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憧憬のエテルニタス  作者: 寄賀あける
第一部 魔女選考 若者たちの純情

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3  捕らえられる二人(2)

「それは僕がなんとかする」

そう言ったのはビリーだった。


「つい、こないだまで魔導士ギルドの次の長に指名されてたんで、何度も総本拠に呼び出された。出入り口くらい承知している」

そこにこちら側から結界を張ろう。だれも魔導士学校側には()れない。


「それはジョゼ、手伝って。僕一人の結界では心もとない」

ジョゼが満足そうな笑みを見せた。


 では、計画はこうだ……ジョゼが確認する。


「まずは火のルートを塞ぎ、魔導士ギルドの総本拠の出入り口を封印し、学校に張られた結界を完成させる。ギルドは悔しいだろうな。学校を守るため自分たちが張った結界が自分たちを拒むのだから」

これで外部から魔導術を使っての侵入はできない。


「次に学生の懐柔」

マリとニアは学生数が一番多い黄金(こがね)寮、わたしとビリー、ホビスは赤金(あかがね)寮の談話室で落ち合って、まずは赤金寮、次いで白金(しろがね)寮の学生を囲い込む。


「単独行動は目立たない面ではいいが、もしこの件に反対する者がいた場合、一人で対処するのは巧い方法と思えない。ま、わたしは魔女として、睨みを()かせようじゃないか」


「友達が一人もいないジョゼは出る幕がないと思ってたけど、なるほどね。って、痛てててて!」

そっとホビスに耳打ちしたビリーが急に耳を抑え、痛みを訴えた。


「痛かろうね、思い切り引っ張ってみた」

どうやらジョゼに、魔導術で耳を引っ張られたようだ。耳たぶの付け根が千切(ちぎ)れちゃって血が出てる、とビリーが苦情を言った。


「仲間になってくれる学生は食堂に集め、そうは成れない学生、反対する学生は力を取り上げて任意の部屋に閉じ込める」

この辺り、勝算はどうかな? 半数以上を集められる? ジョゼは四人にそう言いながら、そっとビリーの耳たぶに触れた。ビリーの傷はすっかり治ってしまっている。瞬時、二人は見詰めあったが、周囲は見て見ないふりをした。


「赤金寮は問題ない。我が寮の結束は固い。ビリーとサリーの従弟(いとこ)シスも我が寮にいる。そしてみんなサリーのことが好きだ」

ホビスが真っ先に確約する。


「白金寮も良好。自惚(うぬぼ)れと言われようが、みんな僕を信頼し頼ってくれている。問題ない」

次に答えたのはビリー、弟の命がかかっている。必死の説得は功を成すだろう。


 ニアはマリと目配せして肩をすくめてこう言った。

「サリーは黄金寮の寮生よ。赤金寮でも人気者らしいけど、黄金寮だって同じ。まして、サリーを助けるのに反対する女子はまず、いないわね。マリを大事にする彼に、みんな好感を持っているもの。あんな恋人が欲しいって憧れているコも大勢いるわ。そして男子の半数はわたしに手紙をくれた人たちよ。協力してくれるに決まってる」


 わたし、お断りするにしても相手を容赦なく傷付けたりないから――これにはビリーが少し気まずい顔をした。


 では次に教職員の拘束とレギリンス先生の懐柔――

「レギリンス先生のところへは、俺と、各寮の代表者を引き受けた学生の三人で行くよ」

と言ったのはホビスだ。いわば学生代表なのだから、レギリンス先生も快く応じてくれると思う。


 そうでなくても引き受けてくれるだろうけど、形式が整っていれば、後々ギルドが入ってきてからの先生の立場を守れると思う。

「ホビス、よく考えているじゃないか」

ジョゼがにこりとする。


「では、残りの教職員たちの拘束はわたしとマリ、ニア、ビリーであたろう」

「いや、ここから先は学生の協力者たちにやってもらったらどうだ?」

そう言ったのはやはりホビスだ。


「なんのために組織したのか、考えようよ。各寮の寮監は各寮の協力者で。いつも従えさせていた学生たちの反乱、それでいいじゃないか」

「赤金寮は無血開城が見込まれているから気楽だな。でも、そうだね、ホビスの言う通りかも」

ジョゼも考え直したようだ。


「そうだね、学生たちがサリーを取り返すために立ち上がった。そう芝居を打とうと思っていたわたしは間違っていた。これは芝居じゃない。本当に学生たちは決起するんだ」

「そうよ、わたしたち学生はサリーを取り戻すために立ち上がるの」

ニアがジョゼの言葉を引き継いだ。


「では、各寮の寮監の後は、それぞれの寮ごとに行動し、教職員をひとり残らず拘束して食堂に集める」

教職員の拘束も一人ずつ、拘束したら食堂に連行、食堂ではわたしが監視を勤めよう。

「なに、拘束された教職員の監視など、わたし一人で問題ない」


「そう言えば、ジョゼってどこの寮なの?」

「わたしか? わたしはどこの寮にも属していない。だから寮ごとの行動には同行できない」


 中途半端なジョゼの説明をビリーが補足する。

「ジョゼは教師棟に部屋を貰っているんだ」

それも親の七光り? ホビスがそっと呟いた。


 ではわたしは一足先に行くよと、ジョゼが姿を消す。寸時、誰も声を出さず、興奮を抑えているようだった。その沈黙を破ったのはホビスだった。


「ビリー、あれは大変だな」

そして再びの静寂の後、どっと笑い声が上がる。


「ほんと、怖かったわ」

涙目を抑えながらマリが言う。


「うんうん、なんだか圧倒されて何も言えなかった。もちろん、計画に異論はないのだけどね」

ニアも笑いながら言う。

「でも、ジョゼって凄いわ。サリーがわたしの何倍もの力、って言ったけど、触っただけでビリーの傷を治してしまったし」


 爆笑の渦の中、ビリーは苦笑いするしかない。そして婚約者として(かば)わないわけにもいかない。


「みんなはそう言うかもしれないけれど、あれで可愛いところもあるんだよ。教えたことはきちんと覚えようと努力するし、割りと素直だ」

「そうね、ビリーが教師には敬語をって言ったら、すぐ実行したものね。可愛いとわたしも思ったわ」

ニアが笑いながら言えば、マリもうんうんと頷く。思い出して更に笑い声が大きくなるのはホビスだ。


「僕は予言するね。ビリーは将来、女房の尻に敷かれる」

ホビスが冗談を言う。


「あぁ。そりゃそうさ。その予言は当たるだろうよ」

と答えたビリーが続ける。

「そして僕は予言する。今日の僕たちの行動は、魔導史にこう刻まれる」


 王家の森魔導士学校にて、初めて学生が狼煙(のろし)を上げる……

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