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憧憬のエテルニタス  作者: 寄賀あける
第五部 遁走 守られる者 守られる愛

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21 遺志(5)

 北の魔女の居城、魔女の寝室でジャグジニアが泣き叫ぶ。


「やめて! やめてーーー!」

「なぜだ? この男はおまえを苦しめた。なのに命乞いをするのか?」

(あざけ)り笑うのはスナファルデだ。そのスナファルデに(すが)りついて、ジャグジニアが泣きじゃくる。


 その様子を腫れあがった(まぶた)に半分閉ざされた視界で見ながら、

「ニア、取引は絶対にするな」

(かす)れた声をだすのはホヴァセンシルだ。


 かけ直した時、寝室の入室制限は有効だった。それなのに、いつの間にか解除されている。まったく、ジャグジニアはどこまで愚かなんだ。


 西の城が崩れ終えるのを待つ間、ホヴァセンシルは寝室で休みながら、今後のことを考えていた。この部屋には自分とジャグジニアしか入れないと信じていた。それが油断を生んだ。


「なにっ!?」

殺気にすぐさま稲妻を飛ばす。自分めがけて飛ばされた火球を受け止め宙に消す。そして次の稲妻をホヴァセンシルは飛ばそうとした。


 ホヴァセンシルの初手は命中している。だが、ドウカルネスを貫いた稲妻は本来の攻撃対象、後ろに隠れたスナファルデに巧みに避けられている。ドウカルネスを盾に使ったのだ。深手を負ったドウカルネスをスナファルデは打ち捨てた。


「ドゥク!」

いきなり飛び出してきたジャグジニアにホヴァセンシルの二の手が止まる。

「ニア、行くな!」


 その隙を逃さずスナファルデが再び火球を飛ばし、それにホヴァセンシルが稲妻をぶつけた。続けて稲妻を投げようとするがジャグジニアがスナファルデの前を横切り、ホヴァセンシルの手がまた止まる。


「ニア!」

慌てたホヴァセンシルがジャグジニアを捕まえようと腕を伸ばして走り寄る。


 が、近場のスナファルデがすかさずジャグジニアを抱きすくめ、ホヴァセンシルが伸ばした腕を火球で打てば、流石のホヴァセンシルもまともに食らって弾き飛ばされた。火を消すのが精一杯だ。


 ここでいったん勝負がついた。痛む肩を抑えながら、ホヴァセンシルが顔を(しか)めて立ち上がる。衝撃で脱臼したのだろう、右腕がだらりと下がっている。


 当てた手で治癒術を掛けているようだが、大やけどに肩の脱臼だ、痛みに耐えながらではそう巧くはいかない。


「どういうつもりだ?」

スナファルデを睨み付けホヴァセンシルが唸る。


「若造が……わたしを()(くび)るのも大概(たいがい)にしろ。思いあがるな!」

わたしを誰だと思っている? 魔導士ギルドの長だった男だ。あの時、サリオネルトという小生意気なガキを消失させられていれば、今もそうだったはずだ。


「どうした、もう終わりか? それならこちらから行くぞ」

スナファルデが今度は風の(つぶて)を投げてくる。


身代(みのしろ)(のろ)い!)

回避しかけたホヴァセンシルだったが、(つぶて)に掛けらた第二呪文を見抜く。礫は(こぶし)となりホヴァセンシルを殴り続けた。それに一切ホヴァセンシルは抵抗しない。


「ホビス! ホビス!」

スナファルデに捕らえられたまま、ジャグジニアが叫ぶ。


「なぁ、おまえの夫は大したもんじゃないか。瞬時にわたしの呪文を見抜いた。避ければ全ておまえに跳ね返る。だがな、こんな時は、全部おまえに受けさせて、その間にわたしを攻撃すればいいのだ。やはり若いし、甘いな」

ニヤニヤ笑いながら、スナファルデは礫を次々に繰り出し、ホヴァセンシルを甚振(いたぶり)り続ける。


「やめて! やめてーーー!」

ジャグジニアが泣き叫ぶ。

「お願い、ホビスを離して」

「なぜだ? この男はおまえを苦しめた。なのに命乞いをするのか?」


 (あざけ)るスナファルデにジャグジニアが(すが)りつく。

「お願い、彼を助けて」

スナファルデがジャグジニアの瞳を覗きこむ。

「色っぽい顔だ。初めて見た時はほんの小娘だったが」


 危険を感じてジャグジニアがスナファルデから逃れ、ホヴァセンシルに駆け寄ろうとする。が、うかうか逃すスナファルデではない。後ろからジャグジニアを抱きすくめ、今度は耳元で(ささや)いた。

「それがこの四年でいい女になった。あの若造は魔導士としてもなかなかだが、女を仕込むのも巧いようだ」


「ニア、取引は絶対するな」

(かず)れた声でホヴァセンシルが叫ぶ。その横面(よこづら)をスナファルデの礫が殴り付ける。


「言う事を聞けばあの男を助けてやらないでもない。城の外に出して、開放してやろう」

ジャグジニアが首を回してスナファルデの顔を見る。


「本当に?」

「本当だとも……」

スナファルデがジャグジニアの腰に回した手をさらに引き寄せ身体を密着させる。


 そして『どうする?』と言いながら、ジャグジニアの髪の匂いを嗅ぎ、もう片方の手をジャグジニアの胸元に伸ばす。その手にジャグジニアがそっと触れた。

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