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憧憬のエテルニタス  作者: 寄賀あける
第一部 魔女選考 若者たちの純情

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4  結ばれる二人(2)

 バコン! と後頭部に衝撃を感じ、しまった、と思ったが、もう遅い。ジョゼに思いっきり叩かれたあとだ。驚いたニアがビリーとジョゼを見比べている。


他人(ひと)の思考を読んだな?」

ビリーが抗議する。

「思考じゃなくて妄想だろ」

そう言われればごもっともで、ぐうの音も出ない。衝撃のせいで涙が染み出るのを拭うだけだ。


「思考を読めるの? ジョゼ」

ニアが驚く。

「わたし、北の魔女になんかなっていいものかしら?」

「いいも悪いも、ニアはもう北の魔女と決まっている」

どうもジョゼにはニアの不安が判っていない。


「なったところで、ちゃんと勤まるのか自信がないわ」

もちろん、南の魔女さまと比べちゃいけないって判っているのよ。


 でもさっき、圧倒的な力の強さを見せつけられて、ジョゼの力もいろいろ見たわ。わたしなんか、ジョゼの足元にも及ばない。南の魔女さまとは比べようもない。


 ニアの訴えを、口をもぐもぐ動かしながらジョゼは聞いている。ヌガーが歯にくっついたのかもしれない。

「統括魔女は、才能がある人を選んで育てるって母上が言っていた」

だから心配ないと思う。三年で育つらしい。開花するって言ってたかな。


「ジョゼ、それって本当? わたしもジョゼや、いつかは南の魔女さまのようになれるということ?」

「今のわたしを追い越すのはすぐだと思う。母上はどうかな。でも、追い越せないわけでもないと思う」


 ニアが嬉しそうに瞳を輝かせる。

「頑張れば、いつかあんなふうに成れるってことね」

少なくとも、統括魔女に相応(ふさわ)しい力を持つことは間違いない、とジョゼは言った。


 夕食の時間が迫ると、三人はマリにも声をかけ食堂に向かった。食堂に入ると先ほどの興奮が思い出される。学生はみんな同じ思いらしく、参加できなかった学生に、その時の様子を手振り身振りで説明しているのがあちらこちらで見える。


 四人の姿を見つけると、入れ代わり立ち代わり寄って来てはサリーの様子を尋ねては、マリに『良かったね』と言っていく。そしてビリーの肩をポンポンと叩いて『よくやった』と(ねぎら)う。ホビスの陰にビリーがいることなんか、学生は全員、すぐに勘付いていた。そんな洗礼が一通り落ち着くと、マリが三人に向き直り、お礼を言っていなかったと切り出した。


「僕は自分の弟のために動いただけさ」

とビリーが言う。いくら別々に育てられたと言ったって、年に何度もサリーは呼び戻されていた。幼いころから兄弟として仲良くしていたし、思い出も尽きない。


「わたしはマリの親友よ」

そのわたしがマリのピンチに一肌脱がないわけがないでしょと、ニアは笑った。

「マリが苦しめばわたしも苦しいの。自分のために動いたんだわ」

ジョゼは微笑んで頷いただけだったが、マリにはそれで充分伝わったようだ。


 更にマリはホビスに礼を言おうと赤金(あかがね)寮の寮生が集まるエリアに行こうとしたが、それをジョゼに止められる。いぶかるマリに

「もう、校長代理が来るよ」

とだけ、ジョゼは言った。


 やがて、校長代理の副校長が現れ、夕食が始まる。魔導士学校の日常が取り戻されていく。


 結局マリは食事が終わるとジョゼに急かされてサリーがいる部屋に戻り、ホビスと話せず仕舞いになった。


 ニアは何かを感じていたようだが、ジョゼに抗議することもなく、この件には我関(われかん)せずでいるようだ。


 サリーは南の魔女が言った通り、翌朝には繭が消えて、正午を待たずに目を覚ました。特別な許可が出て、付き添っていたマリがサリーの手を取ると、ゆっくりと微笑(ほほえ)んだ。


 やはり特別にマリの付き添いを許されていたニアが()(じゅつ)の教師を呼びに走ると、すぐにやってきてサリーを覗きこむ。


「さすがは南の魔女さま、完璧な解術です。後遺症の兆しもありません。この様子なら二・三日で全快しますよ」

何か飲ませなさい。温かなミルクティーが一番だけど、本人が欲しがるものでいいですよ、そう言って癒術魔導士は帰って行った。


 本人が欲しがるもの、と言ってもサリーはまだ話せない。マリがサリーはハチミツを入れたホットミルクが好きだわ、と言うとベッドサイドのテーブルに湯気を立てたカップが現れた。


「まだ熱いから少し冷ましてからだな」

とジョゼが言う。ホットミルクを出したのは、どうやらジョゼだ。


 ジョゼは勝手に授業をさぼっている。いつものことなので、騒ぐ教師はいない。そして、マリとニアにとっては心強い。


 ジョゼが魔導術でサリーの上体を起こし、ニアとマリがクッションでそれを支えてから、冷まして飲み易くしたホットミルクをマリがサリーに飲ませる。


 すると青白かったサリーの顔に見る見る赤みが挿していく。顔色だけでなく、身体も動かせるようになり、カップをマリから受け取ると、ホットミルクを飲み干した。


「いやぁ、美女三人に看病されるなんて、僕は幸せだなぁ」

なんて軽口を叩く。


「もっとも僕はマリさえいれば充分幸せなんだけど」

顔を見合わせてマリとニアは笑うが

「ふん、双子とはよく似るものなのだね。同じ状況ならきっとビリーも同じことを言う」

とジョゼは面白くないようだ。


「もっともビリーは最後の一言がない。だからわたしに殴られる」

これには言ったジョゼも吹き出して、三人と一緒になって笑った。

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