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9.「襲撃」

「……ど、どうやったっすか……? ……雷撃を発動したのを……見てから……あんたの位置から……自分の傍まで……往復するだなんて……あんたは……雷のスピードで……光のスピードで……動けるんすか……?」


 自身の雷撃を食らい、俺を見上げながら苦し気に問い掛けるリリレに、俺は答える。


「雷は光の速さじゃない。正確には、光の速さの三分の一の速さだ」

「……同じような……もんじゃないすか……」

「いや、全然違う。光の速さはすごいからな」

「……すごいのは……あんたっ……す……よ……」


 リリレが気を失う。


「よっと」


 ピクピクと痙攣する彼女を場外に落として失格にして、俺は勝利した。


「「「「「おおおお!」」」」」

「アイツ、勇者を倒しちまったぞ!」

「バカ! あの方は、領主さまの御子息だよ!」

「マジか!? 公爵令息最強じゃん!」


 何だか、会場が盛り上がっている。


 基本的に俺は世界最速になりたいだけだ。

 まぁ、今回は金を稼ぐっていう目的もあったけど。

 でも、どっちにしろその二つだけだったから、こうやって盛り上がるだなんて全く期待していなかったけど、悪くないな。


「スピッドさま~! 格好良いです~! 流石です~!」


 ああやって、レイティも喜んでくれるしな。

 俺がレイティに手を振り返していると。


「ケッ! 勇者の癖に負けやがって!」

「何が〝勇者〟だ! 弱い癖に!」


 決して〝ヤジ〟という言葉で片付けてならない侮蔑の声に、俺は声を荒らげた。


「リリレを侮辱するな! 彼女は間違いなく強かった! 準決勝までの対戦相手全員を吹き飛ばした俺の衝撃波が、彼女には全く通じなかったし、そんな最強防御を誇る聖鎧すらも貫通する雷撃を彼女は操れるんだ! 彼女自身の力を利用する方法を俺が思い付かなければ、俺だって彼女に勝てたかどうか分からん。それに、あの雷撃を回避出来る奴なんて、〝速く走ること〟に人生を全て捧げている俺以外にいないだろう。どうなんだ? 俺以外に雷撃を――雷を避けることが出来るような猛者が、この世界にいるのか? 彼女の攻撃を回避出来るような人間がいるのか?」


 俺の叫び声に、観衆は黙り込む。


 沈黙が暫く続いた後。


「「「「「ガアアアアアアア!」」」」」

「うわああああああ!」

「きゃああああああ!」

「モンスターだ!」

「!」


 声につられて空を見上げると、どこから現れたのか、ワイバーンが多数飛んでいるのが確認出来た。

 少し小さめのドラゴンであり、前足の部分が翼になっているモンスターだ。


「ここ、王都だぞ? 一体どうやって……!?」


 ワイバーンは、ドラゴンの中では比較的戦闘能力は低く、炎などのドラゴンブレスも吐かないが、モンスター全体の中ではそこそこ強いためB級ランクに位置づけられるモンスターであり、それが大勢いるとなると、かなり厄介だ。


「えいっ!」

「ギャアアアアア!」


 レイティが跳躍して、襲い来る牙を躱しつつビンタで一匹ずつ倒すが、あまりにも数が多過ぎて、それだけだと足りない。


「「「「「ガアアアアアアア!」」」」」


 パリン


「おっ」


 ワイバーンどもが牙・後足・尻尾で攻撃してくれたおかげで、リリレによって罅割れていた防御魔法が、ガラスが割れるような音と共に粉々に砕け散って、俺たちのいる舞台と観客席を隔てるものが何も無くなった。


「食らえ!」

「「「「「ギャアアアアア!」」」」」


 俺は〝真上〟に向けて足を速く動かして衝撃波を飛ばし、ワイバーンたちを吹き飛ばす。少しすると、気絶した奴らが舞台にドスンドスンと落ちてくる。


 意外と知能が高いのか、それを見たワイバーンたちは、俺の真上にはもう近寄ろうとしない。


「〝真上〟は良いけど、斜め上の奴らを攻撃しようとすると、観客も巻きこんじゃうしな。どうしたもんか」


 恐らく練習すれば上空の敵一匹ずつに対して衝撃波を飛ばす、という芸当も出来るようになるのだろうが、今はまだ無理だ。


 こういう時こそ、遠距離から無数の氷柱を同時に放てる最上級氷魔法『アイシクルレイン』の使い手のロロシィスがいてくれたら良かったのだが。


 彼女は、「絶対に許しませんわ! 覚えておきなさい!」と捨て台詞を吐いて帰ってしまったので、他に空中の敵に対して一対多を得意とする剣士または魔法使いはこの会場内にはいない。


 他の出場者たちは、そもそもどちらかというと剣士の方が多く、遠距離攻撃を得意とする魔法使いたちも、全員一発ずつ撃つタイプの攻撃魔法しか使えず、しかもワイバーンを一発で仕留められるような火力を持つ者はおらず、更に剣士・魔法使い共に、ここまでの戦いで負傷している者もいるので、明らかにあの数のワイバーンを相手にするには、戦力不足。


「一体どうすれば……」

「〝攻撃範囲〟が広過ぎて使い辛いとか、流石、強者の台詞は違うっすね」

「!」


 声に反応して振り向くと、リリレが立ち上がっていた。


「タフだな!」

「いや、我ながらかなり効いたっすよ。まぁ、〝雷〟を食らった訳っすからね」

 

 多少ふらついてはいるものの、これなら戦えそうだ。


「助かった! お前の雷撃なら、遠距離から空中のワイバーンを一匹ずつ仕留められるだろ? みんなを助けてやってくれ!」


 俺の言葉に、リリレは。


「イヤっす」

「!?」


 顔を背けた。

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