4 結ばれる二人(5)
「ホビスは親父さんの仕事を手伝いたいって、以前、言ってた」
申し訳なさそうにビリーが言う。ニアと一緒になるかならないかは別として、北の魔女の城に入る気はないのかもしれない。
「そうね、そう言っていたわね」
涙目のニアが同意する。横ではマリがサリーに、学校を占拠する計画の時、交渉役を買って出たホビスの様子を伝えている。
「でも、夫だからと言って、一緒に暮らさなければならないってもんでもない」
と、ジョゼが言う。ビリーがチラリとジョゼの顔を見、ジョゼもちらりとビリーを見る。
「わたしとビリーだって、南の魔女の城と、魔導士ギルドの本拠、離れ離れに暮らすことが決められている」
「問題はホビスが結婚の意思を示してこない、ということか」
ビリーが言うと
「今さら結婚する気はないって言われたらどうしよう」
ニアが涙ぐむ。
マリがニアの髪を撫で、なんとか慰めようとしているが、実際のところ、どう慰めていいものか? ニアを見守る四人には、これと言って適切な言葉が思い浮かばない。
「ねぇ、ニア」
やっと口を開いたのはサリーだ。
「今までホビスは、一度も結婚を匂わすようなことはなかったのかい?」
「それは……」
一瞬ニアが泣くのをやめて、記憶を探るような目をする。
これでニアの気を少しは軽くできるかと、四人が安心するのもつかの間、突然ニアは前にもまして激しく泣きじゃくり始めた。
「そうよ、ホビスが言ったの。一生大事にするって」
だからその言葉を信じて、全てを許したのに……なのに、具体的なことは何も言ってくれない。結婚の〝け〟の字も言ってくれない。
「ちょっと待て!」
いきり立ったのはジョゼだった。
「それはなにか? あの野郎!」
部屋の中に急に風が吹きすさび、雷鳴がとどろき始める。慌ててビリーがジョゼを押さえつけた。
「落ち着け、落ち着けってば!」
サリーもマリも驚くばかり、ビリーとジョゼを見つめ、防風から身を守り、時おり迸る稲妻を避ける。ニアは泣くのも忘れ、やはり暴風に抗い稲妻を避けながら、ビリーとジョゼを見詰めている。ビリーはジョゼの耳元で、頻りに何かを囁いている。
徐々に雷鳴はやみ、風も緩んでくる。ビリーがジョゼを押さえつけるのをやめ、その代わり強く抱きしめる頃には、部屋は静かになっていた。抱き締められたジョゼはビリーに縋って泣いている。
やがてジョゼも落ち着いたのか、
「何しろ、ホビスに確かめないことには埒が明かない」
ビリーの胸に抱かれたまま、涙を拭きもせず言った。
「うーーん」
ジョゼの癇癪から守るため、マリを自分の陰に隠していたサリーが、守りの体勢を解いて考え込む。
「僕にはホビスがそこまで不誠実な男と思えない」
「おまえはホビスと知り合って数か月じゃないか」
と言いながら、ビリーも反論しない。
「数年来の付き合いがある俺もそう思う」
ジョゼはすっかり落ち着いたが、ビリーにしがみ付き、その顔を眺めるのに手一杯のようで何も言わない。ように見えたが、突然、
「ホビスがニアを探している」
と呟いた。
驚いたビリーがジョゼの顔を覗き込むと、ジョゼはビリーを見詰めたまま
「ホビスはニアに会いに黄金寮に来た。けれどニアが見つからない。マリもサリーもいない。誰に訊いてもどこにいるか知らない」
だから、あのベンチに向かっている。
ニアだけ行くといい。それだけ言うとジョゼはコトリと意識を失った。
「大丈夫、力の使い過ぎ。少し休めば回復するから」
と言いながら、ビリーの顔は青ざめている。
「早くあのベンチに行くといいよ」
ニアだけで行ってと、マリとサリーはそこに残った。心細そうではあったが、ニアも頷いて部屋を後にした。
ビリーはジョゼを抱きかかえベッドに運んでいたが、そのあとをサリーとマリは追い、ベッドカバーを外して手伝う。
「癇癪は初めてじゃないけれど、遠見をしたのを見たのは初めてだ」
ビリーが呟く。
「癒術の先生を呼んでくるわ」
マリが言ったが、それをビリーが止める。
「ここは学生は立ち入り禁止エリアだ。それにジョゼが意識を失っているってことはジョゼが僕たちに掛けた魔導術も効いていないかもしれない」
「ジョゼは隠姿術を使っていた?」
サリーがビリーに尋ねる。
「隠姿術? この棟では廊下で誰とすれ違おうと、会いたい人しか見えないし、向こうにも気が付かれない、ってジョゼが言っていた。ついでに会いたいと思った相手はこちらがなぜここにいるとか疑問を抱くことはないとも言ってた」
判った、とサリーが頷き、
「同じ術を掛けた。マリ、癒術魔導士を呼んできて」




