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憧憬のエテルニタス  作者: 寄賀あける
第二部 疑惑 それぞれの思惑

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5  語り始めた星(7)

 校長室にサリオネルトの笑い声が響いた。


「なんで今さらデリシアス先生はドラゴン退治になんか行ったんだい?」

年寄りの冷や水じゃないか。しかも、右? 左? 腕を食われたって? ひとりで行ったんじゃないだろう? ほかの連中は何をしてたんだ?


「わが生涯で成し遂げていないことの一つ、と(おっしゃ)っていたがね」

ビルセゼルトは苦虫を噛み潰したような顔をしている。


 ひとしきり笑っていたが、やがてサリオネルトも真顔になる。

「確かに人材不足は否めないね。と言うより人材不足なんて生易(なまやさ)しいものじゃないよ。使えるのは結局、ビリー、おまえだけじゃないか」


「あぁ、そもそも最初は学校に残って教育改革して若い人材を育てて欲しいと言われたのさ。それが三年しか経っていないのにこのザマだ」

「使える人間がいないのなら、使えなくても使うしかないと思うよ」

「サリー、相変わらずおまえは呑気(のんき)だな」

ビルセゼルトの言葉にサリオネルトがクスっと笑う。


「難しく考えるのはビリーの悪い癖だね。それに呑気なわたしのお陰で、少しは気持ちが軽くなっただろ?」

これには『まぁね』とビルセゼルトも笑う。


「しかし、使えない人間を使うと言っても重職につけるのは皆が納得しない」

「同期に誰かいないのかい? 白金寮ならアウトレネルとか」

「みんなそれぞれの道を見つけている」

「引っこ抜けばいいじゃないか」

あっさりサリオネルトが言い放つ。


「遠慮している場合じゃないのは判っているだろう?」

考え込むビルセゼルトに、サリオネルトが続ける。


「なんだったら東西南北の魔女が城に囲っている魔導士を融通してもらうとか。ちなみにブランシスはだめだよ。あれは今じゃわたしの片腕だ」

「そんな要求を魔女たちが許すものか」

ビルセゼルトが顔色を変える。


「今の状態で魔女を怒らせれば、魔導士ギルドは完全崩壊だ」

「魔女たちだって魔導士ギルドが崩壊すれば打撃を受ける」

サリオネルトはそう言いながら

「だけど、結局、ビリーは校長とギルド長を兼任するしかない」

と言う。


「兼任した上で、サポートを強固にする。それしか今を乗り切る手はないんじゃないかな」

「サリーは俺を手伝ってくれるのか?」

呼び出しの目的はこれか……サリオネルトが内心苦笑する。


 ギルドで顔を合わせることも多いのに、わざわざ呼び出すなんて何事だろうと戸惑いを感じていたが、断る理由もないので出向いてきた。まして火のルートを使えば一瞬でいけるのだ。


「もちろん、と言いたいけれど、もうすぐ夏至だ。何が起こるか判らない。直前に動きたくないってのが本心かな」

サリオネルトの(もっと)もな答えにビルセゼルトは腕を組む。


「まったく、夏至に何が起こると言うんだ。『示顕(じげん)王』はすでに出現している。だけど、どこにいるか判らないと言ったきり、星見はこの件については沈黙を決めこんでる。夏至に何かが起こる、とは言っているが、具体的なことは何も判らないの一転張りだ」


「そうだ、夏至にわたしは父親になるよ」

「え?」

突然の報告にビルセゼルトが椅子から転げそうになる。

「子どもが出来たのか?」


「うん、マルテミアが妊娠した。我が城の星見に読ませたら出産は夏至の日、元気な男の子だそうだ。悪阻(つわり)が酷くてしばらくはハラハラしたが今は治まって、体調も安定している。そして、嘘みたいによく食べる」

「そうか、おめでとう! 先を越されたな。って、こっちはやっと結婚したばっかりだ」


 久々に聞く明るいニュースにビルセゼルトが涙ぐむ。感無量といったところか。マルテミアの流産とその時のサリオネルトの様子を知っているからこそ、なのかもしれない。


「星見の魔導士がそう言ったなら間違いないな。しかし、夏至かぁ。夏至には冷や冷やさせられっぱなしだ」

示顕(じげん)王の件とか?」

サリオネルトはさらりと言いにくい事を言ってのける。


「あぁ……せめてどこの誰かがはっきりすれば、少しはすっきりするのにね。なんとかって名の剣も、どこかに消えてしまったんだろう? まぁ、おまえではないとはっきりしたから安心したが」


 示顕王が所持すると言われる『総ての(ことわり)を知る剣』をサリオネルトが空宙から出現させた、と大騒ぎになったが、いつの間にか消失してしまい、本当に『総ての理を知る剣』だったかどうかも判らず仕舞いだ。


「んー、でもさ、もしわたしが示顕王でないとしたら、五年しか生きられないって話だよね?」

「あぁ!?」


 驚いてビルセゼルトが弟の顔を見る。

「あぁ、そうだな、あの時、確かそう言っていた。すっかり忘れてしまっていた」

「だよな。みんな忘れているよ。五年しか生きられないとして、もう四年が経っている。あと一年だけど、僕は死にそうに見える?」

サリオネルトがお道化(どけ)てみせる。


「いや、まったく」

上から下まで弟を眺めてビルセゼルトが答える。

「死んでも死なないように見える」

「おいっ!」

兄の言葉にサリオネルトが笑いだし、『冗談ってわけじゃない』とビルセゼルトが鼻白む。


「本気で俺は心配しているのに」

そんな兄にサリオネルトが穏やかな眼差しを向ける。兄弟と言うよりも父親が息子を見るような目だ。


「そんな顔をするな、ビリー」

そしてそっとサリオネルトが確認する。

「この部屋での話は、決して外には漏れないな? ビリーにだけは打ち明けておきたい。ジョゼシラにもマルテミアにも内緒の話だ。決して話してはいけないし、心を読まれてもいけない」

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