから、今日はめそめそ泣き声が聞こえる。


「わたし、ビリーにフラれたのよ。信じられない」

泣いているのはニアだ。

「向こうから誘ってきたからデートしてあげたのに」

マリはゆっくり、傷ついた友人の背を撫でている。


「それなのに、一度デートしたきり、いくら待っても二度目の誘いがない。ずっとキミに憧れていたんだよって言ってくれたのに」

泣き崩れたニアの背中を、慰めるようにマリが抱きかかえる。


「だからわたし、自分から行ったの。たぶん図書館にいるだろうと思って。そんなことをデートの時に言っていたから」

そしたら、なに? ビリーはいない。ビリーの友達がニヤニヤ笑うだけ。

「ビリーはね、今、一年生の女の子に夢中だよ、って」


 そう言って号泣するニアをマリはおろおろ見守るだけだ。やっと少し鎮まったニアが続ける。

「やっと見つけ出して、ビリーに詰め寄ったの。手紙は嘘だったの? って。そしたら『キミは僕が思っていたような人ではなかった』って。『キミのような我儘なお嬢さんには付いていけない』って、わたし、言われたのよ?」


 またも号泣が始まる。それが治まるのを待ってマリが慰める。

「ビリーは女の子を見る目がないのよ」


 思っていたような人ではなかったって、どんな人だと思っていたの? 我儘なお嬢さんって言うけれど、ニアが我儘なら、我儘じゃない魔女なんていないわ。それを受け止める度量もないのよ。どうせニアの綺麗な顔に魅かれただけで、綺麗な子なら誰にでも言い寄るのよ。


「そ、それがね……」

今度ビリーが追っている一年生の子ってね、普通に可愛い程度、それに、それこそ我儘らしいのにビリーはそれを笑って楽しんでいるのですって。


「しかもその子は全くビリーを相手にしてないのに『いつか僕の妻にする』って宣言したって。わたし、惨めすぎる」

「ねぇねぇ、ニア。ビリー程度の男なら、いくらでもいるわよ。ニアならもっといい人がいる。お願いだから泣かないで」


 ニアが泣くとわたしも苦しい……マリの言葉に、やっとニアも顔を上げる。

「ありがとうマリ。何があってもマリだけは味方でいてね」


 もちろんよ、と答えるマリの首に腕を回し、ニアはまだ泣いているようだった。マリはそれを黙って受け止めていた。と、その時――


 二人の頭上でバキバキと音がし、ドサッと少し大ぶりのマグノリアの枝が落ちてきた。花も葉もパラパラと降ってくる。見上げると誰かが枝にぶら下がり、こちらを見下(みお)ろしている。すると次にはスッと地に降り立った。

「ごめん、盗み聞きするつもりは……」


 わーーー! っと再びニアが号泣する。ベンチに突っ伏して、今までに輪をかけて猛烈だ。他人に聞かれたのがショックなのだ。

「ニア、しっかりして」

マリがおろおろする。


 木の上にいたのは見慣れない顔の、同じくらいの年の男の子だった。

「枝で昼寝していたんだけど、急に君たちが来て……出るに出られなかったんだ。済まないね」

なるべく気が付かれないよう退散しようとしたんだけれど、つい手元が狂って枝が折れてしまった。

「あーあ、くっきり青空が見える。せっかくの木漏れ日が台無しだ」


 男の子は上を見てから枝を拾うと、それを上に投げた。すると枝は元の場所に繋がっていく。見ていたマリが息を飲む。呪文もなしの再生術は今まで見たことがない。


「そうそう、聞いてて思ったんだけどね。泣いてばかりのそこのキミ」

男の子が急にニアに話しかけた。ニアは聞いているのかいないのか、泣き続けている。


「その、ビリーって男をさ、キミはそんなに好きだったのかい? 一度、デートしてあげたって言っていたよね。そこまで好きなようには聞こえなかった」

だったら、そんなに泣かなくてもいいんじゃない?


 するとニアが急に泣き止みスクっと立ち上がり、指さしながら男の子に詰め寄った。

「わたしはね、今までフラれたことがないのよ。そのわたしをビリーはフッたの。許せるはずないでしょ!」

「なるほどね」

クスッと男の子が笑った。


「確かにキミは美人だ。フラれたことがないのも無理もない。だけど、これでフラれた時の気持ちを知れたってことだね」

「なっ! 今までフッてばかりのわたしがいけないっていうの?」

また泣き出しそうなニアに

「違うよ」

さらりと男の子が言う。

「経験は人を豊かにする。キミを更に美しくする。次に出会う人はきっとキミを離さない」

ニアは男の子に向けた指をそのままに、呆然と男の子を見詰めた。男の子は穏やかな笑みをニアに向けている。そして、その笑顔を今度はマリに向けた。


「キミは穏やかで我慢強い人だね。そして優しい。おろおろしながら友達を懸命に慰めていた。ねぇ、僕と付き合わない?」

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